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事業承継、「株はまだワシのもんや!」 種類株式と信託の利用について

事業承継

2013.08.26

■ 事業承継への関心の高まり

最近、中小企業を中心に事業承継への関心が高まってきています。帝国データバンクの資料によると、いまや中小企業の代表取締役の平均年齢は60歳を超えました。「平均年齢」ということですから、偏差から考えるともはや対策は待ったなしという企業がかなり多く存在するといえるでしょう。

■ 事業承継の意味

事業承継と一言でいっても、事業承継を語る人がどのような役割を持つ人かにより、その意味は変わります。例えば、私たちのような司法書士が「事業承継」と言うとき、関心は会社支配権をどのように集中し維持するのかという点にありますので、そうした側面から事業承継をイメージして話をします。一方で、税理士が事業承継というときには、会社の内部・外部を問わず、いかに多くのキャッシュを残すかという視点から、自社株算定のことに関心がむくでしょうから、そうしたスキーム作りを中心にイメージして事業承継を語ることが多いと思います。他にも金融機関や、経営者自身が語り手として考えられますが、その関心がそれぞれ違うところにあるため、事業承継へのアプローチの方向性はずいぶんと変わることになります。

そもそも事業承継とは、中小企業の「経営」自体を承継することですから、事業承継を考えるときには、「企業経営」を構成する要素全てへの配慮が必要です。必然、様々な専門家やステークホルダがその要素をうまく回していくために登場することになるため、上記のように立場によって事業承継のアプローチ法が変わるわけです。そして、MBAで学ぶような、様々な経営要素を考えることもできないことはないのでしょうが、一般的な中小企業の会社規模から考えると、次のように経営の要素を4つにわけてシンプルに考えることが適切だと思います。

すなわち、1.会社利益の源泉を確保するための「ビジネス戦略」、2.ゴーイングコンサーンの指標となる「財務」、3.成熟社会においてますます重要性を帯びる「ヒト・組織」、そして4.会社の支配権を確かなものにする「統治基盤」、の4つです。

このビジネス戦略、財務、ヒト・組織、統治基盤のうち、私たち司法書士が事業承継に際して関与するのは、主に4.の統治基盤になるでしょう。どれほど1.ないし3.がすばらしく優れた会社であったとしても、その経営へコミットすることが許されるかどうか、会社経営への入り口に立てるかどうかという0か1かの致命的に重要な問題に関与します。

■ 今年が事業承継対策として株を移すのに絶好のタイミングである理由

ところで話は変わりますが、安倍首相による金融緩和、アベノミクスによって日本株はおおきく上昇しました。いままで泣く泣く塩漬けになっていた株への苦々しい思いから解放された方も多いはずです。中小企業のオーナーにとっても、このアベノミクスは大きな転換点であり、この機会を逃してはいけないオーナーが増えたといえます。というのも、上場企業の株価が大きく上昇したために、来年になれば、中小企業の株式の価値も大きく上がったものとして算定されることになるからです。つまり、会社の業績にかかわらず、日本株の株価に影響を受けて高い評価を受けるため、ということになるわけです。

株の移動の際の税額や買い取り価額をかんがえたとき、これは明らかに不利となります。株価の低いうちに、会社経営に関係のない人たちから株の買い取りを進める、あるいは後継者に対し株式を移転しておくといったことを今年中に終えておかないと、よりたくさんのキャッシュを準備するなどの必要に迫られることになってしまいます。したがって、今年の残り半分も、引き続いて事業承継における株の移動が積極的に行われるものと推察されます。

■ 種類株式と信託について

さて、この事業承継時の株式の承継時に問題となるのが、議決権、つまり会社の支配権を今後は誰がもつのか、という点です。後継者が育っていて、現経営者が会社経営から退いても何の問題もないという場合であれば、普通に現経営者から後継者へ株式を承継することに問題はありません。ところが、後継者の経営能力が育っていないとか、実際には育っているけれども手塩にかけて育てた会社の経営権を手放すことは寂しくてできない、といった理由から、株の承継が進まなかったり、遅れたりすることがあります。このとき、実務で解決法として使われるのが、「種類株式」であり、最近では「信託」の活用が増えています。

種類株は平成18年5月の会社法改正によって創設された制度です。旧商法では存在していませんでした。事業承継時においては、普通株式を一部、無議決権化することで、議決権のある株式とない株式に分け、議決権のある株式を現経営者に残し、議決権のない株式は後継者に譲る、という方法をとります。こうすることで、その先どれほど会社が利益を蓄積しようとも、会社後継者が株式という形で富をグリップしているかぎり、現経営者の資産の増加は避けることができます。と同時に経営者にとっては、株の大部分は後継者に譲れているにもかかわらず、会社の経営権は自分に残って引き続き経営に関与できる、という効果を得られるわけです。

この種類株式を利用すると、会社の登記簿謄本に種類株を発行していることがきちんと明記されます。つまり議決権がある株式とない株式が発行されていることが第三者の目にも明らかに分かりますから、安定的に運営することができるといえるでしょう。しかし、この種類株式を導入するためには、定款変更手続が必要なのと同時に、既に発行している株式の全株主、つまり株主全員が同意することが必要です。したがって、ある程度、大きな規模の中企業程度のクラスになると、株式の持ち合いをしているところも多くあるために、種類株式を導入する前段での、全ての株主から同意を取り付ける根回しに大変な労力をかけることが余儀なくされる、ということになります。

ここで、もう一つの方法である信託、正確には「自社株承継信託」というものが意味をもちます。この方法によると、予め、現経営者は受託者(信託会社、信託銀行)に対し信託契約に基づき株式の所有権を移転し、名義を変更して預託します。受益者に関しては、財産権を後継者に設定し、議決権の指図権のみは現経営者に設定しますから、配当を受け取る権利や信託が終了したのちに株式を受け取る権利は後継者にあり、会社の支配権を意味する議決権の指図権だけは、現経営者に残るということになります。現経営者の死亡などを条件にして、信託契約は終了をします。

こうした信託業務を受ける会社は、信託銀行であるりそな銀行以外の信託銀行では、今のところ取り扱いがないようです。信託会社でも、積極的に自社株承継信託に取り組んでいるようなところもあったようです。いずれにしても、大きな財産権である株式の信託については、民事信託スキームも考えられなくはないですが、装置としてきちんと機能する信託会社を利用した方が安定的だといえるでしょう。

■ まとめ

事業承継の大原則は、株式の移転時に、会社支配権の根拠になる議決権も後継者にうつしてしまうことだと考えます。株式の承継問題が、単なる「相続問題」に堕してしまうことを回避するため、後継者が銀行の融資や本社の内部留保をもちいて、現経営者から買い取ることが重要です。こうすることによって、まわりの兄妹や親族など、現経営者の相続時に問題となりそうなステークホルダに対しても、堂々と「自分が金を借りて株式を買い取ったのだ」と胸を張っていえるようになるのです。

しかし、そうはいっても先の理由等も含め、財産的価値は後継者にうつしてしまう必要があるけれども、どうしても現経営者に経営権を残さなければならないというケースも場合によっては出てきます。

そうした際には、上記のような種類株や信託などの制度を利用して実現できる、ということを本稿ではお伝えしました。

(川原田 慶太) 

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