
遺産分割協議書は自分で作成できる?作る際のポイントやリスクを徹底解説
相続
投稿日:2025.05.28
相続で遺産分割協議書が必要となり、作成をご自身で行おうと考える方もいらっしゃるでしょう。
遺産分割協議書は相続において重要な書類であり、後々のトラブル防止や手続きのために必要です。
作成するには決められた内容を漏れなく記載しなければなりません。
この記事では、遺産分割協議書をご自身で作る方法や作成のポイント、リスクなどを解説します。
ご自身で正しい作成をするためにお役立てください。
目次
そもそも遺産分割協議書は自分で作成できるの?
遺産分割協議書はご自身でも作成できます。
専門家が作成しないといけないルールはなく、自作の遺産分割協議書でも法的に問題はありません。
遺産分割協議書に関して法令上の書式の定めはなく、民法第907条第1項に基づき「法定相続人全員の協議によって遺産を分けることができる」ことが定められており、文書化は、当事者の意思をはっきりさせるために行われるのです。
第九百七条 共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
引用元:民法第907条第1項
ただし、内容の不備や署名漏れなどがあると無効になってしまいます。
遺産分割協議書をご自身で作成する場合には、十分に下調べを行い、無効とならないよう注意しましょう。
遺産分割協議書のひな型がある
遺産分割協議書をご自身で作成するなら、ひな型を利用しましょう。
ひな型は法務局のホームページや、専門家が開設するホームページなどでダウンロードができます。
決められたフォーマットはなく、必要な事項が記載されていれば正式な遺産分割協議書として成立します。
ひな型は提供元により多少の違いがあり、どのひな型が正解ということはありません。
相続の状況によって記載事項が異なるため、ひな型は参考程度にして、ご自身の状況にあった内容を記載しましょう。
ひな型をそのまま使用しても、法定相続人全員の署名・実印の押印・印鑑証明書の添付、相続内容の記載が不十分であると、実務上の提出先(法務局・金融機関等)で受理されない、または法的効力を争われるおそれがあります。
遺産分割協議書を自分で作るリスク
遺産分割協議書はご自身でも作成できますが、法律の専門家ではない一般の方が作るとリスクが生じます。
ご自身で作る際のリスクは以下のとおりです。
- 自分で作成した遺産分割協議書が通用するケースとしないケースがある
- 記載漏れなどの不備があると相続手続きができない
- 相続手続きの期間が決まっているのに、作成に時間と手間がかかる
- 相続人間でトラブルになりやすい
- 遺産分割協議書が矛盾した場合にトラブル化しやすい
- 遺産分割協議書の効力をめぐって裁判になった時に、信頼性が低くなる
作成に不慣れな方が作った遺産分割協議書はトラブルを生みやすく、相続手続きを中断させてしまう可能性があります。
どのようなリスクがあるのか事前に把握できるよう、一つひとつ詳しく解説します。
自分で作成した遺産分割協議書が通用するケースとしないケースがある
ひな型に沿って作成した遺産分割協議書でも、いざ使おうとしたら使用できないケースもあります。
提出先によっては厳しい審査があり、同じ遺産分割協議書でも通用する場合としない場合があることに注意しましょう。
相続登記では、不動産の「所在」「地番」「地目」などは法務局の登記事項証明書に一致させなければならず、誤記があると再提出となります。
金融機関では遺産分割協議書の代用として独自のフォーマットが用意されていることもあります。
また、相続税の申告時には内容が重要となり、相続財産に記載漏れがあると修正申告が必要となる場合もあります。
提出先によっては厳しいチェックが入り、再作成が必要になることを理解しておきましょう。
記載漏れなどの不備があると相続手続きができない
せっかく遺産分割協議書を作成しても、必要事項に漏れがあると相続手続きが中断してしまいます。
例えば、次のような不備は差し戻しの原因となります。
- 誰がどの財産を何割引き継ぐのかが明確に記載されていない
- 相続人や被相続人の情報に漏れや誤りがある
- 修正・加筆のルールが守られていない
- 必要な箇所に押印がされていない
ほんの一例ですが、上記のようなミスがあると相続手続きを進められず、修正や再作成をしなければなりません。
相続人の人数が多く各自が遠方に住んでいると、全員の訂正印を集めるのも再作成をするのも、容易ではないでしょう。
