任意後見にかかる費用はいくら?月々の報酬や手続き費用などを解説
成年後見
投稿日:2025.01.22
将来、自分の判断能力が低下したときに備えて、身の回りの環境を整えておくことは重要なことです。
そのようなときに検討する制度が、任意後見制度です。
しかし、任意後見を利用するにはある程度の費用がかかります。「制度を利用したいけど、費用面が気になる」と、悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
この記事では、任意後見の利用にかかる費用を手続きや月々の報酬に分け、わかりやすく解説します。
任意後見制度とは
任意後見制度とは、認知症などで判断能力が低下したときに備えて、財産の管理や契約の代理を行う人をあらかじめ決めておく制度です。
認知症になってしまうと正しい判断ができなくなり、本人では財産の管理が難しくなります。
そこで、損害を被ってしまわないように後見人に財産管理や契約締結の権限を与えておけば安心です。
親の今後を考えて子が後見人になったり、子がいない場合は親族に任せたりします。
親族に迷惑をかけたくなければ、弁護士や司法書士などの専門家に後見人を依頼するのも良い方法です。
本人の判断能力がまだ十分にあるうちに、信頼できる人を選んで後見人を決めておくと良いでしょう。
判断能力がなくなってしまってからでは、本人の希望する後見人を指名できず、誰がなるかは家庭裁判所によって決められます。
そのため、子や親族が後見人になれない可能性もあるので、判断能力があるうちに手続きをしなければなりません。
任意後見制度は事前に本人の意思で後見人を決められるので、将来に備えておくと安心な制度です。
【判断能力があるとき】任意後見制度の利用にかかる費用
任意後見制度は、本人の判断能力があるうちに最初の手続きを済ませます。
その際にかかる費用について解説します。
任意後見契約の公正証書作成にかかる費用
任意後見制度を契約するには、公正証書の作成が必須です。
まずは自分で作成手続きをしたときの費用を見ていきましょう。
作成の基本手数料 | 11,000円 (5枚目以降はさらに1枚ごと250円追加) |
---|---|
登記嘱託手数料 | 1,400円 |
法務局へ納付する印紙代 | 2,600円 |
交付する証書代 | 1枚ごと250円 |
交付する正本等の証書代 | 5枚目以降は1枚ごと250円追加 |
書留郵送料 | 420円(重量により異なる) |
出張費用(必要な場合のみ) | 日当:1日なら2万円、4時間以内なら1万円 交通費:実費 病床執務加算:5,500円 |
自分で公正証書の作成をした場合にかかる費用は、合計で2~3万円程度です。
また、公証役場に足を運べない場合は公証人に出張を依頼することができ、その際には出張費用がかかります。
病床に出張すると病床執筆加算として、基本手数料の半額である5,500円も加わります。
任意後見契約書の作成を専門家に依頼したときの費用
弁護士や司法書士などの専門家に任意後見契約書の作成を依頼することもできます。
その際にかかる費用は5~15万円程度が相場です。
一般的に司法書士よりも弁護士のほうが費用が高い傾向にあり、20万円前後かかることも珍しくありません。
契約の内容や財産の状況、依頼する事務所によっても費用は変動します。
決めごとや契約に入れる事項が多いほど料金が加算される可能性もあります。
自分で作成するよりも費用はかかりますが、間違いなく作成してもらえるので、後からやり直す手間やトラブルを防げるでしょう。
【判断能力低下後】任意後見開始にかかる費用
本人の判断能力が低下したと認められたら、任意後見を開始させます。
その際にかかる費用を解説します。
任意後見監督人の申立ての手続き費用
本人の判断能力があるうちに公正証書を作成しておき、その後判断能力が低下したら「任意後見監督人の選任申立て」を行います。
任意後見監督人とは、後見人が不正なく財産管理をできているか監督する役目の人です。
申立てにかかる費用は、以下の通りです。
申立ての手数料 | 800円分の収入印紙 |
---|---|
登記の手数料 | 1,400円 |
必要書類(戸籍謄本や診断書など) | 3,000~10,000円 |
連絡用の郵便切手代 | 申立てする家庭裁判所へ確認 |
自分で申立てをすると合計で1万円前後かかります。
状況によっては家庭裁判所の判断で、本人の精神状態について鑑定が必要といわれることがあります。
そのときの鑑定費用は別途で申立人の負担となり、鑑定費用は内容によって差がありますが、およそ5~10万円程度です。
鑑定が必要ない場合でも、判断能力が低下したことが証明できる医師の診断書が必要となります。
任意後見監督人の申立ての手続き代行費用
任意後見監督人選任の申立てを弁護士・司法書士などの専門家に依頼をした場合は、10~15万円程度の報酬が相場です。
