
株式を相続する方法|手続きの流れや分割方法、注意点について解説
相続
投稿日:2025.03.25
相続財産に株式が含まれるものの、どのように手続きを進めれば良いかわからない方は多いのではないでしょうか。
株式の相続には、評価額の算定や相続人同士での分割、名義変更など、いくつかの重要なステップがあります。
場合によっては、税負担が大きくなったり損失を被ったりする可能性もあるため、慎重な対応が必要です。
この記事では、株式を相続する流れや分割方法、評価の仕方などについて詳しく解説します。
目次
株式を相続する流れ4ステップ
株式は、次のような流れで相続の手続きを進めます。
- 相続人や相続財産を把握する
- 遺産分割協議を行う
- 株式の名義変更を行う
- 相続税を申告・納付する
それぞれの手続きについて詳しく解説します。
ステップ1:相続人や相続財産を把握する
まずは、株式などの遺産を引き継ぐ権利をもつ相続人と、被相続人が所有していた財産を明らかにします。
相続人を知るためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得しましょう。
被相続人が所有していた株式は、被相続人の郵便物や通帳の履歴などから推察し、取引していたと考えられる証券会社に問い合わせて確認します。
証券会社に必要書類を提出すると発行してもらえる「残高証明書」を確認すれば、被相続人が保有していた株式や残高がわかります。
以下の書類を提出して、残高証明書を取得しましょう。
- 被相続人が亡くなったことがわかる書類(戸籍謄本、除籍謄本)
- 申請者が相続人であることがわかる書類(戸籍謄本など)
- 申請者の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- 申請者の実印と印鑑証明書
- 金融機関所定の残高証明書発行依頼書
また、被相続人が取引していた証券会社が分からない場合は、「証券保管振替機構(ほふり)」に問い合わせる方法があります。
証券保管振替機構とは、証券会社から預かった株式などの有価証券を管理する機関です。
この機関に登録済加入者情報の開示請求を行うと、取引していた証券会社を特定できます。
ステップ2:遺産分割協議を行う
遺言書があれば、その内容に従って相続を行います。
しかし、遺言書がない場合は遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議とは、相続人全員が集まって行う、遺産の分け方や割合を決める話し合いです。
協議の内容に全員が合意したら遺産分割協議書を作成し、各相続人が署名、押印します。
ステップ3:株式の名義変更を行う
株式を相続する人が決まれば、株式の名義変更手続きを行います。
相続人が証券口座を持っていない場合、まずは口座を開設しましょう。
口座を開設したら、以下のような書類を用意して、証券会社で株式の名義変更を行います。
- 証券会社所定の名義変更依頼書
- 被相続人の戸籍謄本または法定相続情報一覧図
- 相続人の戸籍謄本または法定相続情報一覧図
- 遺言書または遺産分割協議書の写し
- 相続人全員の印鑑証明書
必要書類は証券会社により異なるため、事前に問い合わせて確認してください。
なお、書類を提出してから株式の名義変更が完了するまでは約1か月程度かかります。
ステップ4:相続税を申告・納付する
相続税の申告と納付の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。
被相続人が亡くなった時点での住所地を管轄する税務署に、申告書を提出します。
また、原則として現金で一括して納付します。
相続税の納付方法は、次のとおりです。
- 銀行などの金融機関や郵便局
- 税務署
- クレジットカード
- コンビニエンスストア
- ダイレクト納付
- インターネットバンキング
- キャッシュレス決済
ダイレクト納付とは、e-Taxを利用して納付する方法です。
相続税申告にe-Taxを利用する場合は便利ですが、使用開始には手続きが必要です。
少額であれば、クレジットカードやコンビニエンスストア、キャッシュレス決済でも手軽に納付できるので、利用を検討してみましょう。
相続した株式を分割する方法
株式の分割方法には、次の3種類があります。
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
それぞれの分割方法を理解して、適したものを選びましょう。
現物分割
現物分割とは、株式を換金せずにそのまま相続する方法です。
たとえば、3種類の株式を種類ごとに3人で分けたり、1,500株の株式を3人で500株ずつ分けたりする方法があります。
1,500株をAさんが600株、Bさんが500株、Cさんが400株と分けてもかまいませんが、後のトラブルを避けるため、できる限り数で平等に分けるのが一般的です。
