「信託(しんたく)」って何だ!
家族信託
|更新日:2022.11.27
投稿日:2013.04.22
1.信託(しんたく)のイメージ
突然ですが、「信託」と聞いて、皆様はどのように思われますでしょうか?まだまだピンとこない方が多いかもしれません。「信託」と言えば「投資信託」「貸付信託」などの金融商品?というイメージが、まだまだ強いかもしれません。
日本では長らく、「信託といえば信託銀行が扱うもの」であり、「信託」と聞いても何やら遠いもの、難しいもの、と思われる方も多いのではないでしょうか。
「信託」とは文字どおり「信じて託すこと」。
元々は、中世の英国で、十字軍の遠征に出向く兵士が、残された家族が生活していけるように、土地などの自分の財産を信頼できる友人に託し、託された友人は、その土地を果樹栽培など有効活用して、その収益を兵士の家族に渡し続けたことから始まるそうです。
やがて兵士が生還すると、その土地は兵士に返されたそうです。
さすが「騎士道」の国、なんて思いますが、「信託」とは元々そのように高い信頼に基づいた、思いやりのある、優しい発想から生まれたものなんですね。また、本来は、ごく身近なものだとも言えるのかもしれません。
平成18年に信託法が改正され、日本でも制度上は、かなり柔軟に信託の活用ができるようになりました。
しかしながら、まだまだ「信託」制度が、広く一般的に認知されたとはいえません。
そもそも財産を「託する」の意味がまだまだ理解しにくいのかもしれません。
「信託とは何なのか?」
まずは、「信託」に対するイメージを持って頂くことを、今回の目的としたいと思います。
2.信託(しんたく)とは?
信託とはどんなもの?
「財産を持っている人(託す人)」が、自分の財産を、「誰か」の「ためになる」ように、
「信頼のおける人(託される人)」に託すこと。
ここで、
●「託す人」 =委託者(いたくしゃ)
●「託される人」=受託者(じゅたくしゃ)
●「誰か」 =受益者(じゅえきしゃ)
●「ためになる」=受益権(じゅえきけん)
と言います。
(これらの法律上の名称が漢字で書くと似たような感じであることが、信託が難しく感じる原因かもしれません・・・。)
先ほどの十字軍遠征の兵士でいうと、
遠征に出向く兵士が「委託者」
土地を預かる友人が「受託者」
家族が「受益者」
果樹栽培による収益を受けることが「受益権」
ということになります。
「兵士(委託者)」は「友人(受託者)」と「信託契約」を結び、自分の土地(信託財産)を友人が有効活用することで、家族(受益者)に収益金を分配(これを受益権といいます。)してもらえるように、契約書(信託契約書)にきちんと明記します。
託された友人は、その契約書に忠実に従い、土地を有効活用して家族に収益金を分配する義務を負うことになります。
どのように有効活用するかは、全て契約書の内容によります。土地の活用方法や受益者が具来的に誰がなるか(奥さん?子供?または双方?)は、全て信託契約書の内容どおりになります。
信託を通じて、兵士は、友人を介して自分の財産を自分が願うどおりに活用されていくことを実現することができます。
3.きちんと「託する」ために、財産を「所有」してもらう!