申立ての代行も公正証書の作成同様に司法書士より弁護士のほうが高くなる傾向にあります。
本人の判断能力が衰えてしまった際には、介護サービスの契約や銀行口座からの費用の出金など、後見人が代理で対応する必要があります。
後見人の業務がすぐに開始されないと日常生活に不便が生じるため、申立てを急ぐケースも少なくありません。
忙しくて時間が取れない場合や手続きを迅速に進めたい場合は、専門家に代行を依頼するのがおすすめです。
杠(ゆずりは)グループでは、任意後見監督人の申立て手続き代行を行っています。
申立てが必要な方は専門家のサポートを活用し、効率よく手続きを進めるのが得策です。
任意後見人への報酬
任意後見人は、子や親族が務める場合と、弁護士や司法書士などの専門家に依頼する場合があります。
子や親族であれば報酬の支払いは強制ではなく、当人同士の話し合いで決められます。
無償で行うケースも多く、支払いをする場合でも月額1~3万円程度になることが多いです。
一方、専門家が後見人となった場合には必ず報酬の支払いが必要です。
報酬額は月額3~5万円程度が相場ですが、選ぶ専門家によってはさらに高額になることもあるため、事前に確認しておきましょう。
1回限りではなく、任意後見をしている間は毎月の支払いとなる点に注意です。
決めた報酬額は支払い方法なども含め、後からトラブルにならないよう任意後見契約書に記載をしておきます。
任意後見監督人への報酬
任意後見監督人は専門家が選任されるケースが多く、専門家へ支払う報酬が必要です。
報酬額は家庭裁判所によって決められ、管理する財産の金額や業務の範囲で異なります。
報酬には2種類あり「基本報酬」と「付加報酬」に区別されます。
基本報酬は、日常的な監督業務に対して毎月支払われるものです。
一方、付加報酬は通常の業務範囲を超えた特別な業務を行った際に支払われます。
たとえば、付加報酬に該当する業務としては、本人と任意後見人の利益が相反しているときに、任意後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加するなど、専門的な判断や交渉を伴う場合が挙げられます。
それぞれの報酬の目安は、以下の通りです。
基本報酬 | 管理財産額が5,000万円以下:1~2万円(月額) 管理財産額が5,000万円超 :2万5千円~3万円(月額) |
---|---|
付加報酬 | 基本報酬の50%以下の範囲内で支払われる |
任意後見監督人が親族から選任されるケースはほぼないので、専門家に支払う報酬が必要と覚えておきましょう。
任意後見制度を利用する流れ
任意後見制度は最初の手続きから段階ごとに進んでいきます。
本人に判断能力があるうちに済ませなければならない手続きもあるため、手遅れにならないよう事前に流れを把握しておくと安心です。
どのような流れで利用するのかを見ていきましょう。
1.【判断能力があるとき】任意後見受任者を決定する
まずは「任意後見受任者」を決めるところから始めます。
「任意後見受任者」はいずれ被後見人の判断能力が低下し、効力が開始すると「任意後見人」となりますが、ここでは「任意後見受任者」と呼びます。
任意後見受任者は親族に限らず特別な欠格事由がなければ誰でもなることが可能です。
信頼のできる友人や専門家などを選ぶこともでき、法律が本人の意思を制約しないように決められています。
そのため、任意後見制度を利用するには、本人に判断能力がある早めの時期に手続きを行わなければなりません。
判断能力が低下してからでは本人の意思で任意後見受任者を選べず、家庭裁判所の判断によって選ばれることになります。
制度の利用を考えている場合は、早めに手続きに取りかかる必要があります。
まずは任意後見受任者の決定を行いましょう。
2.どの範囲で支援してもらうか内容を決める
判断能力の低下後に、どこまでの範囲を任せるかを双方で取り決めます。
任意後見受任者は被後見人の意思を尊重して、本人の生活が良好に行えるように配慮する必要があります。
事前に本人の意向を確認しておき、判断能力の低下後に預貯金や不動産の扱いをどうするかを決めておくとよいでしょう。
任意後見受任者に任せる内容として、以下のような業務があります。
- 預貯金の払い戻しや解約
- 税金・保険料・光熱費などの定期的な支払い
- 不動産・車の管理や処分
- 親族での遺産分割協議の代理
- 介護サービスや医療行為などの契約締結
- 賃貸契約や必要なサービスの契約締結
これらのなかで一部を任せるのか、全てを任せるのか取り決めをして、契約書に記載をしなければなりません。
また、近くに親族がいない場合には、定期的に電話や訪問で様子を見に来てくれる「見守り契約」というものを利用するのも良いでしょう。
本人が自分自身の認知症が進んでいることに気づけないケースもありますが、見守り契約で定期的な面談を行っていれば変化に気づけます。
