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採用内定取消の基準について

その他

|更新日:2022.11.28

投稿日:2013.04.08

毎年企業の事業年度が代わる4月には、新入社員が入社してきます。

しかし、近年の長引く不況の中、採用内定の通知を企業から受けても、入社前に採用内定通知の取消を受けた内定者が出てくるケースがあり、トラブルが増加しています。

そこで今回は、そのようなトラブルを回避するための前提となる「採用内定の法的効力」と「採用内定の取消基準」について説明してみたいと思います。

(1)採用内定者の身分について

日本の多くの企業では、新卒一括採用を行います。採用内定の通知を受けた学生は、「就職口を確保した」という期待権が生じることになります。

そのため、いざ採用内定を取消されると、取消の時期によっては、自分が希望する企業に就職することはもちろん、就職そのものが困難になってしまうケースもあります。

そこで最高裁判所は、採用内定を受けた学生に対し、その企業の従業員であるという地位を認めています(最判昭54.7.20)。

裁判所は、採用内定を受けた学生を受けた学生を守るという観点から、採用内定について「始期付解約権留保付労働契約=就労の時期(通常は4月1日)と企業側の解約権が保留されている条件が付されている労働契約」が成立している、という考え方をとってきました。

上記のような最高裁の判例が出された昭和年代では、学生が採用内定を受けた企業に誓約書を提出した段階で、学生は他社での就労の機会を放棄したと評価されました。そのような採用内定者の保護を図るというのが最高裁の考えの背景だったわけです。

(2)近年の就職内定の状況について

しかし、上記の最高裁判決が出された昭和の時代とは違い、現在は採用手続きが卒業の1年以上前に実施され、内定の前段階である「内々定」といったような決定も企業から出されているような時代となっています。

いつの時点で始期付解約権留保付労働契約が成立しているのか、判断が非常に難しい状況になっているといえるでしょう。

こういった内々定のみならず、内定についても複数の企業から得る新卒者もいますので、「正式な内定」、つまり労働契約に関する確定的な意思の合致があったといえるかどうかは、書くケースごとの判断が必要ということになります。

各企業の労働条件の提示や、入社手続等がどこまで行われたかなどの事実を検討し、学生の労働契約が確実に締結されるだろうという期待が、法的保護に値するかどうかが基準となるといえます。

(3)企業が採用内定を取消すことができる事由

内定者との労働契約について、企業側が解約権を行使できる事由については、やむをえない事情がある場合などを具体的に誓約書に記載しておいたほうがいいでしょう。

具体例としては、以下のようなものが考えられます。

  • 企業への提出書類に虚偽記載がある場合
  • 大学を卒業できない場合
  • 身体・精神の故障で就労の見込みがない場合
  • 会社の経営難等のやむを得ない事由がある場合
  • 自己都合により会社の新人研修に参加できない場合

もっとも、こうした解約自由が誓約書に記載されていなくても、客観的に合理的で、社会通念上相当として是認される事由(刑法犯罪を犯した等)があれば、採用内定を取消すことができます。

(4)経営難による採用内定の取消し

ただし、上記(3)でご紹介した事由にも含まれている「会社の経営難」を理由とした採用内定取消しについては、会社としては特に慎重に対応する必要があります。この事由による取消しは、正社員の整理解雇の要件にならって判断するのがよいでしょう。

具体的には、

(A)客観的に採用内定の取り消しを行う業務上の必要性があるか
(B)採用内定取り消しを回避する可能性がないかおよび回避するための努力がなされたか
(C)内定者に対して取消しの同意に向けての相当な努力を行ったか
(C)については、一定の解決金を提示することも重要な判断要素となるといえます。

(5)内定取消の届出と企業名公表

最後に、平成21年1月の職業安定法の改正により、採用内定の取消内容が下記の事項に該当する場合には、厚生労働大臣が、取消しの内容や企業名を公表することができるようになったことも注意が必要です。

  1. 2年度以上連続して行われたもの
  2. 同一年度内において10名以上の者に対して行われたもの(内定取消しの対象となった新規学校卒業者の安定した雇用を確保するための措置を講じ、これらの者の安定した雇用を速やかに確保した場合を除く。)
  3. 生産量その他事業活動を示す最近の指標、雇用者数その他雇用量を示す最近の指標等にかんがみ、事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められないときに行われたもの
  4. 次のいずれかに該当する事実が認識されたもの
    (イ)内定取消しの対象となった新規学校卒業者に対して、内定取消しを行わざるを得ない理由について十分な説明を行わなかったとき
    (ロ)内定取消しの対象となった新規学校卒業者の就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき

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石井 満

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