自分の財産を誰かの役に立つように、信ずる人に託すこと。これが信託です。
とは言っても、まだ具体的にピンとこないかもしれません。ここからは、この「信託」の特徴、信託特有の性質をご説明させて頂くことで、信託に対するイメージを、もう少し持って頂ければと思います。
誰かに財産を管理してもらったり、運用してもらったりすることは、別に「信託」を持ち出すまでもなく、頻繁に行われていることです。単に財産を預けて任せればいいわけです。
「信託」の特徴は、この財産を「託す」ために、その財産の所有名義を「託される人」に移してしまうことにあります。
「信じて託する」以上、「所有権も渡してしまおう」、ということなのです。
託された人は、財産の名義を取得することになりますので、その財産を管理するにも運用するにも、自分の名義で円滑かつ迅速に行うことができます。
信託であらかじめ約束された内容にしたがう限り、思い切ってその任務を果たすことができるのです。
「託するために所有名義を移してしまう」、これこそ信託の最大の特徴です。
ただ、この所有名義を移すことにまだまだ日本人には抵抗感を持つ人が多いかもしれません。
「え!これを任せるにあたって、所有権も手放しちゃうの?」
と思われる人が多いように思います。
所有権を移すといっても、託された人はあらかじめ定める信託契約(または遺言)に拘束されるので、好き放題できるわけではありません。信託内容をあらかじめきちんと定めることで、自分の希望する財産活用が可能になるのが信託です。
ただ、まだまだ日本人には「契約」よりも「所有」の方を重視する傾向が強いように思われます。
4.「誰かのため」に「託する」以上、その財産は保全される必要がある!
財産を誰かのためになるように託す以上、意図に反して、誰かのためになることができなくなる状況になってはいけません。たとえば、「託した人」や「託された人」が将来万一、借金で首が回らなくなったときに、それらの債権者から信託財産が差し押さえられるようなことがあってはなりません。
信託法では、託する人(委託者)や託された人(受託者)の債権者は信託財産を差し押さえることができないことと定めています。たとえ破産しても、信託財産は守られます。
このことを、あえて専門的な言葉で言うと「倒産隔離(とうさんかくり)機能」といいます。信託の大きな特徴の一つです。
(ただし、負債を抱えてしまい、差押をされるような状況になってから、差押などを逃れるために信託を使って所有名義を移すような、債権者を害する目的での信託が認めらるわけではありません。)
5.「誰かのため」の内容は、かなり柔軟に設計できる!
信託は、その内容がかなり柔軟に設計できることも大きな特徴です。信託を利用することにより、一般的に不可能なことも可能になったりすることもあります。
主なものを2つご紹介いたします。
1つめは、信託を通じて、事実上「後継ぎ遺贈」が可能になる点です。
後継ぎ遺贈とは、たとえば、
「私が亡くなったら、長男に財産を相続させる。長男が亡くなったら、長男の長男にその財産の所有権を取得させる。」
みたいな遺言のことを言います。
この「後継ぎ遺贈」は、判例において、認められないとの判断が出ております。
「所有財産の処分は、まさにその時に、所有権を持っている人しかすることができない」という考えに基づきます。長男の後は、そのとき財産を取得している長男しか決めることができないのです。
これが信託の場合、誰かのためにの「ために」の部分である受益権について、次の次以降まで定めることができます。
先の兵士の例では、例えば兵士が遺言で、自分が亡くなったら、まずは妻を受益者として、妻が亡くなったら子供を受益者に、さらに子供が亡くなったら孫に、なんて内容も記載することが可能です。このように信託を使えば、事実上「後継ぎ遺贈」が可能になります。これも信託の大きな特徴です。
2つめとして、先の兵士の例として、例えば信託で家族が受ける利益(受益権)の内容を次のように分けることもできます。
- 土地に果樹栽培をして、その収益金を取得する権利(受益権)は妻が取得する。
- ある一定の時期が来たら、その土地を売却するものとし、その売却代金を受ける権利(受益権)は妻と子供が折半にて取得する。
専門的な用語で言うと、1.が収益受益権、2.が元本受益権といいます。
1.の収益受益権は、財産の収益を受け取る利益。2.の元本受益権は、財産価値そのものの利益。
一つの財産の価値をこのように性質により分離して柔軟に設計できるのも、信託の大きな特徴です。
6.「信託」の可能性
以上のように、信託は、決してイコール金融商品というわけではありません。
信託は、生活や事業その他、あらゆる場面で活用できる可能性があります。大切な財産を、ある人のために、または、ある目的のために、現在から将来にわたり、今思い描くどおりに活用させたい。このようなニーズに「信託」が当てはまるかもしれません。
今後、益々、高齢社会、成熟社会が進み、さらに個性や多様性が重視される社会において、「信託」が注目されていくものと思われます。
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