さらに、亡くなった後の葬儀の支払いや届け出などの手続きを代行してくれる「死後事務委任契約」もあります。
親族のいない方や迷惑をかけたくない方は「見守り契約」や「死後事務委任契約」をセットで契約するのも選択肢の一つです。
任意後見制度と併せて専門家に依頼できます。
3.任意後見契約を締結する
どこまでの範囲を任意後見受任者に任せるかが決まったら、公正証書で任意後見契約を締結します。
任意後見契約は私文書では効力を生じないため、必ず公証役場で公証人に作成してもらったものを残さなければなりません。
本人の判断能力があるうちに済ませておく手続きは、任意後見契約の締結までです。
自分で手続きを行う方法と、弁護士や司法書士に依頼して行う方法があります。
契約の締結完了後は、本人の判断能力が衰えてから進める手続きとなるので、この先の手続きまでしばらく期間があくケースが多いでしょう。
4.【判断能力低下後】任意後見監督人の申立てをする
本人の判断能力が低下したら、任意後見を開始させるために「任意後見監督人の選任申立て」を行います。
任意後見監督人は後見人の業務を監督する役割があり、選任をしないと任意後見受任者は管理業務を始められません。
選任申立てをすると、家庭裁判所によって弁護士や司法書士の中から任意後見監督人が選ばれます。
申立てができるのは、本人以外に配偶者や四親等以内の親族、任意後見受任者です。
判断能力の低下は周囲の人から見た自己判断だけではなく、証明するための医師の診断書が必要になります。
選任申立ては本人の判断能力が低下してから手続きを行います。
5.任意後見監督人の選任後、仕事を開始する
任意後見監督人が選任されると、任意後見人の業務開始です。
この時点で「任意後見受任者」から「任意後見人」へと呼び名が変わります。
任意後見人は契約で決められた権限での支援を行い、任意後見監督人は後見人の業務を監督していきます。
本人又は後見人が死亡や破産するまでが業務期間です。
任意後見を途中でやめることはできる?
何かしらの事情があり、任意後見を途中で辞めたいときには辞退ができます。
任意後見監督人が選任される前とされた後では契約解除の条件や方法が異なる点に注意しましょう。
任意後見開始前
任意後見監督人の選任前であれば、いつでも契約解除ができます。
双方の同意、または本人か任意後見受任者のどちらか一方の意思でも解除が可能です。
双方の同意のもとなら、作成した書面に契約解除の意向を記載し、双方が署名・捺印をすることで契約終了となります。
ただし、当人の間だけでの手続きではなく、必ず公証役場での手続きが必要です。
どちらか一方の意思による契約解除であれば、公証役場で発行される解除通知書を相手へ内容証明郵便で送ります。
相手に通知書が届いたことが確認ができたら、契約終了の登記を申請します。
契約解除の理由の記載などは特に必要ありません。
双方の同意、または一方の意思、どちらのケースであっても公証役場での手続きに5,500円がかかります。
任意後見開始後
任意後見監督人が選任された後に契約解除をするには、家庭裁判所に認められる正当な理由がなければできません。
任意後見監督人が選任されているということは、本人の判断能力がすでに衰えていて、別の任意後見人を自分の意思で選べないためです。
簡単に解除してしまうと、当初の本人の意向にそぐわなくなり、利益を守れなくなってしまいます。
正当な理由として認められるものをいくつか例に挙げてみましょう。
- 任意後見人の健康状態が悪く管理が難しい
- 任意後見人が認知症になり判断能力がなくなった
- 遠方へ引っ越すため距離が遠くなり管理ができない
このようなやむをえない事情で解除が受理されることがあります。
家庭裁判所では本人に不利益を与えないため慎重に審査を行うので、任意後見監督人の選任後は、正当な理由がある場合のみ解除可能です。
任意後見制度を検討している方は司法書士に相談を
任意後見制度は残された家族にとっても、将来が不安な本人にとっても安心を得られる制度です。
認知症になった後に信頼できる後見人がいれば、自分の利益を守りながら適切に財産管理をしてもらえます。
制度を利用するには、最初の公正証書の手続きからいくつか段階を追って進めていきます。
書類の作成や申立てなど法律に不慣れな方では難しい面もあり、時間の確保ができなければ手続きを進められません。
手続きや時間の確保が難しい方は、司法書士に相談することを考えても良いでしょう。
プロに任せれば間違いが起きることもなくスムーズに進み、自分の時間を手続きに割く必要がありません。
任意後見制度を検討している方は、ぜひ一度杠(ゆずりは)司法書士法人にご相談ください。
本人や家族にとって安心できる将来を提案できるようサポートいたします。
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