
未成年者も相続できるが特別代理人が必要!未成年者控除や注意点を解説
相続
投稿日:2025.05.28
未成年者が相続をすることになり、問題なく相続できるのか、どのように手続きすればよいのかわからずにお困りの方もいるでしょう。
相続人が未成年者だと、状況により特別代理人の選任が必要となります。
また、相続税が軽減される未成年者控除が受けられることもあり、成人の相続とはいくつか異なる点が出てきます。
この記事では、未成年者が相続をする際の手順と特別代理人の選任方法、未成年者控除の適用条件を解説します。

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目次
未成年者でも相続は可能
相続人が未成年でも相続は可能です。
成人の相続人と同じように相続権があり、未成年だからという理由で除外されることはありません。
法律で決められた相続割合に応じて財産を受け取れます。
ただし、未成年者本人による法的手続きは行えないため、親権者や特別代理人が未成年者に代わって相続手続きを行います。
未成年者の相続に必要な特別代理人とは?
特別代理人とは、法的な手続きが行えない未成年者に代わり、遺産分割協議や相続放棄などを行う代理人です。
同じ相続において、未成年者と利害対立(利益相反)のない人だけが特別代理人になれます。
特別代理人は民法で定められた、未成年者の法的利益を守るための制度であり、裁判所の承認を受けて代理人が決定します。
第826条
親権を行う父又は母とその子と利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
引用元:民法第826条
簡単にいうと、親子間で相続の利害関係があるときは、子の利益を守るために家庭裁判所で特別代理人を選ばなければならないということです。
つまり、親と子が同じ法定相続人である場合は、親が子の特別代理人にはなれません。
特別代理人は子の叔父叔母や祖父母、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するのが一般的です。
資格などは必要ありませんが、以下の条件を満たす必要があります。
- 成人している方
- 成年被後見人・被保佐人・破産者に該当しない方
ほかの相続人とあまりにも親しい関係の方だと、子の利益を守れないと判断され、裁判所の許可が下りない可能性もあります。
公平な立場から相続が行えることを重視すると、専門家は裁判所の許可が下りやすく、適切な特別代理人といえます。
特別代理人を弁護士や司法書士などの専門家に依頼する場合、費用は数万円〜十数万円程度が一般的です。
ただし、家庭裁判所が報酬を定めることもあり、実際の額は案件の複雑さや代理人の選定条件により異なります。
裁判所への確認と見積もり依頼が重要です。
特別代理人の仕事は、相続手続きが終わるまでです。
未成年者の相続で特別代理人が必要なケース
相続人が未成年者だと、多くのケースで特別代理人の選任が必要となります。
必要なケースは以下のとおりです。
- 遺産分割協議をするなど法律行為を行う場合
- 親権者が法定相続人である場合
- 未成年者が相続放棄をする場合
- 未成年者の相続人が複数人いる場合
ここからは、どのような場合に特別代理人が必要となるかを詳しく解説します。
遺産分割協議をするなど法律行為を行う場合
未成年の相続人が遺産分割協議を行う場合、特別代理人が必要となります。
未成年者は、利益に関わる法律行為を行えないからです。
遺産分割協議は誰がどの財産を引き継ぎ、分割割合はどのようにするかなどを話し合うもので、利益が絡む法律行為にあたります。
親も同じ相続人である場合は、親以外の第三者を特別代理人に選ばなければなりません。
未成年の相続人が不利な遺産分割とならないよう、特別代理人によって遺産分割協議が行われます。
親権者が法定相続人である場合
未成年者の相続でよくあるケースは、片方の親が亡くなり、もう片方の親と子どもが相続するケースです。
例えると次のようなケースです。
- 被相続人(故人):父
- 相続人:母・子
この場合は親と子の両者が相続人であり、親子間で利害対立(利益相反)が発生するため、親は特別代理人になれません。
親が自身の利益のために子の相続割合を減らしたり、相続放棄させたりすることもできてしまうからです。
未成年者の利益を守れないと判断される場面では、親が特別代理人になれず、ほかの第三者を特別代理人として選出します。
