
任意後見人ができること・できないこととは?デメリットを補う対策も紹介
成年後見
投稿日:2025.03.25
将来に備えて任意後見制度の利用をお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、任意後見人にはできることとできないことがあります。
できないことがあるのはデメリットとなりますが、それを補うための方法も存在します。
任意後見制度に足りない部分を知り、どのようにすれば安心して将来を迎えられるのか、対策をすることは大切です。
この記事では、任意後見人にできることとできないことを解説し、後悔しないための対策も紹介します。
目次
任意後見人は契約に基づく事務手続きを行う代理人
任意後見人とは、被後見人が認知症などで判断能力がなくなったときに、財産や生活に関わる手続きを代理で行う人のことです。
任意後見人と被後見人の間で契約を交わし、決めた契約内容に基づいて代理で手続きを行うことが法的に認められています。
手続きをどの範囲まで行えるようにするかは、当人同士の話し合いで決めることが可能です。
契約内容は法律で一律に決められているのではなく、10人の任意後見人がいれば10通りの契約内容が存在します。
被後見人の希望に沿った契約を結びやすく、自由度が高い制度といえます。
任意後見人が行った業務は、監督者である任意後見監督人に報告が必要です。
契約どおりに適正なサポートを行っているか任意後見監督人が確認し、不正防止の役割を務めています。
任意後見人は監督人の管理のもとで、被後見人に代わってさまざまな事務手続きを代行します。
任意後見人になれる人
任意後見人になるには、法律でふさわしくないとされる事由にあてはまらない限り、成人であれば誰でもなることができます。
ふさわしくない人とは、自己破産や被後見人に訴訟をしたことがある人などです。
任意後見人には特別な資格の取得などは必要ありません。
親族や友人など、本人の希望により信頼できる人を指名できます。
また、近くに身内がいない場合や身内がいても迷惑をかけたくない場合には、司法書士や弁護士などの専門家に任意後見人を頼めます。
専門家は知識が豊富で本人の利益を侵害することもないため、後見人として安心して任せられるでしょう。
専門家以外で選ぶなら、経済的に豊かで不正を起こしにくく、財産の管理能力に優れた人を選ぶのがおすすめです。
また、被後見人の将来を任せることになるため、本人よりも若い方を選ぶようにしましょう。
任意後見人にできること
任意後見人は契約で決められた範囲内で、被後見人に代わってさまざまな手続きができます。
代理でできる手続きとして認められるのは、大きく分けて財産管理と身上保護の2つです。
具体的にどのようなことができるのかを解説します。
財産管理
任意後見制度における財産管理とは、本人に代わって必要な収支を行い、預貯金や不動産などの資産を管理していくことです。
本人の利益を害する行為は禁止されており、後見人を監督する役割の任意後見監督人に、収支や業務内容を報告する義務があります。
代理でできる内容は以下のとおりです。
- 預貯金・現金の管理
- 日常生活に必要な支払い手続きや契約
- 税金や保険料の納付・還付
- 不動産の管理・売却
- 有価証券の管理・処分
実際にできることを例に挙げながら解説します。
預貯金・現金の管理
任意後見人が代理で行う財産管理の代表的なものとして、預貯金や現金の管理が挙げられます。
管理を行うため銀行に契約内容がわかる公正証書を提示し、「後見の設定」を行います。
後見の設定後は、必要があれば代理人として預貯金の払い戻しが可能です。
ただし、任意後見人が預貯金を引き出す場合、キャッシュカードの利用が不可能になることがあります。
後見人の不正利用を防ぐための処置であり、銀行によって対応は異なります。
現金や預貯金の収支は金額や用途を正確に記録し、適正な管理を証明するためにも領収書の保管も必要です。
日常生活に必要な支払い手続きや契約
普段の生活に必要な支出に関することも代理で行えます。
必要な支出とは、例をあげると次のようなものです。
- 生活に必要な物品の購入
- 水道光熱費の支払い
- 家賃やローンの支払い
- 医療費や介護費の支払い
本人の意志にそぐわない買い物や支払いは行えず、後見人は代理で支払いを行うのみとなります。
税金や保険料の納付・還付
行政に納める税金や保険料の支払い・還付の代行をします。
納付例として、国民健康保険や本人に不動産がある場合の固定資産税などが挙げられます。
還付金があれば手続きの代行を行い、還付後は適切に管理を行わなければなりません。
納付は期限内に行う義務があるため、後見人として怠らずに納付義務を果たす必要があります。
納付額が大きければ預貯金の取り崩しも可能です。
不動産の管理・売却
任意後見人は必要に応じて、被後見人の不動産を売却することができます。
しかし、契約内容に基づいた業務を行うのが大前提であるため、契約内容に不動産の管理や売却が記載されていなければ行えません。
