
任意後見制度と家族信託の違いとは?利用する際の判断基準や併用すべきケースを解説
家族信託
投稿日:2025.01.22
認知症や高齢化が進む現代社会で、自分の将来を案じる方は多いのではないでしょうか。
そのようななかで活用できる制度として「任意後見制度」と「家族信託」があります。
しかし、それぞれの制度の違いやメリット・デメリットを理解し、自分や家族にとってどちらが適しているのかを判断するのは簡単ではありません。
この記事では、任意後見制度と家族信託の特徴や違いを解説し、活用する際の判断基準や併用すべきケースについて紹介します。将来の備えを考える際の参考にしてください。
任意後見制度と家族信託はどんな制度?
家族信託と任意後見制度はどちらも本人が認知症を発症したときに備えて、財産管理に関する取り決めを行う制度です。
どちらも方向性は同じですが、目的や特徴に違いがあります。
それぞれの制度の概要について説明します。
任意後見制度とは
任意後見制度は、本人が認知症を発症して判断能力が低下してしまう前に、後見人になってほしい人を選んで契約する制度です。
将来、財産を管理したり、生活の支援をしたりする後見人を本人の意思で選びます。
契約を取り交わした後は、本人の判断能力が低下した段階で家庭裁判所へ任意後見監督人の選任申し立てを行います。
任意後見監督人の選任をもって、任意後見制度がスタートする仕組みです。
家族信託とは
家族信託とは、信頼できる家族に財産の管理や運用、処分を託す信託方法の一つです。
財産を保有する人(委託者)が特定の人(受託者)に財産を託して、受託者はその目的に合わせて財産を管理し、運用・処分します。
家族信託は委託者と受託者、受益者の3者で構成されます。
基本的には、委託者=親、受託者=子、受益者=親という構成になることが多いです。
受託者となる親族がいない場合でも、銀行に受託者を引き受けてもらうこともできます。
銀行に受託者を依頼する場合、別途手数料が必要です。
任意後見制度と家族信託の違い
任意後見制度と家族信託にはそれぞれ特徴や長所・短所があります。
状況にもっとも見合う制度を選ぶには、以下の4つのポイントを比較検討することが大切です。
- 財産管理開始のタイミング
- 財産管理の自由度
- 身上監護権
- 裁判所の監督者の有無
それぞれについて詳細を説明します。
財産管理開始のタイミング
家族信託と任意後見制度は、いずれも本人の判断能力が健全な間に契約を締結する制度です。
しかし、財産管理のスタート時点に違いがあります。
家族信託は契約締結時点で効力を発揮しますが、任意後見制度は本人の判断力が低下した後に効力が発生する仕組みです。
早々に財産管理を任せたい場合は家族信託がおすすめですが、判断力があるうちは自分で財産管理したい場合は任意後見制度を選択するのが良いでしょう。
財産管理の自由度
家族信託と任意後見制度では、財産管理の権限に大きな違いがあります。
家族信託では契約内容に基づいて柔軟な財産管理に対応できますが、任意後見制度は法律や裁判所の監視のさらされた管理が基本です。
たとえば、家族信託は契約の範囲内ならば不動産の売却から新規購入、積極的な資産運用まで対応できます。
一方、任意後見制度は財産管理の制限が法律で決められていたり、契約で限定されているため、積極的な資産運用や財産処分には制限がかかることが多いです
身上監護権
身上監護とは、本人の生活や療養看護、介護に関連する法律行為を行うことをいいます。
任意後見制度は身上監護に対応しており、任意後見人は本人の代わりに医療や介護関連の決定事項や生活の管理に対応できます。
具体的な対応内容は、医療契約の締結や介護サービスの手配、施設入所の手続きなどです。
家族信託は基本的に身上監護に対応できません。
家族信託は財産管理に特化した制度として制定されているため、代わりに医療や介護に関する契約締結ができないというわけです。
財産管理よりも医療や介護面でのサポートに重きをおきたいと考える場合は、任意後見制度を検討したほうが良いでしょう。
