相続人申告登記とは|いつから始まる?手続きの流れやメリット・デメリットを解説
投稿日:2024.12.02
2024年4月から相続登記が義務化され、相続に関する手続きが大きく変わりました。相続人申告登記も新しく設置された制度の一つです。
しかし、これから相続登記をしようとしている方のなかには「相続人申告登記必ずしなければならないのか」「相続登記との違いは何なのか」など、疑問点もあるのではないでしょうか。
この記事では、相続人申告登記の概要や手続きの流れ、メリット・デメリットについて詳しく解説します。
相続人申告登記とは
相続人申告登記とは、相続が発生したことを法務局に申請して、簡易的に相続人の申告義務を果たす手続きのことです。
相続人が多く遺産分割協議がまとまらないと、相続登記の期限である3年を過ぎてしまうことがあります。
このような場合でも相続人申告登記をしていると、誰が相続人であるかが明確になっているため、不動産の売買や贈与などの手続きをスムーズに行えます。
これまで相続の申請は義務とされておらず、不動産の権利を得たとしても放置しているケースが多く見られました。
しかし、相続登記を放置しておくと、名義上の所有者と実際の所有者が異なるため、公共事業や民間の取引において手続きに時間がかかります。
このような問題を解決するために、2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されました。
相続人申告登記はいつから?
相続人申告登記は、相続登記の義務化に伴い、2024年4月1日から利用できるようになりました。
相続登記が義務化されたことにより、自分が相続によって不動産を取得することを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければいけません。
なお、正当な理由がないのに相続登記の申請を怠った場合は、10万円以下の過料が科されます。
また、相続登記が遅れても義務違反とならない正当な理由については、具体的に定められておらず、回避できるケースは稀です。
相続登記が遅れても義務違反とならない正当な理由の例 | ・相続人に重病があり手続きが困難 ・相続に関連した裁判を行っている ・相続人が多く、調査に時間がかかる |
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しかし、相続関係の法律は複雑で、すぐに相続登記ができないケースは少なくありません。
そのため、従来よりも簡易的な申請で、相続人としての義務を果たしたとみなす方法として相続人申告登記が定められました。
相続人申告登記と相続登記の違い
相続登記とは、相続が発生した際に不動産の名義を変更する手続きのことです。
一方で、相続人申告登記は「相続が発生したことを法務局に届け出る手続き」なので、不動産の所有者が変更したことの証明にはなりません。
そのため、相続人申告登記を行っていたとしても、相続した不動産を売却するためには、遺産分割協議の終了後に相続登記を行う必要があります。
相続人申告登記 | 相続登記 | |
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目的 | 自分が相続人になることを申告する | 不動産の名義を変更する |
内容 | 不動産を管轄する法務局で行う | |
手続きの難易度 | 簡単 | 難しい |
相続人申告登記が新設された背景
相続人申告登記が新設された背景は、相続登記の申請が義務化されたことにあります。
相続登記は、相続人全員で話し合いをして誰が相続するかを決めたのち、亡くなった所有者の戸籍を出生から一式集めなければいけません。
長期間にわたり相続登記を怠っていた場合は、より手続きが複雑になるため、期限である3年を過ぎてしまう可能性があります。
そのため、相続登記が完了するまでの間「相続人であることを明確にするための制度」として、相続人申告登記が設けられました。
相続人申告登記を利用するべきケース
相続人申告登記は、相続登記が完了するまでの間、誰が相続人であるかを明確にするために行われます。
さまざまなケースで利用できますが、特に以下のようなケースに有効です。
- 遺産分割協議がまとまらないケース
- 相続人が多いケース
相続人申告登記を利用するべきケースについて、詳しく解説していきます。
遺産分割協議がまとまらないケース
遺産分割協議とは、法定相続人全員で遺産の分割割合を話し合うことです。
しかし、相続人の方針が食い違ったり、感情的な対立が生じたりする場合、相続の話がまとまらないことがあります。
そのため、遺産分割協議が長引いてしまうと、相続登記の申告期限を過ぎてしまう可能性があるでしょう。
遺産分割協議が成立するまで不動産は、相続人全員で共有している状態なので、相続人全員が相続登記の義務違反となります。
相続登記の期限に間に合わない場合は、相続人全員が相続人申告登記を行う必要がありますが、1人の相続人がほかの相続人の申告を代理で手続きすることも可能です。
相続登記の期限は相続することを知った日から3年ですが、相続人申告登記を行えば遺産分割協議が成立した日から3年になります。
相続人申告登記をしていれば、遺産分割協議がまとまらない状況でも期限に焦ることはありません。
相続人が多いケース
相続人が多いとそれぞれの意見を調整して、全員の同意を得るまでに時間がかかることがあります。
相続人の調査や確定、必要書類の準備にも時間がかかるため、相続登記の期限を過ぎてしまうかもしれません。
また、相続の手続き中に相続人の1人が亡くなってしまうと次の相続が発生するため、さらに時間がかかってしまうでしょう。
このようなリスクを回避するために相続人申告登記が定められています。
相続人申告登記を行い、登記の義務を一時的に果たしていれば、遺産分割協議中にトラブルがあっても安心です。
相続人申告登記の手続きの流れ
相続人申告登記の手続きは、以下のような流れで進めます。
- 必要な書類を集める
- 申出書を作成する
- 法務局へ書類を提出する
それぞれ詳しく解説します。
必要な書類を集める
