相続放棄のデメリットとは?迷ったときの判断基準や注意点を解説
相続
投稿日:2024.12.16
相続放棄は、被相続人(亡くなった方)の負の遺産を相続したくない場合に選択することが多いです。
相続人が借金を返済しなくて済むというメリットがありますが、一度相続放棄すると原則は撤回できないといったデメリットも存在します。デメリットを理解せずに安易に相続放棄を選択してしまうと、思わぬ損失を招く可能性も否定できません。
この記事では、相続放棄のデメリットについて詳しく解説します。また、相続放棄をするか迷ったときの判断基準や手続きをするうえでの注意点についても解説しているので、相続について悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
相続放棄のデメリット
被相続人に大きな負債があるときに有力な選択肢となる相続放棄ですが、相続放棄を選ぶことで起きる不都合な事実も把握しておきましょう。
相続放棄のデメリットは、次の通りです。
- 一切の財産を相続できなくなる
- 一度相続放棄すると原則は撤回できない
- 相続権が次順位の相続人に移りトラブルになる可能性がある
- 死亡保険金や死亡退職金といった非課税枠が使えない
それぞれ詳細を説明します。
一切の財産を相続できなくなる
相続放棄のもっとも大きなデメリットは、被相続人の財産を一切相続できなくなることです。
相続放棄をすると全ての相続財産を放棄することになるため、マイナス分だけでなくプラスの財産まで相続する権利を放棄することになります。
負債の責任を放棄できる大きなメリットがある反面、デメリットも存在するということです。
相続放棄を検討する場合、負債とプラス分の財産の割合をよく調べておく必要があります。
相続放棄後に大きなプラス資産が見つかっても後の祭りです。
相続放棄をしていると一切の相続権利はありません。
一度相続放棄すると撤回できない
相続手続きの面倒さや遺産相続争いの煩わしさに耐えきれずに相続放棄を検討する人は少なからず存在しますが、一度相続放棄してしまうと後で取り消すことはできません。
相続に関するさまざまな諸問題を解決する術が見つかったとしても、相続放棄の撤回は原則的に認められません。
安易な選択は後悔の元です。
相続放棄をするときは、いかなる理由があっても後から撤回できないことをよく認識しておきましょう。
ただし例外として、錯誤や詐欺、脅迫によって相続放棄をした場合に限っては相続放棄を取り消すことができます。
相続権が次順位の相続人に移りトラブルになる可能性がある
相続放棄をすると、相続権は次の順位の人へ移動します。
相続の順位に変更があった場合、新たな相続人に通知されることはありません。
次の相続人は知らない間に負債を背負ってしまうことになります。
新しく相続人になった人が負債を負わされたことを知るのは、負債の通知といった郵便物が届くタイミングです。
相続放棄をした後に新たな相続人に何も言わずにいるとトラブルに発展する可能性は高いです。
知らない間に負債を背負わされた人の気持ちは穏やかならぬものがあるでしょう。
相続放棄を選択する場合、次の順位の人へ相続放棄をした旨を知らせるようにしましょう。
死亡保険金や死亡退職金といった非課税枠が使えない
被相続人が生前に死亡保険を契約していた場合、死亡保険金は受取人の財産と見なされるため、受取人が相続放棄した場合でも死亡保険金は受け取ることができます。
この際、契約者と被保険者が同じ人の場合、みなし相続財産と見なされ相続税の課税対象となります。
通常、生命保険金には「500万円×法定相続人の数(相続放棄をする前)」の非課税枠が設けられていますが、相続放棄をすると相続人ではなくなるため非課税枠の恩恵は受けられません。
相続放棄のメリット
相続放棄を選択することで得られるメリットは、主に以下の2点です。
- 借金を返済しなくて済む
- 相続に関するトラブルを回避できる
それぞれの詳細について説明します。
借金を返済しなくて済む
被相続人の残した負債を相続という形で背負う必要がなくなります。
借金とは無縁の生活をしていたのに、突然自分とは無関係な負債を背負わされてしまうのは、気持ちのうえでも整理をつけにくいです。
理不尽な負債を背負わされそうになったときでも相続放棄を選択すると、一切の借金返済義務はなくなります。
借金返済義務を回避できることは、相続放棄の最大のメリットです。
相続に関するトラブルを回避できる
相続財産の多寡にかかわらず、遺族の感情のもつれによって遺産相続の争いは発生します。
長い期間醸成された複雑な感情が絡み合っている場合は相続争いが泥沼化してしまい、解決の目処が立たなくなることもよくある事例です。
相続放棄をしてしまえば、遺族間の相続争いに巻き込まれることはありません。
「遺産を相続することよりも、余計な騒動に巻き込まれないことのほうが大事」という方にとって相続放棄は大きなメリットとなります。
相続放棄するか迷ったときの判断基準
相続放棄を選択すると負債を回避できるというメリットはありますが、プラスの財産まで放棄してしまうことになります。
相続放棄を検討する際に、安易な判断は後悔の元です。
相続放棄するか迷ったときの2つの判断基準について紹介します。
プラスの財産内で債務を弁済できるか
相続した財産で負債を完済できる場合は、放棄をせずにそのまま相続するほうが良いでしょう。
ただし、単にプラスになっているからといって深く考えずに相続してしまうのは良い判断ではありません。
相続財産の中に不動産や未公開株が含まれている場合は、適切な資産価値の査定が必要です。
相続評価を適切に行わないと相続放棄の検討もできません。
「有価証券や不動産があるから相続したが、実は負債のほうが多かった」という事態は避けたいところです。
有価証券や不動産の相続評価がよくわからない場合は、無理せずに専門家へ依頼するようにしましょう。
限定承認ができないか
限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続する制度です。