裁判所の監督者の有無
家族信託では基本的に裁判所が関与することはありません。
信託契約に基づいて受益者の監督の下、受託者の裁量で自由に財産管理を行います。
状況の変化に合わせた柔軟な対応ができるのは、家族信託ならではの強みです。
一方、任意後見制度の場合、裁判所の監督があります。
家庭裁判所によって選任された監督人は、後見人の職務を管理する立場です。
その都度報告義務が定められており、一定の管理の下で任意後見制度が実施されます。
任意後見制度または家族信託を利用する判断基準
任意後見制度と家族信託のいずれかを選ぶときは、個人の状況や家族環境、財産の規模や内容、将来の見通しなどさまざまな要素を含めた検討が必要です。
それぞれの制度を検討するときにポイントとなる判断基準は、以下の5つです。
- 身上監護が必要か
- 財産管理が必要か
- どの時点から財産管理を任せたいか
- 二次相続での財産の承継先を指定しておきたいか
- 継続的な費用を抑えたいか
それぞれの項目について詳しく解説します。
身上監護が必要か
家族や親族が遠くに住んでいて、家族の代わりに親戚の方や専門家に身上監護をお願いしたい場合は任意後見制度が最適です。
ただし、子どもや親がおらず、姪や甥が任意後見制度を契約するときは身上監護が認められない場合があるため、注意が必要です。
一方で家族が身近にいる場合は、家族信託を選んでも特に問題は生じません。
財産管理が必要か
不動産の売却など、積極的に資産を動かす必要がある場合は家族信託を選ぶほうが良いといえます。
任意後見制度では、本人の財産を維持し続けるという前提があるため、リスクを伴う財産処分は基本的にはしにくいと認識しておくことが重要です。
「施設の入所費用を得るために戻る予定のない自宅を売却したい」という場合、任意後見制度下でも売却は認められる可能性が高いですが、その都度家庭裁判所や任意後見監督人への説明が必要です。
将来自宅をどうするかという懸案事項は制度を選ぶときに併せて相談しておいたほうが良いでしょう。
どの時点から財産管理を任せたいか
元気な間に財産の委譲を済ませておきたいのか、あるいは判断力がある間は自分で管理したいのかという2つのポイントをよく検討する必要があります。
早いうちに財産を譲りたい場合は家族信託、判断力があるうちは自分で管理したいという場合は任意後見制度がおすすめです。
二次相続での財産の承継先を指定しておきたいか
家族信託では二次相続での財産の承継先を指定できます。
たとえば、一次相続では配偶者が自宅の相続人となり、二次相続では配偶者の子に相続させるということもできます。
遺言では自分が亡くなった後の相続先だけしか決めることはできません。
先々の不動産の相続を計画している場合、家族信託を選ぶと良いでしょう。
継続的な費用を抑えたいか
任意後見では任意後見監督人に対して、報酬を支払う必要があります。
基本的に本人が亡くなるまで任意後見は続くため、その間はずっとランニングコストがかかり続けることになります。
一方で家族信託は第三者による監督は必要ないため、別に監査機関を設定しなければ継続して報酬がかかり続けることはありません。
ランニングコストを抑えたい場合は、家族信託を選んだほうが良いでしょう。
任意後見制度・家族信託の費用
任意後見制度と家族信託のどちらかを選ぶにあたって、費用も大事な判断材料の一つです。
任意後見制度と家族信託それぞれに必要な費用の詳細を紹介します。
任意後見制度
まず任意後見契約を締結する際は、公証役場にて公正証書を作成しなければいけません。
公正証書の作成に必要な公証役場での費用は、約5万円ほどになります。
また、司法書士などに専門家に公正証書の作成を依頼する場合には、別途手数料がかかります(20万円から40万円程度)
任意後見人が親族の場合、報酬なしで契約を締結するケースが多いですが、第三者に任意後見人になってもらう場合は報酬が発生することがほとんどです。
司法書士を任意後見人にする場合、月額で2〜4万円程度はかかると考えておいたほうが良いでしょう。
