
相続で印鑑証明はなぜ必要?取得方法や渡したくないときの対処を解説
相続
投稿日:2025.06.23
相続の手続きをする際に印鑑証明が必要になる場面は多くあります。
しかし「なぜ印鑑証明が必要?」「家族に渡すのは不安だけど、断ることはできるの?」など、疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、相続で印鑑証明が必要な理由を解説するとともに、取得方法や渡したくないときの対処についても詳しく紹介します。
目次
印鑑証明とは登録印鑑が本人のものであることを示す書類
印鑑証明の正式名称は「印鑑登録証明書」といいます。
市区町村の役場に登録された印鑑(実印)が、登録者本人のものであると証明する公的書類です。
印鑑証明が求められる場面として、以下があります。
- 相続手続き
- 不動産の売買
- 自動車の購入
- ローンの契約
印鑑登録証明書には登録した本人の氏名・住所・生年月日・性別などが記載されており、発行した自治体の証明印も入っているので、本人確認書類としても使えます。
登録した印鑑は実印と呼ばれ、実印と印鑑登録証明書とセットで取り扱われます。
「本人の意思で実印を押した」という事実を証明するための重要な書類です。
印鑑証明書と印鑑登録カードの違い
印鑑登録を行うと「印鑑登録カード」というカードが発行されます。
このカードがなければ印鑑登録証明書の発行ができなくなってしまうので、大切に保管しておく必要があります。
ただし、印鑑登録カードは印鑑証明の代わりにすることはできないので注意が必要です。
それぞれの違いは、以下のとおりです。
書類名 | 違い |
---|---|
印鑑登録証明書 | 登録された実印が本人のものであると証明する書類 |
印鑑登録カード | 印鑑登録をしたという事実を証明するカード |
印鑑証明書と印鑑登録カードは、名前はよく似ていますが、役割がそれぞれ違うことを覚えておきましょう。
市区町村役場かコンビニで取得
印鑑証明は市区町村役場や出張所などの窓口で取得できますが、住民登録地以外のほかの市区町村では対応していません。
ただし、マイナンバーカードを持っていれば、全国各地のコンビニエンスストアの端末からも取得することができます。
証明書発行に必要な書類は、以下のとおりです。
- 印鑑登録証のカード
- 窓口に来た人の本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど)
- 交付手数料
代理人による発行も可能ですが、印鑑登録している人の氏名・住所・生年月日を正確に記入することが必要です。
必要書類や運用ルールは自治体ごとに異なることがあるので、事前によく確認しておくことをおすすめします。
相続で印鑑証明が必要になる場面
相続手続きをする際には、さまざまな重要書類の作成や本人確認が必要になります。
以下では、相続において印鑑証明が必要とされる場面を解説します。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書とは、相続人全員が合意した遺産分割の方法や割合をまとめた書類です。
遺言書に記載されていない財産が発覚した場合や、法定相続分とは異なる割合で遺産分割を行う場合に作成されます。
遺産分割協議書に決まったテンプレートはありませんが、相続人全員の署名と実印による押印が必要です。
この実印を証明するために、全員分の印鑑証明書を添付します。
不動産の相続登記
不動産の相続には、名義を変更する相続登記の手続きが必要です。
法定相続による相続登記に印鑑証明は必要ではありませんが、遺産分割協議書に基づいて相続登記を行う場合は、印鑑証明書の提出が求められます。
「法定相続とは異なる割合で遺産分割を行ったことに相続人全員が同意した」という証明のために必要です。
生命保険の請求
死亡保険金や自賠責保険の請求において、実印の押印と印鑑証明の提出を求められることがあります。
どのような条件で提出が求められるかは保険会社によって異なりますが、受取人が複数指定されている場合など、本人確認のために実印と印鑑証明が必要です。
相続税の申告時の押印は原則不要
令和3年度に行われた税制改正により、相続税申告書への押印は原則不要になりました。
遺言書がある場合、相続人が1人の場合は印鑑証明を提出する必要はありません。
ただし、相続税の申告時には遺産分割協議書と印鑑証明の添付が求められるため、実印が必要です。
印鑑証明を取得する際のポイント
相続手続きにおいて印鑑証明は欠かせない重要な書類ですが、取得する際には気を付けるべきポイントがあります。
重要なポイントを2つ解説します。
印鑑証明書の枚数は3通程度を目安に準備する
相続手続きで印鑑証明が必要になるのは、遺産分割協議書や不動産の相続登記、生命保険の請求などです。
手続きで提出した印鑑証明書は返却されることもあるので、場合によっては使い回すことも可能でしょう。
相続関係で問題がなければ、3枚用意しておけば十分足りることがほとんどです。
事前に多めに用意しておきたくなるものですが、印鑑証明は本人確認書類としても使われる重要なものです。
トラブルや犯罪を防止するという意味からも、必要最低限の枚数に留めておくことをおすすめします。
印鑑証明の有効期限が定められている場合がある
印鑑証明そのものには、有効期限が定められていません。
ただし、金融機関や保険会社に印鑑証明を提出する場合は「被相続人(亡くなった人)の死亡日以降に発行されたもの」かつ「発行から6か月以内」という条件がつけられるケースが多くみられます。
相続税の申告期限が亡くなってから10か月以内と定められていることもあり、亡くなってすぐに取得した印鑑証明でも期限内におさまっているケースがほとんどです。
ただし、何らかのトラブルで手続きが途中でストップしてしまったケースなど、取得から時間が経っている場合は有効期限を過ぎてしまう可能性もあります。
提出前に取得日をよく確認して、場合によっては再度印鑑証明を取り直すことも検討しましょう。
印鑑証明を持っていない人はどうすれば良い?