遺産分割協議書に不備があると相続手続きがストップしてしまい、急ぎの手続きも進められないリスクがあります。
相続手続きの期間が決まっているのに、作成に時間と手間がかかる
相続手続きには期限が決まっているものがあり、遺産分割協議書の作成を急がないと手続きが期限内に間に合わない可能性もあります。
たとえば、相続税の申告は、被相続人の死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。
(相続税の申告書)
第二十七条 その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から十月以内(その者が国税通則法第百十七条第二項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をしないで当該期間内にこの法律の施行地に住所及び居所を有しないこととなるときは、当該住所及び居所を有しないこととなる日まで)に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
引用元:相続税法 第27条第1項
申告を行うには、期限よりも前に遺産分割協議書の作成を終わらせておく必要があります。
不慣れな遺産分割協議書の作成には、時間と手間がかかるでしょう。
ギリギリで間に合ったとしても、作り直しが発生すると申告期限に間に合わない可能性が出てきます。
期限が決まっているのに作成に時間がかかる点はリスクといえます。
相続人間でトラブルになりやすい
遺産分割協議書の書き方が曖昧な表現だと、後からトラブルが発生しやすくなります。
曖昧さの隙をついて「そんな約束はしていない」と決めた内容を覆す発言をされる恐れもあります。
特に、遺産分割協議で揉めた場合や、相続人間の関係性がよくない場合には注意が必要です。
揉めごとがヒートアップすれば、裁判にまで発展しかねません。
十分に内容を検討・確認して作成しているつもりでも、法的な視点から見ると足りない部分が出てくるものです。
遺産分割協議書の作成は、後々のトラブルを防ぐためにも明確で漏れのない記載をしなければなりません。
遺産分割協議書が矛盾した場合にトラブル化しやすい
故人が遺言書を残している場合、遺産分割協議書の内容に矛盾が生じないように気を付けなければなりません。
相続人の間で話し合って決めた相続割合よりも、故人が残した遺言書が優先されます。
遺言書の内容と矛盾がある場合でも、法定相続人全員が合意していれば遺産分割協議は有効です。
ただし、遺留分の侵害や争いが生じやすくなる可能性があるため、注意が必要です。
また、遺言書が後から見つかった場合もトラブルになりやすく、自分たちだけでは解決が難しくなるでしょう。
複雑になってしまった場合は専門家の力が必要となります。
遺産分割協議書の効力をめぐって裁判になった時に、信頼性が低くなる
自作の遺産分割協議書は、裁判になった際に効力が認められないケースも少なくありません。
裁判所は、本当に法定相続人全員の合意を得て作られたものなのかを厳しくチェックします。
弁護士や司法書士などの専門家が作ったものは信頼性が高くなりますが、専門家が関与せずに作ったものは信頼性が低く見られがちです。
法的な視点から見て遺産分割協議書の有効性が確認できないと、裁判所の判決により無効になるリスクがあります。
遺産分割協議書を自分で作る5ステップ
遺産分割協議書は以下の流れで作成します。
- STEP1:遺言書があるか確認する
- STEP2:遺産と相続人の調査をする
- STEP3:相続の方法を決める
- STEP4:法定相続人全員で遺産分割協議をする
- STEP5:遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議を行う前に、必要な調査や確認をすべて終わらせておきましょう。
遺言書はまず自宅を探し、見つからなければ公証役場・法務局・銀行の貸金庫などを調べます。
遺産に含まれるものは現金や預貯金のほかに、有価証券・不動産・車などがあります。
所有不動産は法務局で取得できる登記事項証明書や、市区町村で取得する名寄帳、自宅に送られてくる固定資産税納税通知書で調査可能です。
相続人の調査は、故人の戸籍を死亡から出生までさかのぼって取得することで行えます。
戸籍調査では、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍含む)を取得し、法定相続人の全員を確定させなければなりません。