未成年者が相続放棄をする場合
未成年者が相続放棄を行う際にも、特別代理人が必要となるケースがあります。
未成年者の相続放棄は親権者が代理で裁判所に申立てを行えますが、状況によっては無効となります。
相続人が以下の2人だった場合を例にあげて見てみましょう。
- 成人した兄(弟の親権者)
- 未成年の弟
兄と弟はどちらも相続人であり、兄が代理で相続放棄を行うのは利益相反となるため、親権者であっても弟の相続放棄は行えません。
兄が遺産をすべて自分のものにしようとして、弟に相続放棄をさせてしまう危険性があるからです。
民法第826条により、親権者と未成年者との間に利益相反がある場合には、親権者は代理行為を行うことができません。
そのため、相続放棄の申述サポートは、家庭裁判所で選任された特別代理人が行う必要があります。
未成年者の相続放棄は、同じ相続人である親権者からの申立てでは無効になるため、特別代理人が行わなければなりません。もっとも、親権者が自分も相続放棄を行う場合など例外もありますので、専門家にご相談ください。
未成年者の相続人が複数人いる場合
相続人のなかに未成年者が複数人いる場合は、親権者は特別代理人にはなれません。
2人の未成年者がいるケースを例にあげると、同時に2人の代理人にはなれず、どちらか1人だけの代理人ともなるのも不可能です。
2人の子はお互いに相続で利害関係があるため、1人の親が両者の代理人を務めれば利益相反となってしまいます。
また、1人だけの子の代理人となればもう1人の子と遺産分割の話し合いをする立場となり、利益相反にあたります。
どちらか1人に肩入れして公平な遺産分割とならない事態を防ぐため、親が2人以上の未成年者の代理人を努めることは認められません。
第三者のなかから特別代理人を選ぶ必要があります。
未成年者の相続で特別代理人が不要なケース
相続人が未成年者であっても、特別代理人が必ず必要なわけではありません。
以下のケースでは特別代理人は不要です。
- 親権者が相続人でない場合
- 親権者が相続放棄している場合
- 未成年者が成人してから遺産分割協議をする
- 遺産分割協議を伴わない事務手続きのみを行う場合
- 遺産分割協議を行わず遺言に従うだけの場合
- 相続財産が現金のみで法定相続分通りに分ける場合
どのような場合に特別代理人が不要となるのか詳しく解説します。
親権者が相続人でない場合
親権者が法定相続人でない場合は、親が代理人として適格とされ、選任されることが可能です。
親が2人以上の未成年者の代理人を兼任することは、利益相反の観点から法的に認められていません。
親権者が法定相続人とならないのは、次のようなケースです。
- 被相続人(故人):父方の祖父
- 相続人:未成年の孫
- 父はすでに亡くなっている
このケースは、亡くなった父の代わりに孫(父の子)が相続人となる、代襲相続といわれるものです。
子の母が生きていても母は法定相続人とはならないことから、利益相反が生まれません。
また、以下のケースも母が法定相続人とはなりません。
- 被相続人(故人):父
- 相続人:子
- 親権者である母は父と離婚している
両親が離婚していれば母は父の配偶者ではないため、法定相続人ではありません。
このケースでも第三者による特別代理人は不要で、母が代理人を務めます。
親権者が相続放棄している場合
親権者が相続放棄を行った場合も、特別代理人を立てる必要がありません。
相続放棄を行えば親権者は相続人ではなくなるため、子との間に利害関係がなくなり代理人を努められるからです。
親権者が自分の利益のために、未成年者の利益を害する危険性もなくなります。
未成年者と親権者が同じ相続において、利益相反とならなければ特別代理人は不要です。
未成年者が成人してから遺産分割協議をする
相続が発生した時点で相続人が未成年だったとしても、成人するのを待ってから遺産分割協議を行えば、特別代理人は必要ありません。
民法第4条により、2022年4月に成人年齢が18歳に引き下げられています。
(成年)
第四条 年齢十八歳をもって、成年とする。
引用元:民法第4条
18歳以上は本人の意思で遺産分割協議を行い、署名することが認められています。
以下のように、成人を待ってから遺産分割協議をするケースもあります。
- 相続発生から数ヶ月後に18歳の誕生日を迎える
- 相続人全員の合意があり遺産分割協議が遅れてもトラブルにならない
- 管理が必要な財産がなく急いで遺産分割をしなくてもよい
