動産譲渡登記の手続留意点
動産・債権譲渡
|更新日:2022.12.4
投稿日:2011.11.22
以前、「ABL(債権・動産譲渡担保)について (1) 」でご紹介した担保手法のうち、今回は、動産譲渡登記について、手続きの流れと各段階における留意点についてご説明します。
動産譲渡登記の手続きの流れは以下のとおりです。
- 担保物件事前調査
- 動産譲渡担保契約の締結<
- 必要書類の手配
- 登記実行
以下、それぞれの手続きの説明と留意点について述べていきます。
- A.物件現状確認
- 第三者の権利が設定されていないかを外観上(プレート、シールの有無など)確認します。
- B.動産譲渡登記確認
- 当該物件に既に動産譲渡登記が設定されていないかを登記事項により確認します。
- C.対象物の所有権確認
- 対象物が設定者の所有物となっているかを売買契約書等により確認します。
- 種類
- 貴金属製品
- 所在
- 東京都中野区野方一丁目34番1号
- 備考
- 動産の内訳:指輪、イヤリング、ネックレス、保管場所の名称:動産商事株式会社倉庫
- 種類
- 油圧式プレス機
- 特質
- 製造番号:2005ABC0001
- 備考
- 動産の名称:スーパープレスター、型式:TW-25、製造社名:動産精機株式会社、保管場所の所在地:東京都中野区野方一丁目34番1号、保管場所の名称:動産商事株式会社本社工場
- 動産譲渡担保契約書(コピー)
- 設定者印鑑証明書(3ヶ月以内のもの) 1通
- 設定者資格証明書(3ヶ月以内の登記事項証明書等) 1通
- 担保権者代表者事項証明書(3ヶ月以内の登記事項証明書等) 1通
- 登記委任状(設定者・担保権者)
- 登記事項証明書取得委任状(設定者)<
- 設定者印鑑証明書(3ヶ月以内のもの) 1通
- 設定者資格証明書(3ヶ月以内の登記事項証明書等) 1通
2.動産譲渡担保契約の締結
動産譲渡担保契約は、設定者が担保権者に対して、ある動産を弁済の担保を目的として譲渡する旨の契約です。
この中で最も重要なのが動産の特定方法にあたる「ある動産」の部分です。いざ、担保権を実行する際に、動産の特定方法が誤っていたり、不十分であったために対象物が担保にとれていないということのないように、契約書上、対象物については正確に特定する必要があります。
特定方法は、目的物がある一定の範囲に属する動産(=集合物譲渡担保 ex「倉庫内の一切の貴金属」)か個別の動産(=個別動産譲渡担保 ex「製造番号○○の油圧式プレス機」)かにより異なります。
A.集合動産の特定方法
種類、保管場所等により下記のように対象物を特定します。
B.個別動産の特定方法
種類、特質等により下記のように対象物を特定します。
先にも述べたとおり、この動産の特定が誤っていたり、不明確であった場合には、動産譲渡の効力が及ばなくなることがありますので、動産の納品書、保証書等を元に正確に記載することが重要です。
3.必要書類の手配
契約内容が決定しましたら必要書類を準備します。
動産譲渡登記に最低限必要な書類は下記のとおりですが、実体的な有効性を判断するために、対象物の所有権を確認できる資料、動産の特定に必要な資料などをお願いすることもあります。ご留意いただく点は、不動産登記と異なり原本還付や援用ができませんので、原本は全て法務局に提出するという点です。
また、登記完了後に登記事項証明書を取得するためには、別途下記の書類が必要です。
4.登記実行
上記必要書類の手配が終わると最後に登記申請です。
登記申請においては司法書士が担当するケースが大半かと思いますので、申請書類の作成方法については割愛いたします。
依頼者の方に注意していただきたい点は、動産譲渡登記が東京都中野区にある動産登録課窓口でしか取り扱っていない点です。
窓口に書類を持参する場合には、即日登記が受け付けられるため特に問題は生じませんが、遠隔地から郵送で申請する場合には注意が必要です。
郵送で登記を申請した場合には、動産登録課に申請書が到達した翌日に登記が受け付けられます。
つまり、譲渡契約日に申請書を発送して、翌日に法務局に申請書が到達しても、さらにその翌日に登記が実行されるため、少なくとも2日のタイムラグが生じます。
郵送で申請しなければならないときは、例えば融資実行日が31日であれば、譲渡担保契約自体は29日に締結し、融資に先立ち登記申請を行ったり、対抗力の空白期間を民法の規定による「引渡し」によって埋める(※下記「「引渡し」による対抗力の取得」)などの対応をとります。
<※「引渡し」による対抗力の取得>
動産譲渡担保を第三者に対抗するためには、「引渡」または「動産譲渡登記」のどちらかの方法により対抗力を取得する必要があります。
「引渡し」とは民法の規定に基づくもので、「現実の引渡し」「簡易の引渡し」「占有改定」「指図による引渡し」という4つの引渡方法があります。
この「引渡し」の問題点として、引き渡した事実については、当事者のみが把握でき外部からは判別しづらいという点と、後々引渡しの事実に争いが発生した場合にその証明を行うことが困難であるという点が挙げられます。
この「引渡し」に代わる対抗力取得方法として、「動産譲渡登記」が用いられます。
動産譲渡登記においては、第三者は登記事項を確認することにより動産譲渡登記の事実を知ることができ、また、登記事項証明書という公的証明書が発行されるため、対抗力の証明が容易に可能になります。
なお、「引渡」と「動産譲渡登記」とはどちらか一つを選択するというものではなく、双方の対抗力が並存します。
通常は動産譲渡登記を行う場合でも、必ず引渡しを受けるので、動産譲渡登記は引渡しによって得られた対抗力に重ねて、公示力、証明力の点で強化するものと言うことができます。
おわりに
以上、動産譲渡の登記手続きの側面についてご説明しました。
なお、実務上は登記等による対抗要件の取得と同様にその後の担保管理が非常に重要となります。
例えば、動産譲渡登記などにより対抗力を取得しても、第三者が対象物を設定者の所有物と誤信し善意・無過失で買い受けた場合には対抗できません(=即時取得)。
そのため、対象物が譲渡担保の目的となっていることを看板、プレートなどで第三者に表示し(=明認方法)、第三者が誤信しないよう適正に管理を続ける必要があります。
即時取得は、頻繁な流通が予定されている動産取引において、真の所有者の保護よりも取引の安全が重視されるべきという現在の法制度に基づくものです。
この即時取得のリスクは動産取引には常に残存するもので、これを軽減するために動産譲渡登記、明認方法により譲渡担保の事実を適切に公示することが必要です。
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