この調査は、民法第887条から第900条の規定に基づくもの。
遺言書や調査漏れの財産、新たな相続人が遺産分割協議の後に見つかると、作成したものが無効になったりやり直しになったりします。
遺産分割協議書を作成する前に、十分な調査が必要となる点に注意しましょう。
遺産分割協議書を自分で作成する際のポイント
遺産分割協議書には必要事項を漏れなく記載するのはもちろんのこと、押印や訂正時のルールも守らないといけません。
作成には多くの注意が必要なため、以下のポイントを押さえましょう。
- 法定相続人全員の情報を正確に記載する
- 法定相続人全員の「署名」「実印捺印」「印鑑証明書添付」をつける
- 被相続人(亡くなった方)の情報を正確に記載する
- 相続財産は具体的かつ特定できるように記載する
- 相続財産の分け方を明確に記載する
- 遺産分割協議成立の日付を必ず記入する
- 書き直しや訂正時のルールを守る
具体的にどのようにすればよいかを詳しく解説します。
法定相続人全員の情報を正確に記載する
遺産分割協議書には、法定法定相続人全員の情報を記載する必要があります。
1人でも欠けていると、協議書は民法上、成立してません。
相続人の住所や氏名は戸籍どおりに正確に記載し、略称や略字は使ってはいけません。
遺産分割協議書に記載する内容
遺産分割協議書には、法定相続人の情報以外にも以下の内容を記載します。
- 被相続人(故人)の情報
- 遺産分割協議を法定相続人全員で行った事実
- 遺産目録
- 誰がどの財産を相続するか
- 代償分割があれば記載
- 後日新たな財産が出たときの相続方法
- 遺産分割協議書が何枚あるか
- 作成日と署名捺印
相続の状況によってはほかにも記載が必要な場合があるため、ご自身の状況にあわせて臨機応変に対処しましょう。
法定相続人全員の「署名」「実印捺印」「印鑑証明書添付」をつける
法定相続人全員の情報とともに、署名・実印・印鑑証明書の添付が必要です。
どれか1つでも欠けていると、遺産分割協議書の法律上の有効性が低くなります。
印鑑は必ず実印を使用し、署名は各相続人の直筆で行うことをお勧めします。
遠方に住んでいる相続人がいる場合は、郵送で送って押印と署名で対応することも可能です。
添付する印鑑証明書は発行から3ヶ月以内のものが望ましいです。
法的な決まりはありませんが、提出先の法務局や銀行では、3ヶ月以内のものと定めているケースがほとんどです。
被相続人(亡くなった方)の情報を正確に記載する
亡くなった方の情報も、戸籍どおりに正確に記載しましょう。
氏名・本籍・死亡日を「令和◯年◯月◯日死亡+氏名+本籍」といったように記載します。
法務局の登記簿や金融機関での情報と照会するため、戸籍に載っている情報と完全に一致するように記載が必要です。
1文字でも不一致があると、各機関での相続手続きが行えません。
相続財産は具体的かつ特定できるように記載する
故人の残した財産をすべて遺産分割協議書に記載します。
どのような財産がどれくらいあるかを正確に特定できるよう、一つひとつ細かく書き出さなければなりません。
例えば、次のように記載していきます。
不動産 | 登記簿どおりに、所在・地番・地目・地積など |
---|---|
預貯金 | 金融機関名・支店名・口座番号など |
証券会社 | 銘柄・保有数・評価額など |
現金 | 金額・保管されていた場所など |
車 | 車名・登録番号・車台番号・初度登録年月など |
登記簿や通帳、車検証などに記載されているとおりの内容を正確に記載します。
「有価証券一式」といったような曖昧な書き方をしてはいけません。
証券会社ごとに銘柄や保有数などもすべて細かく記載が必要です。
相続財産の分け方を明確に記載する
財産目録を記載したら、誰がどの財産をどれくらい相続するかを明確に記載しましょう。
例をあげると以下の記載方法があります。
- 「埼玉県◯◯市△△1丁目の土地は長男山田太郎が相続する」
- 「埼玉銀行の預金は長女山田花子が1,000万円、次女山田優子が1,000万円相続する」
上記のように財産や相続人氏名を詳しく記載します。
記載の仕方に一切の曖昧さがないようにするのがポイントです。
曖昧な点があれば遺産分割協議書の効力が問われ、後からのトラブルにつながりかねません。
一目見ただけで明確にわかるようにしておきましょう。
遺産分割協議成立の日付を必ず記入する
遺産分割協議の成立日を記載するのも忘れてはいけません。