未成年者の年齢と相続の状況によっては、特別代理人を選任するよりも成人を待った方が手間がありません。
ただし、故人が賃貸物件を経営しており、管理のために急いで相続登記を行うようなケースでは、早急な遺産分割が必要となるでしょう。
未成年者の成人を待てば、特別代理人なしで遺産分割協議が可能となります。
遺産分割協議を伴わない事務手続きのみを行う場合
遺産分割協議を行わずに相続手続きを進める場合は、特別代理人は不要です。
遺産分割協議なしで相続を行えば、民法で決められたとおりに遺産が分けられ、未成年者の利益は守られるからです。
不動産は相続人全員の共有持分となり、預貯金も法定どおりに分けられるので、未成年者が相続できる財産を奪われることはありません。
法律行為であっても利益相反が生まれず、遺産引き継ぎの事務手続きを行うだけなら、特別代理人なしでも可能です。
遺産分割協議を行わず遺言に従うだけの場合
遺言執行者が選任されており、遺産分割協議をせずに相続する場合、未成年者でも特別代理人が不要となるケースが多いです。
遺言書は相続人間の遺産分割協議よりも効力が強く、優先されます。
財産すべての相続方法が遺言書により決められていれば、遺産分割協議を行う必要がなくなり、利益相反は発生しません。
遺言書で相続人が指定されていない財産についても、遺産分割協議を行わずに相続をするなら、特別代理人は不要です。
相続財産が現金のみで法定相続分通りに分ける場合
現金のみを相続人間で法定相続分どおりに分ける際は、特別代理人を立てなくても手続き可能です。
このケースでも話し合いが不要となるため、未成年者の利益が侵害されることはありません。
遺産分割協議は、不動産の相続人を決めるために行われることが多いものです。
遺産が現金のみだと遺産分割協議を行うことは少なく、法定どおりの相続割合で分けるケースが多くなります。
特別代理人が不要となり、比較的スムーズに相続ができるでしょう。
未成年者が関係する相続手続きの基本的な手順
未成年者の相続手続きを進める際には、通常とは違った手順が含まれます。
未成年者の相続では、特別代理人の選任申立てや未成年者控除の手続きなどが必要です。
ここからは、未成年者の相続手続きのながれを解説します。
相続人の調査・確定
亡くなった方の戸籍を死亡から出生までさかのぼりすべて取得し、誰が相続人となるのかを調査・確定します。
戸籍の取り寄せといった事実確認の作業なので、親権者が未成年者と同じ相続人であっても調査は可能です。
親権者が未成年者の法定代理人として、戸籍の取得や調査を行います。
財産調査・財産の把握
故人の遺産をすべて把握するために、各機関へ財産の照会を依頼します。
不動産のことは法務局、預貯金や株式のことは銀行や証券会社へと照会依頼します。
借金やローンなどの債務も調べましょう。
遺言書の有無も、自宅・法務局・公証役場などで確認しておきます。
遺言書があれば記載内容が優先されるので、事前に十分に調査を行わなければなりません。
相続方法の選択
単純承認・限定承認・相続放棄のなかから、どれを選ぶか相続方法を決めましょう。
遺産がプラスの財産よりも負債の方が多かった場合には、負債の支払いを避けるために相続放棄を行います。
プラスとマイナスのどちらの財産が多いか不明な際は、限定承認を選べばプラスの財産の範囲内でだけ負債を支払えばよいので安心です。
未成年者が相続放棄や限定承認を選ぶには、特別代理人が必要となるケースがあります。
通常は法定代理人が家庭裁判所に申立てを行いますが、法定代理人が相続権利をもつ親なら、特別代理人を立てなければなりません。
単純承認を選び一切放棄を行わない場合は、この時点では特別代理人の選任は不要です。
遺産分割協議の準備
法定相続分と異なる割合で相続をするには、遺産分割協議が必要です。
未成年者と親権者がどちらも相続人であれば、話し合いに入る前に特別代理人の選任を行います。
両者の間に利益相反がある状態で遺産分割協議を進めても、無効となります。
利益相反がある場合は家庭裁判所で「特別代理人」を選任
利益相反があるかを必ず確認し、ある場合は親権者か未成年後見人が、家庭裁判所に特別代理人の選任申立てを行います。
申立ての手順は以下のとおりです。
- 親権者または未成年後見人が必要書類を準備
- 未成年者の住所地の家庭裁判所に提出
- 家庭裁判所による審査
- 選任決定
裁判所への提出書類は以下のものを用意します。
- 特別代理人選任申立書
- 未成年者の戸籍謄本
- 親権者または未成年後見人の戸籍謄本
