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後継者のための財務知識 おおさか法務事務所の事業承継(2)

事業承継

2012.03.12

先のコラム「事業承継と士業の関わり方」では、事業承継にのぞむ後継者の方々の心理状態やキャリア形成について若干触れながら、専門職として後継者支援にどう関わるべきか、私の思うところを述べました。今回は、社長を引き継ぐ準備として後継者が自社の財務構造をおさえることの本質的意義について考えたいと思います。

 

企業の目的の一つは、「ゴーイングコンサーン」、つまり永続することだと言われます。そのために経営者は財務の本質を理解する必要があり、貸借対照表(以下、「B/S」という。)や損益計算書(以下、「P/L」という。)等の財務諸表は、それを可能にする「ツール」に当たります。

 

とはいえ、日々の経営に当たって数値情報に頼っている創業者はそう多くなく、どちらかというとキャッシュ残高の推移を見ながら肌感覚で財務状況の変化を把握している方が多いでしょう。これは会社の立ち上げ時から業績や顧客の推移、あるいは決算を組む時に何をしたかということ等を経験値としてもっているからこそなせる業です。

 

例えば、貸借対照表(B/S)内の「資産の部」の総額を見て「○億円」と書いてあったとしましょう。創業者であれば、そんな数字の実質は「使った金の行き先」にすぎないのであって、換金した際に入手できる価額でないことは百も承知しています。

 

ところが、経営感覚になれない後継者の中には、そのまま「資産の部」に示される数字を額面どおりに換価した今現在の価値と受け取ってしまう可能性がないともいえません。

 

いずれにしても、経営実態への「肌感覚」を持たない後継者からすると、実態を把握するためには、まず始めに数値情報からスタートして会社の財務構造をつかんでいくしかありません。中小企業に特有の、財務諸表のもつ数字の背景にある意味を理解しながら、B/SやP/Lを読み込んで、会社の実態を探っていく必要があるのです。

 

では、帳票類の数字の背景に隠れた「中小企業財務のもつ特徴」とは何でしょうか?私は、特に後継者が留意すべき要素は、次の2点だと考えています。

 

一つは、中小の社長が手にしているB/SやP/Lは大半が税務会計に基づいているということです。要するに、帳票のほとんどは顧問税理士さんが作成した帳票だということですね。これらは、基本的に「税法」という法律に基づいて数字のあてはめを行ったものですから、帳票自体の目的が国におさめるべき税額の算出にあります。ですので、帳票自体が企業の実態を正確に示しているのかと問われると、答えは「NO」と言わなくてはなりません。

 

例えば、「減価償却」という考え方があります。これは価額の高い物品を企業が購入した際、それを一括で損金計上されてしまうと税務署としては利益調整に使われてしまって具合が悪いので、物品ごとに「耐用年数」という「寿命」を与え、国が法律に基づいて強制的に購入物を資産として計上させるものです。ところが、実社会においては、未使用にもかかわらず購入しただけで物の価値は劣化します。つまり、税法の考え方と実社会、つまり企業の考え方とのギャップが生まれるわけです。

 

少々減価償却の説明に過ぎましたが、つまり、税理士の作成した帳票と会社経営に有用な「財務会計」といわれる、今現在の会社の状態を表す帳票は異なるということです。したがって、会社経営という運転に慣れない後継者は、税務会計に基づく帳票ではなく、財務会計を基礎に帳票を活用すべきだ、ということです。

 

もう一つ、大きな特徴として、そもそも数字自体が真実を物語る数字なのか、という問題です。

 

先日も東京都千代田区内の建設会社が決算を粉飾することで、とある都市銀行から詐取をはたらき、その被害総額は約100億円程度にも上る、との報道がありました。このように数字はたやすく操作することができ、後継者にはそもそも財務諸表に表われている数字が本当の数字かどうか、親父の心の中をのぞいてみる他、知りようがありません。粉飾だけでなく、例えば会議費が異常に膨らんでいるとか、保険料支払がやたら多いとか様々な形で、実際の数字とは異なる数字が作られていることがあります。これは節税のために行われているものが多く、実態よりも多くの損失が発生していることになります。

 

このように中小企業は、大抵の場合、儲かっている会社では「節税」対策によって実態と帳票との乖離ができて歪んでいます。他方、冒頭の企業のように儲かっていない会社では銀行借り入れなどのために「粉飾」が行われることがあり、やはり実態とはかけ離れた帳票が存在することになります。

 

いずれにしてもこれらは単年度で行われるものではなく、長年に渡って行われるものですから、数字と実態とが大きく乖離する原因になります。したがって、後継者はこのようなことを前提として数字を眺め、親を始めとする創業者に対して問うていく態度が求められます。

 

そして、個人的な見解としてもう1点付け加えたい点があります。せっかく数字にこだわって経営をするのであれば、B/SやP/Lから導き出される各指標にも敏感になることで、よりイメージをもって経営に臨めるのではないかと思うのです。

 

営業利益や経常利益という数字がいかに大切か理解している経営者や後継者は100人中100人といってよいでしょう。しかし、いくらの金をその事業に投入していくらの利益を生んでいるかという年間利回りの発想をもって経営にのぞんでいる後継者の方々がどれほどの割合でおられるでしょう?今の日本のように多くの業態で右肩下がりか横ばいのマーケットしか持たない国では、「効率性」(営業利益/総資産)や「安全性」(純資産/総資産)といった指標を意識しながら経営にあたるということは、守りの経営をするにあたり効果的ではないかと感じます。

 

こうした中小企業特有の財務における事情を理解した上で後継者自身が自社の財務構造分析を進める意義は大きいものがあります。

 

それらを行う過程で大抵の経営者が持つ数字への抵抗感をなくすことができますし、何よりも今後にわたって企業実態に即した財務会計を身近に感じ、それを指標とする素地ができます。そして数字の真否の確かめる作業を通じて、いままでそこまで踏み込んでしてこなかった領域の話を親子間でしながら、他ならぬ自社の歴史を確認していくことができるのです。

川原田 慶太

この記事を書いた人

川原田 慶太

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