代償分割
代償分割とは、株式を1人の相続人が引き継ぎ、その人がほかの相続人に代償金を支払う方法です。
たとえば、3人の兄弟がいて1,500万円分の株式を長男が引き継ぐ場合、弟2人に500万円ずつの代償金を支払います。
このとき3人は500万円ずつ、公平に相続できることになります。
代償分割のメリットは、将来の値上がりが期待できる株式を保有し続けられることですが、一方で、代償金の支払いに多額の現金が必要になることがデメリットです。
換価分割
換価分割とは、株式を売却し、その代金を相続人の間で分ける方法です。
売却代金の分け方は遺産分割協議により自由に決められますが、一般的には法定相続分に従って分けられます。
相続人全員が株式の所有に関心がない場合や、株式を現金化して相続をスムーズに進めたい場合には、換価分割がおすすめです。
相続した株式の評価方法
株式を相続する際はその評価額を把握する必要がありますが、株式は常に価格が変動するため、相続における評価方法が定められています。
ここでは、相続した株式を評価する方法について解説します。
上場株式の場合
上場株式は次の4つの価格のうち、最も低いもので評価されます。
- 被相続人が亡くなった日の終値(最終価格)
- 被相続人が亡くなった月の毎日の終値の平均額
- 被相続人が亡くなった前月の毎日の終値の平均額
- 被相続人が亡くなった前々月の毎日の終値の平均額
証券会社で残高証明書を発行してもらう際に、相続が発生したことを伝えると、上記の価格を提示してくれる場合があります。
また、東京証券取引所のウェブサイトなど、インターネットで確認することも可能です。
相続した株式に複数の銘柄があれば、銘柄ごとに評価を行います。
非上場株式の場合
非上場株式は証券取引所に上場されていないため、客観的な評価が難しいことが特徴です。
したがって、次の3種類の方法のいずれかで価格を評価します。
- 純資産価額方式
- 類似業種比準方式
- 配当還元方式
どの方式を選ぶかは、企業の規模により異なります。
非上場株式の評価方法は複雑であるため、税理士等の専門家に確認するのがおすすめです。
株を相続する際に株式と現金はどちらがお得?
相続した株式を株のままで相続する場合と、売却して現金で受け取る場合では、どちらの方が得になるかは状況により変わります。
株式のままで相続すると、将来的に株価が上がり資産価値が増える可能性があり、さらに配当金を受け取れることがメリットです。
しかし、株式は常に値動きしており、値下がりすると資産価値が減少するリスクがあります。
一方で、現金で受け取るとすぐに活用できて、遺産分割しやすくなることがメリットです。
ただし、株式の売却時には譲渡所得税がかかる点に注意が必要です。
一概にどちらが得になるとはいえませんが、投資の知識や経験が豊富な人は、株式におけるリスクを軽減できる可能性があります。
反対に、投資に慣れていない人は、現金化して安定した資産運用をするほうが良いでしょう。
相続した株式を売却する方法
相続した株式を現金化したい場合は、株式を売却しなければなりません。
株式を売却する方法は以下のようなケースによって異なります。
- 相続人が個別に株式を売却する場合
- 株式を一括売却する場合
- 非上場株式を売却する場合
それぞれ詳しく解説します。
相続人が個別に株式を売却する場合
相続した株式を売却するには、株式の名義変更が必要です。
証券口座を開設し、証券会社に必要書類を提出して、株式の移管手続きを行います。
手続きが完了すれば、株式の所有権は各相続人に移るため、それぞれが自由に株を売却できるようになります。
株式を一括売却する場合
株式を相続しても全員がすぐに売却するのであれば、一括で売却し、現金を分割する方法もあります。
まずは代表となる相続人を決め、ほかの相続人はその人に委任状を提出して、株式売却を委任しましょう。
次に代表相続人が相続した株式の移管手続きを行い、名義変更した後に株式を売却します。
遺産分割協議では、この売却代金の分割方法も話し合っておきましょう。
非上場株式を売却する場合
非上場株式は証券取引所で売買できないため、相続人が買い手を探さなければなりません。
ただし、非上場株式は譲渡制限により、自由に売却できない場合が多くあります。
譲渡制限の有無や詳細は、株式を発行している会社に問い合わせることが大切です。
また、企業によっては相続などにより株式の保有者が変更されたときに、発行会社に株式を売り渡すように定めている場合もあります。
このような規定があれば、それに従って企業に株式を買い取ってもらいましょう。
相続した株式の注意点
株式を相続する際は、以下のような注意点があります。
- 利益が発生している場合、準確定申告が必要になることがある
- 未受領配当金には時効がある