まずは、相続人申告登記に必要な書類を集めます。
相続人申告登記に必要な書類 | ・相続人申告登記の申出書 ・被相続人が亡くなったことがわかる戸籍(除籍)謄本 ・申出人が相続人であることがわかる戸籍謄本 ・相続人の住民票 ・不動産の表示 |
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相続登記と比べると準備する書類が少ないため、それほど多くの手間はかかりません。
戸籍謄本は、本籍地または最寄りの市区町村役場で取得できます。
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本と、相続人全員の現在の戸籍謄本があれば、ほとんどの場合は問題ありません。
ただし、兄弟姉妹からの相続など、特別な場合は必要になる戸籍謄本の種類も異なります。
そのため、スムーズに相続人申告登記を終わらせたい方は、専門家への相談を検討してみてください。
申出書を作成する
次に、法務局へ提出する申出書を作成を作成します。
申出書に記載する情報 | ・被相続人の氏名 ・死亡日 ・相続人の氏名 ・住所 |
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法務局のホームページには申出書の記載例が掲載されているため、書き方がわからない方は、「申出書の記載例|法務省」を参考にしてください。
申出書の書式は法務省のホームページから取得できるようになっており、Webブラウザ上(かんたん登記申請)で作成・送信することも可能です。
なお、申出書の「申出人」の欄に複数の氏名を記載すれば、相続人全員の申出を一度に行えます。
法務局へ書類を提出する
最後に、必要な書類が揃ったら、管轄する法務局に書類を提出します。
管轄する法務局がわからない場合は、法務局のホームページで調べてみましょう。
また、法務局に直接持っていくだけでなく、郵送での申請も可能です。
郵送の場合は必要な書類を封筒に入れて「相続人申告登記申出書在中」と記載し、書留郵便で送付してください。
相続人申告登記のメリット
相続人申告登記のメリットは、主に以下の2つです。
- 期限内に相続登記の申請義務を果たせる
- 過料を回避できる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
期限内に相続登記の申請義務を果たせる
相続登記の申請をするには、相続人の調査や確定、必要書類の準備など、さまざまな手間がかかるだけでなく、登録免許税の納付も必要です。
申請の期限は相続することを知った日から3年間ありますが、複数の相続人がいれば遺産分割協議がまとまらないケースもあるでしょう。
しかし、相続人申告登記は、遺産分割協議が終わる前に申告が可能です。
相続登記よりも簡易的な手続きで申請義務を果たせることが、相続人申告登記の代表的なメリットといえます。
過料を回避できる
相続人申告登記を行うことで、相続人の申告義務は果たしていることになるため、過料の支払い義務はありません。
正当な理由なく相続登記の申請を行わなかった場合は、10万円以下の過料の対象となります。
遺産分割協議がまとまらない、相続人の関係性が複雑など、話し合いに時間がかかる場合でも過料を科される心配がありません。
ただし、相続人の義務を果たしたとみなされるのは、相続人申告登記は申告した方のみです。
相続人全員がそれぞれ申告する必要があります。
相続人申告登記のデメリット
相続人申告登記のデメリットは、主に以下の2つです。
- 将来的には相続登記が必要になる
- 登記簿に住所氏名が載る
それぞれ詳しく見ていきましょう。
将来的には相続登記が必要になる
相続人申告登記をしていれば、相続人は義務を果たしていることになります。
しかし、相続人申告登記はあくまでも簡易的な手続き措置です。
遺産分割協議が完了したあとに、相続登記を改めて行わなければいけません。
相続人申告登記を行っても相続登記を回避できるわけではないため、申請手続きの手間が2倍になるといえます。
登録免許税の支払いは一度で済みますが、必要な書類を取得する費用や、法務局までの交通費を考えるとコスト面でもデメリットがあります。
相続登記の期限は不動産の取得を知った日から3年あるため、期限に間に合わないことが確定してから、相続人申告登記を検討しても遅くはありません。
登記簿に住所氏名が載る
相続人申告登記を行うと、登記簿に申告した方の住所・氏名が掲載されます。
登記簿は法務局で誰でも取得できるため、デメリットに感じる人も多いでしょう。
また、固定資産納税通知書の送付先が明確になっていない場合は、相続人申告登記をしている相続人に送付される可能性もあります。
さらに、相続登記をしている不動産の持ち主に売却の営業をしてくる不動産業者もいます。
登記簿を取得すれば相続人申告登記をした方の住所・氏名がわかるため、営業の案内やチラシが送られてくる場合もあるでしょう。
相続人申告登記よりも相続登記を進めるほうが効率的
相続人申告登記はあくまでも一時的な措置なので、最終的には改めて相続登記を行うことになります。
勘違いしやすいポイントですが、相続人申告登記をしたからといって相続登記をしなくてもいいことにはなりません。
そのため、相続人申告登記をするよりも、初めから相続登記を申請するほうが効率的です。
遺産分割協議に時間がかかるようなケースでも、3年あれば成立する可能性が高いです。
わざわざ相続人申告登記をするよりも、正式な相続登記を完了させる方法を検討するべきでしょう。
相続登記は司法書士に相談しよう
この記事では、相続人申告登記の概要や手続きの流れ、メリット・デメリットについて詳しく解説しました。
不動産を所有している方が亡くなった場合は、相続した方が不動産の名義変更をしなければいけません。
しかし、不動産の名義変更は必要な書類が多く、法務局での手続きも難しいため、手間と時間がかかります。
もし相続について悩みがあるなら、杠(ゆずりは)司法書士法人にぜひご相談ください。
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