また、正当な理由なしでの売却は本人の利益を害する行為であり不正にあたります。
売却が必要と認められるケースは、介護施設への入居費や医療費などを捻出するため、やむをえないと判断されたときです。
必要に迫られて売る場合であっても、本人の利益となるようにできるだけ高い金額で売却できるよう努めなければなりません。
任意後見人の親族や知人に、極端に安い金額で売り渡すような行為は違反行為となります。
任意後見人は不動産の売却が可能ですが、あくまでも本人の利益のために動かなければなりません。
有価証券の管理・処分
有価証券の売却が必要な場合には、任意後見人による手続きが可能で、議決権の行使や分配金の受け取りも代行できます。
不動産の処分と同じでむやみに売却をすることはできず、やむをえず現金を捻出するときなどに売却を行います。
必要な金額に応じて一部売却を行うなど、本人の利益を害さないよう配慮した選択が必要です。
身上保護
任意後見人が行う身上保護とは、被後見人の生活に関わるサポートを行うことです。
身体的な介護とは違い、手続きの代行や手伝いが業務となります。
判断能力が低下した本人に代わって以下のことを行います。
- 住宅や施設の入居手続き
- 病院や介護サービス選びと利用手続き
- 家族や友人との連絡
将来必要になることが想定される手続きなので、身上保護も契約内容に含めておくと良いでしょう。
身上保護の具体的な内容を解説します。
住宅や施設の入居手続き
転居や施設入居が必要になった際には、転居先・入居先を探し契約に関わる手続きを代行します。
判断能力が低下した本人が行うには難しい手続きであるため、後見人のサポートが欠かせません。
本人の経済状況や身体状況に配慮した転居先を選び、本人が快適に過ごせる環境を整える必要があります。
転居先・入居先探しから契約の締結までを責任をもって行います。
病院や介護サービス選びと利用手続き
任意後見人が、本人の状況に合った病院や介護サービス選びから手続きまでをサポートします。
医療において発生する手続きは、入院や転院の際の契約同意や状況変化に合わせた契約変更などです。
介護サービスでは介護認定の度合いに合わせた介護が受けられるよう、申請を出したりケアプランを確認したりします。
病院や介護のスタッフと話し合い、今後の方針や利用を決めていきます。
家族や友人との連絡
契約などの手続き以外にも、何かあったときに家族や友人への連絡を任されることがあります。
入院でしばらく家をあけるときや施設へ入居する際など、生活に変化があるタイミングで周囲の方へ連絡をすると安心でしょう。
お弁当の宅配業者など定期的な宅配がある場合にも連絡が必要です。
どのようなときに誰に連絡をするのかを、事前に話し合っておくのがおすすめです。
任意後見人にできないこと
任意後見人は契約で決められたことを行えますが、契約内容に入れたくてもできないこともあります。
被後見人の人権を害することや、法的に本人しか行えないことなどは任意後見人であっても代行はできません。
任意後見人にできないこととは次のようなことです。
- 本人への強制的な医療・身体的対応
- 本人の身分変更に関わる決定
- 任意後見契約の内容に違反する行動
- 本人が締結した契約を取り消す行為
- 死後の事務行為
本人の希望に関わらず、任意後見制度では上記の行為が認められていません。
詳しい内容を解説します。
本人への強制的な医療・身体的対応
本人が望まない医療行為や身体に害を与える可能性が高い検査は、身上保護を任された後見人でも強制的に行えるものではありません。
本人の意志を尊重せず人権侵害にあたるからです。
次のような行為は、本人のためであっても人権侵害とみなされます。
- 無理やり入院をさせる
- 望まない転院をさせる
- 危険性の高い治療や手術を強行する
- 代理で臓器提供の同意をする
本人の意志に反した強制的な行為は禁止されています。
判断能力が低下したときのための任意後見制度ですが、行き過ぎた行動はせず、本人の考えを尊重しなければなりません。
本人の身分変更に関わる決定
身分変更とは、結婚・離婚・養子縁組などの戸籍に関する手続きのことです。
法的に本人にしかできないことであり、任意後見人の権利では代行できません。
身分変更は本人の利益に重大な影響を与えるため、本人の意志によって行うものと考えられているからです。
本人の意志で身分変更を行う場合は、任意後見人であっても決定に関与することはできません。
任意後見契約の内容に違反する行動
任意後見制度は、被後見人と任意後見人の間で決めた契約内容に基づいて行われるものです。
契約内容に記載されていない行為や内容にそぐわないとされる行為は違反です。
本人の現金や預貯金を後見人が自分のために使うことはもちろん、契約内容に入っていない行為は行うことができません。
たとえ本人のためであっても、後見契約で不動産の売却権限が与えられていないのに、勝手に売却する行為は違反となります。
有価証券の管理や売却も同じで、契約により権限が与えられていなければ行えません。
