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信託で「権利」を分離する 機能ごとに分離して柔軟に活用する方法とは

家族信託

|更新日:2022.11.3

投稿日:2014.01.20

「信託とは何か?」と聞かれたら、私は最近では「権利を分離するためのもの」とシンプルに答えています。

「権利」の代表的なものとして、「所有権」があります。「所有権」とは、あるモノについて、他人にとやかく言われずに、自分の思うように使用したり、誰かに貸したり、管理したり、処分したり、売ってお金に換えたりすることができる権利です。

「所有者」は、その所有しているモノにつき、直接的に、全面的に支配できます。モノに対する万能の権利といっていいものです。

例えば相続の場面。ある人が亡くなり、その人の遺産について相続人間で話し合うことにより、不動産や株式などの「所有権」を誰が承継するかを決めていくことになります。

財産を誰が取得するのか。その前提として、その取得対象はモノについての直接的、全面的な権利である「所有権」です。

この、モノの所有権をバランスよく分けることができればいいのですが、不動産や同族会社株式などが遺産の大半を占めていたりすると、必ずしもうまくいかない場合も多いです。

対象が「所有権」である限り、「誰に取得させるのか」または「させないのか」のどちらかになります。「所有権」は、万能な権利である反面、融通が利かない面があるのです。

モノの活用として、もっと柔軟な方法はないのでしょうか?

例えば、この「所有権」の権能を、分離して利用したりはできないのでしょうか。

つまり、モノの所有権を、「(1)モノの管理や運用を行うことができる権限」と「(2)モノから生じる利益を取得する権限」とに分離してみてはどうでしょうか。

具体的には、不動産の場合なら「(1)その不動産の名義人となり、管理運営していく権限」と、「(2)その不動産から生じる収益を得る権限」とに分けてみるということです。

もしそれが可能ならば、例えば次のようなことが可能になります。不動産を管理運営する立場には、不動産に長けた人、または信頼して任せることができる人にその権限を付与します。そして、そこからの収益金を受ける権限は、将来にわたり経済的に支援していく必要がある人に付与する、ということができます。

また、同族会社の株式の場合なら、こんなふうにしてみたらどうでしょう。「(1)株式の名義人になり、会社の株主として会社の議決権を行使していく権限」と、「(2)剰余金の配当金を受ける権限」とに分けてみるのです。

もしそれが可能ならば、「株式の議決権を行使し、会社の運営に参加し、会社の価値を高めていく権限を有する人」と、「会社からの配当金をもらう人」とを分けることができます。

以上のことを可能にする仕組みが、まさに「信託」なのです。

「信託」により、財産の「所有権」を「(1)名義人となり、管理運用する権限」と「(2)その経済的利益を受ける権限」とに分離します。(1)の権限を取得する立場を「受託者」、(2)の権限を取得する立場を「受益者」といいます。

そして、(1)(2)の立場の帰属や権限内容を決定する、もともとの所有権者のことを「委託者」といいます。

「信託」により、これらの3者の立場を組み合わせて、モノの「所有権」の権能を分離して、柔軟に活用できるようにすることができます。

具体例

事業承継対策を検討している中小企業の社長にとって、将来の相続対策、さらに税対策として、自社株式の承継の問題があるかと思います。

「株価の低い今の時期に自社株式を後継者である息子に贈与しておきたい。」と考えているとします。

しかしながら、この贈与については、社長に不安とリスクがあります。

今、後継者に大半の株式を譲ってしまうと、現社長の会社への影響力が弱まることになります。もしまだ若い後継者が誤った判断をしたときにストップできるようにしておきたい。つまり経営権はしばらく維持しておきたい、と思うかもしれません。

また、世の中、何が起こるか分からないものです。万一、息子が先に亡くなるようなことがあれば、会社の株式は、息子の妻側へと渡ることになります。

このように、生前贈与することには、どうしてもリスクが伴うことになるのです。

「信託」が使えるかもしれません。

自社株式の「所有権」を「信託」により(1)株式の名義人となり、会社の意思決定を行い会社の価値を高め、ひいては株式の価値を高めることの権限と責任を有する立場(受託者)と、(2)会社の価値が高まり、利益を出したときに配当を受ける権限を有する立場(受益者)とに分離します。

そして分離した権限のうち、(1)の会社の意思決定を行う権限は、しばらく現経営者が保有し、(2)の株式からの利益を受ける権限のみを、後継者に持たせます。課税上は、(2)の経済的利益を受ける権限が移ったときに「財産価値」の移転があったものとして取り扱うので、株価の低い時期に後継者へ移しておくという目的は達することができます。

そして将来、例えば「5年後」や「後継者の代表取締役就任時」などのタイミングで「(2)の権限を後継者が取得する」とあらかじめ決めておくことで、現社長の不安とリスクの解消となるかもしれません。

このように「信託」を利用することで、ともすれば硬直的になりがちな「所有権」を、権能ごとに分離して、柔軟に活用できるようになります。

「信託」は、財産や事業の承継の場面において、「その人」、「その時」に的確に対応した準備対策を実現する可能性を秘めているのです。

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石井 満

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