成年後見人の相続人への財産引渡しについて (民法918条2項による相続財産管理人)
成年後見
|更新日:2022.11.22
投稿日:2011.07.12
専門家(司法書士、弁護士等)が成年後見人に就任している場合、被後見人である本人が死亡すると、後見人の仕事は終了することになります。
そしてその後、後見人は管理していた財産を相続人に引き渡す義務があります。
この管理していた財産の引渡しをめぐって、相続人同士の遺産分割トラブルに、成年後見人であった専門家が巻き込まれるケースがあります。
具体的には、相続人の1人に管理していた財産を引き渡したことを、他の相続人に責任追及されるケースや、相続人同士で話し合いがまとまらず、誰にも財産を引き渡せないようなケースです。
これらのケースの場合に、後見人であったものはどのような対応をしなければならないかを、以下にご説明していきます。
1.原則
後見人は、本人が死亡した時点で任務が終了します。よって、管理していた財産を保有する権限がなくなりますので、速やかに相続人に管理財産を引き渡し、以後は相続法によって相続人が財産を処理していくことになります。
後見人を相続人である親族が行っていた場合は、本人が亡くなっても相続人の地位として財産を管理することができますので、財産の引渡しをどどうするかという問題は起こりにくいでしょう。
しかし、親族ではない専門家が後見人の場合は、相続人や本人が遺言書を残している場合は遺言執行者などに財産を引き渡す必要があります。
2.通常の引渡し方法
本人に相続人がいる場合は、相続人の1人に管理する財産を引き渡せば後見人の義務を果したといえます。
ただし、1人に財産を渡したことにより他の相続人からクレームを受けることも考えられますので、
1.相続人全員に同意書(実印+印鑑証明書付がよいでしょう。)をもらって代表者に渡す
もしくは、
2.遺産分割協議をしてもらい相続人おのおのに引き渡す
などが方法として考えられるでしょう。
また、本人の相続人が不存在であれば、民法952条に基づき、後見人は事実上、財産を所持している「利害関係人」として相続財産管理人の選任申立を行い、当該財産管理人に財産を引き継ぐという方法で処理できます。
3.相続人が財産を引き継いでくれない場合
本人が死亡後、分割協議が成立していない、あるいは本人との関係が疎遠であったために、相続人が財産の引き取りをしてくれない場合には、後見人が仕方なく財産を管理し続ける場合があります。
しかし、管理の法的根拠が曖昧で、後に責任追及をされる場合もあるかもしれません。そこで現在の実務では、「民法918条2項による相続財産管理人(以下、「管理人」といいます。)」の申立てを行う方法があります。
民法918条1項では、相続人が相続を承認又は放棄するまでの間、相続人自身が相続財産の管理をするように規定しています。
次に、2項において「家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。」として、相続人で管理ができない場面を想定した規定をおいています。
相続財産管理人を選任することも、この「処分」に該当します。
本条の管理人は、本来的には相続人が相続を承認するか放棄するかを決定するまでの間、つまり後見人が相続人に引渡しができるようになるまでの間のいわば「つなぎ役」として想定されているものです。
この管理人に選任された場合、後見人であったものは無権限で財産を管理し続けるリスクを避けることができます。
また、成年後見人が本人の死後に行った事務については、後見人の報酬として反映されないのが、現在の家庭裁判所の運用です(この点は法改正が強く望まれるところです)。
ただし、管理人としての報酬は請求することができますので、本人の死後に行った事務について無報酬であることも避けることができます。
4.最後に
本人の死後、相続人が後見人の管理財産を受け取らない場合に民法918条の管理人を申し立てる方法が、最善の方策といえるかどうかは分かりません。
しかしながら、専門家が後見人の場合、本人の親族が関わりを拒否している場合や財産管理をめぐって既にトラブルが生じているケースも多いという案件の特性があります。
そこで、専門家として自分の財産管理の根拠を明確にしておく執務意識を持つことが重要となります。及ばずながらも、本コラムがその一助となれば幸いです。
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