もし違反行為が行われた場合は、業務上横領罪の罪に問われたり、損害賠償責任を負ったりするケースもあります。
任意後見人は契約内容に沿ったサポートをしていくのが役割であり、被後見人の利益を害する行為や契約にない行為は違反となります。
本人が締結した契約を取り消す行為
任意後見人には、被後見人が締結した契約を取り消すことができる取消権が与えられていません。
あくまでも本人の意志を尊重することが重要視されているからです。
不要と思われる高額商品の購入や不利益につながる契約であっても、取消権の主張は認められません。
ただし、後見契約に紛争処理の代理権がある場合には、クーリングオフの制度を使って契約の解除を行えます。
消費者に事実を告げずに契約をさせた場合や、脅迫による不本意な契約だったと主張できる場合にも、紛争処理の手続きとして代行が可能です。
取消権がない点は任意後見制度の弱点ともいえますが、紛争処理の代理権を与えることで解決できる可能性があります。
死後の事務行為
任意後見人の権利が及ぶのは、被後見人の判断能力が低下してから死亡するまでの期間です。
死亡後は財産管理も身の回りの手続きも代理で行う効力が消えるため、死後のサポートができません。
葬儀・埋葬の手配や支払い、ライフラインの解約など、死亡後も必要な業務は多いものです。
死亡後のサポートが行えないのをデメリットに感じる方のために、解決策を次項で紹介します。
任意後見人にできないことを補う対策
任意後見人の権限ではできないことがありますが、それを補うための方法があります。
ほかの制度と併用して利用することで任意後見制度に足りない部分をカバーし、より希望に沿ったサポートを受けられます。
具体的な対策は、以下のとおりです。
- 財産管理委任契約を利用する
- 死後事務委任契約を利用する
- 家族信託を利用する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
財産管理委任契約を利用する
財産管理委任契約は任意後見制度と同じように、財産管理や身上保護を代理人に任せることが可能です。
契約内容を双方で取り決められる点も同じですが、代理人の効力が発生するタイミングに違いがあります。
任意後見制度は被後見人の判断能力が低下してからでないと効力が生じないのに対して、財産管理委任契約は判断能力があるうちから利用できます。
認知症による判断能力の低下が認められなくても、契約などの手続きをご自身で行うのに不安がある方もいるでしょう。
財産管理委任契約を利用すればすぐに代理人のサポートが開始されます。
ただ注意点として、個人間の契約であるため金融機関によってはこの契約による代理手続きを認めていないところもあります。
また、任意後見制度のように監督人がいないため信頼できる人を選ぶことが重要です。
判断能力の低下前からサポートを受けたい方は、財産管理委任契約を利用すると良いでしょう。
死後事務委任契約を利用する
死後事務委任契約を結ぶと、代理人に自身の死亡後のさまざまな手続きを委任できます。
委任できる手続きは以下のようなものです。
- 葬儀・火葬・埋葬の手続き
- 行政に行う手続き
- 電気・ガス・水道や賃貸住宅などの解約
- 病院や介護施設への費用の清算
- 遺品整理
任意後見制度だけでは死亡後の代理手続きは行えませんが、死後事務委任契約を併用すれば可能になります。
家族信託を利用する
家族信託とは、特定の財産の管理や処分を受託者に委ねる契約です。
本人(委託者)と受託者との間で契約を結んだときから効力が発生し、裁判所の関与を受けずに管理が可能です。
口座名義人が認知症になると口座が凍結されて入出金ができなくなりますが、家族信託で財産管理を行っていれば凍結を免れます。
任意後見制度よりも柔軟性が高いというメリットがある一方で、管理できる財産に制限があり、身上保護ができないデメリットもあります。
2つの制度を併用することでそれぞれのデメリットを補った管理が可能です。
任意後見制度の相談は杠(ゆずりは)司法書士法人へ
将来、判断能力が低下したときのために任意後見制度の契約を締結しておくと安心です。
ただし、任意後見人にはできることとできないことがあるため、できないことを補うためにほかの制度との併用も必要です。
ご自身が望むサポートを受けるためにはどの制度を併用するのが良いか、迷ったときは杠(ゆずりは)司法書士法人にご相談ください。
ご希望や状況を伺ったうえで最適な方法をご提案いたします。
また、ご家族に後見人の負担を背負わせたくない方は、杠(ゆずりは)司法書士法人がご家族に代わって後見人をお引き受けいたします。
後見に関する手続き全般も行っており、不明点を全面的にサポートいたします。
任意後見制度のご利用をお考えの方は、まずはお気軽にご相談ください。
本記事に関する連絡先
TEL: 06-6253-7707
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