- 特別代理人候補者の住民票または戸籍の附票
- 財産目録や詳細がわかる資料(銀行通帳の写しや不動産の固定資産評価証明書など)
- 申立人と未成年者の利害関係を証明する資料
選任が決まるまでには、申立てから2~4週間程度かかります。
特別代理人の選任は、被相続人の死亡したことを知った日の翌日から3ヶ月以内に相続放棄や限定承認を行う必要がある場合、その期限までに済ませておく必要があります。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。
引用元:民法第915条
特に相続放棄は熟慮期間内に手続きを行わないと単純承認と見なされるため、早めの準備が必要です。
それまでは遺産分割協議ができない点に注意し、早めに申立てを行うようにしましょう。
遺産分割協議の実施・協議書の作成
特別代理人が未成年者の代理として、遺産分割協議に参加します。
特別代理人を含めすべての相続人が内容に合意できれば、遺産分割協議書を作成します。
協議書に行う未成年の署名は特別代理人が行い、代理人名の署名と実印での押印も必要です。
特別代理人の印鑑証明書も協議書に添付しましょう。
名義変更・財産の引き継ぎ
未成年者が不動産や預貯金などを引き継ぐ際には、名義は未成年者本人のものにしなければなりません。
不動産登記や預貯金の払い戻しは親権者が代理で行なえますが、金融機関によっては特別代理人による手続きを求められることもあります。
各機関に確認をして手続きを進めましょう。
相続税の申告・納付
相続税の申告期限は相続開始から10ヶ月です。
未成年者であっても相続税が課せられる際には、申告と納付が必要となります。
親権者が代理で申告を行えます。
未成年者の相続には未成年者控除の適用が可能
未成年者に課せられる相続税には、未成年者控除が適用されます。
控除を受けるには以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 相続や遺贈で取得した財産であること
- 財産の取得時に日本国内に住所があること
- 財産の取得時に18歳未満であること
- 法定相続人であること
適用される控除額は未成年者の年齢によって異なり、次の算出方法が使われます。
(18歳-相続時の年齢)×10万円=控除額
未成年者の年齢が相続時に10歳5ヶ月だとしたら、端数となる月齢は切り捨てて「10歳」として計算を行います。
計算式は「18歳-10歳×10万円=80万円」となります。
控除額が80万円なので、未成年者にかかる相続税が80万円以下なら相続税は0円です。
この未成年者控除の算出式は、相続税法第19条3項に基づくもの。
(未成年者控除)
第十九条の三 相続又は遺贈により財産を取得した者(第一条の三第一項第三号又は第四号の規定に該当する者を除く。)が当該相続又は遺贈に係る被相続人の民法第五編第二章(相続人)の規定による相続人(相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人)に該当し、かつ、十八歳未満の者である場合においては、その者については、第十五条から前条までの規定により算出した金額から十万円にその者が十八歳に達するまでの年数(当該年数が一年未満であるとき、又はこれに一年未満の端数があるときは、これを一年とする。)を乗じて算出した金額を控除した金額をもつて、その納付すべき相続税額とする。
引用元:相続税法第19条第3項
同条では、「相続開始の時において十八歳未満である者については、十八歳に達するまでの年数1年につき10万円を控除する」と明記されています。
未成年者の相続税から控除額が引ききれなかった場合には、余った分を親権者の相続税に適用できます。
未成年者の相続手続きの相談は杠(ゆずりは)司法書士法人におまかせ!
相続人が未成年であっても、成人と同じように相続権利があります。
相続の状況によっては、特別代理人の選任が必須となります。
また、未成年者控除の適用が受けられるため、相続税の軽減が可能です。
通常とは異なる手続きが必要となるため、不安があれば専門家に依頼をするのがよいでしょう。
杠(ゆずりは)司法書士法人では、未成年の特別代理人に関する相談も行っております。
未成年者の相続手続きで不安がある方は、杠(ゆずりは)司法書士法人へご相談ください。
本記事に関する連絡先
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