マイナスの財産を相続したとしても、限定承認をするとプラスの範囲内に収まるため相続によって負債を負うことはありません。
限定承認はプラスとマイナス、どちらの財産が多いのかわからない場合に効果的です。
限定承認のデメリットは、手続きが複雑な点にあります。
また、相続人全員が共同して行う必要があるため、仲の悪い親族や疎遠な相続人がいる場合は手続きに時間がかかるケースもあります。
相続放棄をする前に知っておきたい注意点
相続放棄を検討する前に知っておきたいポイントを3つ紹介します。
- 相続放棄を申し立てできる期間は3ヶ月
- 相続の財産に手をつけると相続放棄ができなくなる
- 相続放棄後も相続財産の管理義務を継続する場合がある
それぞれ詳しく見ていきましょう。
相続放棄を申立てできる期間は3ヶ月
相続放棄の申立て期間は3ヶ月です。
相続放棄をしたい場合は相続の事実を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述しなければいけません。
相続放棄の申立て期間の延長を希望する場合も3ヶ月以内に申請する必要があります。
期間を超えてしまうと相続放棄はできません。
ポイントは被相続人が亡くなってからではなく、相続の事実を知った日が起点となる点です。
亡くなった日が10月1日で、相続の事実を知った日が10月15日の場合、10月15日から3ヶ月以内が申し立ての期限となります。
相続の財産に手をつけると相続放棄ができなくなる
被相続人の財産に手をつける行為として、よくあるのが以下の3つです。
- 被相続人の預貯金を引き出して自分の口座へ入金した
- 被相続人の預金を解約して自分名義にした
- 被相続人が管理していた不動産の賃料の入金を自分の口座へ変更した
被相続人が亡くなった後になんとなくやってしまいそうな手続きですが、このような行為は「相続の意思あり」と見なされます。
一度手をつけると相続放棄はできません。
そのほかには、形見分けや遺品整理の名目で衣類などを他人に譲渡するような遺産整理を行った場合も相続放棄ができないこともあります。
知らなかったという理由は認められません。
相続放棄を検討しているときは、遺産には一切手をつけないように注意しましょう。
相続放棄後も相続財産の管理義務を継続する場合がある
相続放棄を行った後でも現時点で占有している財産がある場合、次の財産管理者へ引き渡すまでの間、財産の管理を行う必要があります。
相続人全員が相続放棄をした場合でも、家庭裁判所専任の「相続財産清算人」に引き渡すまでの期間、財産の管理義務は継続されます。
たとえば、管理義務の期間中に空き家が倒壊して近所の家や通行人に被害を与えてしまった場合、管理責任を問われて損害賠償を請求されることもあるため注意が必要です。
相続放棄をしても次の管理者へ引き渡すまでは管理責任があるという事実をよく認識しておきましょう。
相続放棄をする流れ
自分で相続放棄の手続きを進めるときの流れは、以下の通りです。
- 相続財産調査を行う
- 相続放棄の手続きにかかる費用の確認と準備をする
- 相続放棄に必要な書類の準備をする
- 家庭裁判所に相続放棄の申立てをする
- 家庭裁判所から照会書が届く
- 相続放棄が許可された後に相続放棄申述受理通知書が届く
まずは、相続放棄を検討するための被相続人の財産調査を行います。
全財産がマイナスであれば相続放棄をしても良いのですが、プラスの場合は相続放棄すると損してしまいます。
一度相続放棄を行うと撤回できないため、慎重に調べましょう。
相続放棄にかかる費用は、3,000〜5,000円程度の手数料です。
必要書類をそろえて家庭裁判所へ申し立てた後は、照会書が送られてきます。
照会書に必要事項を記入して返送しましょう。
家庭裁判所にて相続放棄が許可されれば相続放棄申述受理通知書が届きます。
相続放棄の手続きは自分でできる?
相続放棄の手続きそのものは専門家に依頼しなくても自分で可能です。
しかし、相続するかしないかを判断するには、被相続人の財産状況を正確に把握する必要があります。
「被相続人の財産がプラスだと思って申請したら、実際には多額の債務が残されていた」というケースも少なくありません。
また、「自分で手続きを進めて申述したところ相続放棄が却下されてしまい、相続放棄の申述ができなくなってしまった」ということもあります。
被相続人の財産が不明瞭で、かつ相続すべきか否か正確な判断を下したい場合は自分で手続きを進めずに専門家へ依頼するのが安心です。
専門家に依頼する場合にかかる費用
相続放棄の手続きは、司法書士や弁護士に依頼できます。
それぞれの報酬相場は、次の通りです。
司法書士へ依頼する場合 | 約3~8万円 |
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弁護士へ依頼する場合 | 約5~10万円 |
司法書士への依頼相場は約3~8万円ですが、相続放棄期限の3ヶ月を過ぎると費用が高くなります。
弁護士への相談費用は、司法書士と比べるとやや高めです。
相続の基本的な手続きのほかに、相続放棄後のトラブル防止に関する相談にも乗ってもらえます。
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相続放棄の大きなデメリットは、一度相続放棄すると一切の財産を相続できなくなることです。
完全な相続放棄は一方から見るとメリットですが、違う角度から見るとデメリットにもなり得ます。
プラスの財産が後から発覚しても相続放棄の取り消しはできないので、慎重に判断しましょう。
そのほかに気をつけるべきポイントは、知らない間に相続人にされた親族との間でのトラブルです。
相続放棄をするときは関係者へその旨を伝えることを忘れないようにしましょう。
相続放棄をするか迷ったときの判断基準は、トータルで負債がないことと限定承認の可能性です。
判断に迷うようであれば専門家への相談も選択肢の一つです。
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