印鑑証明を持っていない人は、居住地の市区町村役場で印鑑登録を行う必要があります。
これまでに印鑑登録をしたことがない方でも、相続手続きが始まる前に登録を済ませておけば問題ないでしょう。
しかし、さまざまな事情で印鑑の登録を受けることができない場合はどのようにすれば良いのでしょうか。
以下では、相続人が印鑑証明を持っていない場合の対応について解説します。
相続人が未成年者の場合
18歳未満の未成年者は法的に「制限行為能力者」とされ、法的行為能力が制限されています。
15歳以上であれば自分の意思で印鑑登録を行えますが、相続は法律行為にあたるため、18歳未満の相続人には代理人が必要です。
未成年者が相続人になる場合は、親権者か未成年後見人が法定代理人となって相続手続きを行うのが一般的な方法です。
このケースでは法定代理人の印鑑証明を手続きに用いるので、未成年者の印鑑証明を用意する必要はありません。
ただし、本人と親権者(未成年者後見人)が同じ相続の相続人になっていると、利益相反が生じるため取り扱いが異なってきます。
たとえば、父親が亡くなって、配偶者(子どもの母親)と未成年の子どもが遺された場合、母子で2分の1ずつ財産を分割することになります。
このとき母親と子どもは共同相続人となり利益相反が生じるため、母親は子どもの法定代理人になることができません。
親権者が法定代理人になれないときは、家庭裁判所に申し立てて特別代理人を立てる必要があります。
特別代理人には利益相反が生じない親族や弁護士、司法書士などが選任されることがほとんどです。
この場合も必要なのは特別代理人の印鑑証明だけで、相続人である未成年の子どもの印鑑証明は必要ありません。
相続人が海外に在住している場合
印鑑証明を取得できるのは現住所を日本に置いている人だけで、海外に在住している人は対象になりません。
相続人が海外に在住している場合、印鑑証明に代わる本人確認書類としてサイン(署名)証明書を取得する必要があります。
サイン証明書とは署名や拇印が本人のものであると証明する書類で、大使館や領事館で取得することができます。
印鑑が存在しない国では重要な契約や法律行為に署名を用いるため、サイン証明は本人確認書類として重要な位置を占めるものです。
海外在住の方がサイン証明書を取得する際の必要書類は、以下のとおりです。
- 署名証明申請書
- 遺産分割協議書など署名が必要な書類
- 申請者の旅券
- 滞在資格を証明できる書類
これらを大使館や領事館に提出したうえで領事の面前でサインを行い、本人である証明書を発行してもらいます。
サイン証明書には遺産分割協議書などにサインをしたうえで証明書を綴じこむ形式と、証明書を単独で発行する形式の2通りがあります。
提出形式を指定されることもあるので、事前によく確認しておくことが大切です。
役所に行くことができない場合
印鑑の登録を行っていないが、病気などのやむを得ない事情で役所へ出向くことができない場合は代理人が印鑑証明の取得手続きを行うことも可能です。
必要書類と委任状を添えて各市区町村の役場に申請しますが、即日での取得はできません。
書類を提出したあと、後日送られてくる照会書に同封されている書類に必要事項を記入したうえで、再度役所に出向き書類を提出します。
合計2回役所に出向く必要があり、取得まで時間がかかるので十分な余裕をもって進めることをおすすめします。
相続時に印鑑証明を悪用されるリスク
印鑑証明は重要な契約や取引、法律行為に使用される重要な本人確認書類です。
悪意を持った人間の手に渡ることで、思いがけないトラブルや犯罪に巻き込まれる可能性があります。
相続手続きには煩雑な手順も多いことから、ほかの相続人から「代わりにやっておいてあげるよ」と言われると、つい実印と印鑑証明を渡してしまいそうになりますが、ほかの相続人が自由に使える状態で実印と印鑑証明の両方を渡すのは避けるべきです。
実印が押印された書類に印鑑登録証明書が添付されていた場合、それがどのような状況で押印されたものであっても、本人の意思であるという証明になってしまいます。
印鑑証明を悪用されるリスクを避けるためには、以下のような対策を取るのも有効です。
- 印鑑証明は必要以上持たず、都度取得する
- 遺産分割協議書や必要な書類への押印は相続人全員が集まり、自身の手で行う
- 実印と印鑑証明は別々の場所に保管する
印鑑証明を渡したくないときの対処法
印鑑証明を不用意に渡してしまったことで生じる相続トラブルは、解決が難しいだけでなく、後々の親族関係にも深い溝を残すものです。
印鑑証明を渡さずに相続手続きを進めていく方法を2つ解説します。
自分が代表相続人になる
自分が代表相続人となり、相続手続きの中心に立って進めていく方法です。
ほかの人に手続きを委ねることがないので、印鑑証明を悪用されるリスクがなくなります。
ただし、煩雑な相続手続きを行わなければならないので、時間や手間がかかるのがデメリットといえるでしょう。
ある程度自由に使える時間があって、事務手続きに慣れている方におすすめの方法です。
司法書士に手続きを代行してもらう
法律の専門家である司法書士に依頼して、相続手続きを代行してもらう方法です。
司法書士という第三者に書類を預けられるので、他人の書類を預かるリスクも悪用されるリスクもなくなります。
また、司法書士に手続きを代行してもらえるので、誤りなく相続が進められるというメリットも。
費用はかかりますが、安全かつ時間や手間を大幅に節約できる方法といえるでしょう。
相続でお困りの方は杠(ゆずりは)司法書士法人まで
印鑑証明は「本人の意思で押印した」ことを証明する重要な本人確認書類です。
相続手続きにおいても欠かせない書類ですが、それだけに取り扱いには細心の注意を払う必要があります。
杠(ゆずりは)司法書士法人は、相続のプロとして、相続問題に悩む多くの方をサポートしてきました。
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