成立日は、実際に法定相続人全員が合意した日付を記載します。
相続手続きで遺産分割協議書を提示する際に、成立日の確認が必要となります。
成立日の記載がないと、書面の有効性が認められないこともあるので注意しましょう。
書き直しや訂正時のルールを守る
遺産分割協議書にミスがあり訂正する場合には、決められたルールがあります。
ルールは以下のとおりです。
- 軽微な訂正のみ可能
- 訂正箇所に二重線を引く(色は黒でも赤でも可)
- 「◯字削除・◯字加入」と削除や書き加えた文字数を記載
- 訂正印は法定相続人全員の実印を重ならないように押印
訂正が認められるのは、誤字や番地の書き間違えなどの軽微なミスのみとなります。
相続割合を変更するような大きな訂正は認められないのが一般的で、その場合は新たに作り直しが必要です。
ルールどおりに訂正をしないと、遺産分割協議書としての効力がなくなってしまうので気を付けましょう。
遺産分割協議書の作成は専門家に依頼した方が無難
遺産分割協議書の作成はご自身でもできますが、たった1ヶ所の不備でも無効になったりトラブルに発展したりと、リスクがあります。
リスクを回避するためには、弁護士(相続争いなど法律的争点)、司法書士(登記を伴う案件)など、それぞれの専門分野に応じた専門家に相談するのが安心です。
特に、以下のケースでは専門家への依頼をおすすめします。
- 財産の種類や相続人の人数が多い
- 遺産に不動産が含まれている
- 記載方法がわからない箇所がある
記載事項が増えるほど詳しい知識が必要になり、ミスも起こりやすくなります。
法律の専門家なら不備なく作成ができ、後々のトラブルにつながらないよう正しい記載方法も心得ています。
少しでも不安がある方は専門家への依頼を検討してみましょう。
遺産分割協議書の作成でよくある質問
ここからは、遺産分割協議書の作成でよくある質問について答えます。
遺産分割協議書の作成期限は?
遺産分割協議書に作成期限はありません。
しかし、相続税の申告や特例を使う際に遺産分割協議書が必要となり、申告期限は相続が発生したことを知ってから10ヶ月以内です。
相続税の軽減措置が受けられる特例を使うには、遺産分割協議書の作成が完了していなければなりません。
作成が終わっていない場合には仮申告の手続きが取れますが、作成後に修正手続きを行う必要があります。
遺産分割協議書の作成期限はないものの、相続税の申告時に必要となるため作成は10ヶ月より前に終わらせておくのがよいでしょう。
遺産分割協議書を紛失したらどうすればよい?
遺産分割協議書を紛失したら、残念ですが再作成するしかありません。
法定相続人全員に連絡を取って、もう一度作成をやり直します。
たとえ、ほかの相続人のところにコピーが残っていたとしても、コピーは法的効力を持たず、法務局や金融機関などでは原本提出または原本証明された謄本の提出が必要なのです。
相続人が外国にいて実印が用意できない場合はどうすればいい?
海外在住の相続人がいて、実印や印鑑証明書を用意できない場合は、署名証明書(サイン証明)を使って代替手段とします。
署名証明書は在住国の日本大使館で発行可能です。
大使館の係員の前で、本人が遺産分割協議書にサインを行うと、本人のサインであることを証明する署名証明書が発行されます。
署名証明書は在住国の言語で発行されるため、提出先で内容を理解できるように日本語訳を添付して提出します。
提出先ごとに求める代替手段が違うこともあるので、事前に確認しておいた方が安心でしょう。
遺産分割協議書の作成と相談は杠(ゆずりは)司法書士法人へ
この記事では、遺産分割協議書を自分で作る方法と、作成時の注意ポイントやリスクなどを解説しました。
作成はご自身でも可能ですが、法的な視点から作成を進めないと無効になってしまう危険性もあります。
ご自身で作成する場合には一般的なひな型に頼りきらずに、相続状況にあった事項を記載するようにしましょう。
不明点や不安がある場合は、専門家に依頼をするのがおすすめです。
杠(ゆずりは)司法書士法人では、遺産分割協議書の作成をはじめ、不動産の相続登記など相続全般のサポートを行っております。
遺産分割協議書の作成を確実に行いたい方、そのほかの相続問題を抱える方は、杠(ゆずりは)司法書士法人にご相談ください。
本記事に関する連絡先
TEL: 06-6253-7707
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