- 売却のタイミングによって損をする可能性がある
- 売却益に税金がかかる
思わぬ不利益を被らないように、事前に把握しておきましょう。
利益が発生している場合、準確定申告が必要になることがある
被相続人の生前の株取引で利益が発生していた場合、「準確定申告」を行わなければなりません。
準確定申告とは、被相続人の代わりに行う確定申告のことです。
準確定申告の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日から4か月以内であるため、早めに手続きを進める必要があります。
未受領配当金には時効がある
被相続人が生前に受け取っていない配当金がある場合、相続手続きを行うことで、相続人はその「未受領配当金」を受け取れます。
ただし、未受領配当金には受け取り期限があります。
期限は企業ごとに設定されており、3〜5年と定められていることがほとんどです。
期限を過ぎると配当金を請求できなくなるため、早めに受け取り手続きを行いましょう。
売却のタイミングによって損をする可能性がある
株式の価格は常に変動しているため、「早く現金化したい」との考えから焦って売却すると、損をする可能性があります。
できるだけ損をせずに売却するには、企業の業績や株価の動向を分析したり、市場の状況を確認したりして、適切な時期を選ぶことが大切です。
売却益に税金がかかる
相続した株式を売却して利益が発生すると、相続税とは別に利益に対して譲渡所得税がかかります。
この利益は、次の計算式で求められます。
売却益=売却金額ー売却手数料ー取得費
取得費は、被相続人が株式を取得した金額であり、相続人が取得した時点の評価額ではないことに注意してください。
納税額は、上記の売却益に譲渡所得税の税率である20.315%をかけて算出します。
なお、相続税の申告期限から3年以内に株式を売却すると、相続税を取得費に加算できる「取得費加算の特例」を利用できます。
株式の売却益にかかる譲渡所得税の負担を抑えられる制度なので、適用できる場合はぜひ活用しましょう。
株式の相続に関するよくある質問
ここからは、株式の相続に関してよくある質問に回答します。
場合によっては税負担が増えたり、損をしたりすることもあるため、よく確認しておきましょう。
株式を相続した場合の名義変更はいつまでに行う必要がある?
相続により取得した株式の名義変更には、明確な期限がありません。
ただし、相続税の申告と納付は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内という期限が定められています。
相続税の申告期限を過ぎると「無申告加算税」が、納付が遅れると「延滞税」が加算される可能性があります。
相続税の申告と納付が期限内に完了するように、株式の名義変更手続きも早めに進めましょう。
相続後数年経ってから株券が見つかった場合、相続税の申告は必要?
原則として、相続税申告の時効は5年とされています。
したがって、相続税の申告期限から5年以上経過していれば、相続税を申告しなくてもペナルティが課されることはありません。
ただし、財産を隠したり虚偽申告をしたりと脱税行為があった場合、時効は7年に延長されます。
一方で、株券が見つかったのが相続税の申告期限から5年以内であれば、相続税の申告が必要です。
通常は、相続税の申告が本来の税額よりも少なければ「過少申告加算税」の対象になります。
しかし、税務署に指摘される前に申告すれば、過少申告加算税の対象にはならないため、早めに申告しましょう。
株式の相続手続きを行わずに放置すると?
被相続人が所有していた株式をそのまま放置した場合、最終的に株式の権利が消滅する可能性があります。
株式を放置して、株式の名義が被相続人のまま変更されなければ、相続人は配当金を受け取れません。
さらに、配当金が受け取られない株式は「株主所在不明」として扱われ、株式が競売で売却されたり、企業に買い取られたりすることがあります。
所定の手続きを行えば売却代金を取り戻せますが、そのまま放置すると売却代金も請求できなくなり、株式の権利が消滅します。
被相続人が遺した資産を無駄にしないためにも、きちんと相続手続きを行いましょう。
株式の相続に関するお悩みは専門家に相談しよう
株式を相続する際には、名義変更や相続税の申告など、さまざまな手続きが必要です。
また準確定申告や未受理配当金など、株式ならではの注意点もあります。
株式は預貯金とは異なり、価格が常に変動するため、評価方法や分割方法で悩むこともあるでしょう。
株式の相続にお困りの方は、専門家に相談するのがおすすめです。
杠(ゆずりは)司法書士法人は相続の専門家として、相続に関するあらゆるお悩みの解決をサポートしています。
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