任意後見監督人への報酬は家庭裁判所によって決定されます。
おおよそ5,000円〜3万円程度の月額費用が必要です。
家族信託
家族信託には、信託契約作成費用、コンサルティング費用等で、30万円~70万円程度の費用がかかります。
そのほか、受益者代理人や信託監督人を設定した場合や不動産を信託財産とした場合にも、別途費用が必要です。
家族信託では公正証書の作成は必須ではありませんが、万が一トラブルが発生する可能性を考慮すると作成しておいたほうが安心です。
任意後見制度と家族信託は併用できる
任意後見制度と家族信託はカバーできる範囲がそれぞれ異なります。
メリット・デメリットがあり、どちらか一方で万全な対応はできません。
各制度を併用してそれぞれのデメリットを補うことを考えたほうが良いケースもあります。
任意後見制度と家族信託を併用したほうが良いケースと併用するときの注意点を詳しく説明します。
併用したほうがいいケース
任意後見制度と家族信託を併用したほうが良いケースを2つ紹介します。
身上保護が必要な可能性が高いケース
家族信託では、例外を除いて身上保護ができません。
身近に親族がおらず、他人を頼る場合は家族信託のみの契約では身動きが取れなくなってしまいます。
一方、任意後見制度では本人に代わって老人ホームなどの施設入所の手続きが可能です。
身上監護の検討が必要な場合は、家族信託のデメリットを補うために任意後見制度を併用しましょう。
信託財産以外にも管理が必要な財産があるケース
本人が資産家で信託財産以外に多くの財産を持っているような場合は、家族信託の受託者だけで全ての財産を管理するのは不可能です。
家族信託では信託財産に制限を設けており、農地、借地権や年金受給権、債務(借金)などは信託財産として管理できません。
全ての財産を管理するには、任意後見制度と併用する必要があります。
併用するときの注意点
「任意後見人と家族信託の受託者を同じ人にしても良いのか」という点はよく考える必要があります。
一番信用できる人に任意後見人を任せたいという気持ちがあるのは当然ですが、利益相反にも配慮しなければいけません。
家族信託の場合、受託者の財産管理は原則として受益者が監督する仕組みとなっています。
この場合、受益者が認知症になってしまうと任意後見人が本人の代わりに受託者を監督することになります。
つまり、自分で自分を監督するという構図になるわけです。
信頼できる人が一人だけしかいない場合は仕方ありませんが、複数人いる場合はそれぞれ別の人を選んだほうが良いでしょう。
そのほか、任意後見制度と家族信託の併用によって、身上監護と全ての財産を管理できるメリットはありますが、任意後見監督人の報告業務や受託者の管理業務が増えることになります。
併用したほうが良いのか、家族信託を扱う専門家と相談しながら検討を進めましょう。
任意後見制度と家族信託の利用に迷ったら専門家に相談
家族信託は積極的な財産管理ができるものの、任意後見制度の財産管理は限定的です。
一方で、任意後見制度では身上監護ができますが、家族信託では対応できません。
また、家族信託では契約が成立した時点から権限の委譲ができますが、任意後見制度では判断力が低下したことを確認した後に契約開始となり権限が委譲されます。
任意後見制度と家族信託では根本的な性質が異なるため、状況に合わせた選択が求められます。
双方の良いところをとった併用もできますが、任意後見人と受託者の同一人物設定による利益相反の問題に注意が必要です。
杠(ゆずりは)司法書士法人では任意後見制度と家族信託について、どのような運用が適しているのか、専門家の知見にてアドバイスを行っています。
「馴染みの薄い家族信託をどのように運用したら良いのかわからない」「将来の身辺管理が不安」など、それぞれの運用方法に迷っている方は、ぜひ一度ご相談ください。
これまでの豊富な経験と知識をもとに、専門家として最適な答えをご提案いたします。
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