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司法書士法人 おおさか法務事務所

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株式の強制取得の対策と具体例

企業法務

2012.07.02

会社において、支配権維持や、株式分散などを含めた株式にまつわるリスクに対して、株式の内容に差を設けたり(種類株式)、特定の株主の有する株式を特別な取り扱いをしたり(属人的定め)など、いくつかの方法によって対策を行うことができます。

 

では、具体的にどのように対策を実施していくのでしょうか。ここでは、下記のサンプル会社A社の場合を想定し、対策を事例としてご紹介します。         
 【A社の株主構成】

  オーナー株主(取締役会長)  持株比率:37%

  後継者株主(代表取締役社長) 持株比率:30%

  オーナー配偶者(取締役常務) 持株比率:25%

  社員株主           持株比率:8%(*)

  (*社員株主は複数存在。合計比率)

   
このA社では、最近、取締役会長が、代表権を長男である後継者に譲りました。代表取締役社長が懸念していたのは以下のような点です。

 ・社員株主の退職時の対応

 ・オーナーである取締役会長の相続

 ・自身の母である取締役常務の相続

 

<社員株主の退職時の対応>

 

上記のうち、まずは、社員株主の退職時の対応について、どのような対策が検討できるでしょうか。

 

オーナーの一族と社員株主との関係は良好でしたが、代表取締役社長が懸念している点は、社員が退職したときに株式を買い取れるかどうかについてです。さらに、買い取れなければ当該株主との関係が希薄化し、株主管理が困難になること、さらに相続によって社員の家族に株式が承継されることを問題視しています。

 

そもそも、社員株主に対して株式を与えたのは、社員に積極的に経営参加意識を持たせ、経営の活性化を図ること、さらに、人材の確保にもつなげることが目的でした。また、継続して出資価額の10%の配当を支払っていることから、社員にとっては福利厚生の一環でもあります。

 

今までは、社員退職の際には、社員からの買取の申出があり、これに取締役会長が応じていました。買取価額は額面価額(資本金の額を発行済み株式総数で割った価額)に少し色をつけた程度です。

 

しかし、今後、会社の業績が向上していくと、高額な買取を要求されることもあり得ます。特に現在の社員株主は、昔からの社員が多く、会長が現役でなくなれば関係が維持されるかどうかわかりません。

 

せめて、退職を条件に、会社が、社員から強制的に今までの取引事例と同等の固定価額で買い取ることができれば、ひとまずは株式買取の合意に至らなかったときの保険となります。

 

そこで、今回の対策では、社員が退職する際に株式を強制的に精算させる機会を会社側に確保し、さらに、その買取価額を事前に固定することを目的とします。

 

社員にとっては、将来の株式売買の約束であり、この約束は円満なうちにしか行えません。問題は価額ですが、社員にとって納得感のある価額であれば、理解を得ることは困難ではないでしょう。

 

【対策】

 

(1)方法 社員株主の有する株式をA種類株式に変える

 

(2)A種類株式の内容

 

・剰余金の配当

10%の配当を継続している。配当に関しては現状と変わらず、特に社員の株式だけ特別な取り扱いをしない。

 

・議決権

経営に対する参加意識の向上を目的に株式を与えたため、議決権はあえて奪わない。

 

・会社からの強制的な株式取得(取得条項)

社員株主が会社を退職する時点で会社が強制的に買取できるようにする。買取対価は金銭とし、1株あたりの買取金額を固定価額として金額を明確にする。

 

・株主からの請求による株式取得(取得請求権)

社員株主に買取請求の権利を与えることも考慮したが、明確に請求権まで与えず、買取の申出があれば、随時対応について判断することとする。


   

(3)株式変更までの流れ

 

1.種類株式の内容の決定

種類株式の内容((2)の内容)を決定し、定款案を確定する。

 

2.株主総会の招集決定の取締役会開催 

株主総会の上程議案は取締役会で決定するため、取締役会を開催する。

 

3.取締役を除く社員株主に対する趣旨説明

対象となる社員株主に対して、事前に今回の種類株式導入の趣旨を説明する。


       

未だ求心力のある取締役会長が取締役として現役であるうちに、趣旨説明を行うことで、社員株主の理解を得ることができる可能性が高まる

また、買取価額も、額面価額よりは少し色をつけた価額で固定したとはいえ、過去の事例とかけ離れたものではないため、理解を得ることは困難ではない。

 

4.株主総会決議

 

【決議する内容】

 

・A種類株式の内容を明記

・A種類株式の発行枠を設定

・既存の社員株主の株式をA種類株式に変更することの決議

 

なお、この会社は株券を発行していたが、今回の対策に付随して、いざというときの強制買取の際に株券を回収しなくてもいいように、また、株式の種類変更にあたり株券を回収し印刷する労力を省くため、以後、株券を発行しないこととする手続きを行う。

 

5.株式の一部変更に関する総株主の同意書取得

社員株主を含め、株主全員に株式転換に関する同意が必要となる。どんな株式に変わるのか明記した上で同意書に署名押印をもらう。可能であれば、実印での押印、印鑑証明書を交付してもらう。

 

6.登記手続き

種類株式の内容はすべて登記簿に表記する。また、発行済みの株式のうち、普通株式の数が減り、同数についてA種類株式の発行済み株式の数が増えることも登記簿に表記する。これによって、株式の内容が変わったことがわかる。

 

7.株主名簿記載事項証明書の交付

登記簿からは、何株が種類株式に変わったのかわかるが、誰の株式が種類株式なのかはわからない。これは、会社で管理されている株主名簿に記載するべきこととなる。株券を発行していれば、株券に記載するが、今回のように株券を発行しない場合は、株主名簿の記載事項の証明書などを交付して、社員の手元にも記録を残して、互いの約束を認識できるようにする。

 

このように、既存の株式の内容を変えるには、株主全員の同意が必要であり、理解を得るためには納得感も必要です。また、対策を行うのに、理解を得やすいキーマンの存在にも左右されるため、タイミングを考慮しなければなりません。

 

ハードルとなる部分は会社によって様々ではありますが、いずれにしろ、対策の内容、対策が可能かどうかを含めご相談下さい。 

(吉田 有希)


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