
相続土地国庫帰属制度とは|要件や手続き方法、費用について解説
不動産
投稿日:2025.06.23
相続土地国庫帰属制度とは、相続を通して得た土地を国に譲渡できる制度です。
管理が難しい土地を持つ方にとってはありがたい制度ですが、引き渡せる土地には要件があります。
また、費用の負担や必要書類の準備を求められるため、手軽に活用できるわけではありません。
この記事では、相続土地国庫帰属制度の概要やメリット・デメリット、手続きの流れについて詳しく解説します。
目次
相続土地国庫帰属制度とは
相続土地国庫帰属制度とは、相続を通して得た土地を国に譲渡できる制度です。
この制度は2023年4月27日から運用が開始されました。
ただし、どのような土地でも譲り渡せるわけではなく、制度を利用するためには一定の要件を満たしている必要があります。
とはいえ、活用や売却が難しい土地を相続した方にとって、有効な選択肢の一つとなる制度といえるでしょう。
相続土地国庫帰属制度が導入された背景
相続土地国庫帰属制度が導入されたのは、「活用できない土地を手放したい」と考える方が増えているためです。
近年は、人口減少により地域によっては、土地の需要も低迷しています。
土地を所有している限り、管理の手間やコストを負担し続けなければなりません。
そのため、活用が難しい土地の処分を希望する方が増加しています。
また、所有者不明土地の発生を防ぐことも、相続土地国庫帰属制度の目的の一つです。
所有者不明土地とは、相続の際に登記が行われず、所有者がわからなくなっている土地のことです。
所有者不明土地は、国や自治体による公共事業や復興事業を妨げる要因となっています。
相続土地国庫帰属制度により管理が難しい土地を国が引き取ることで、所有者不明土地の増加が抑えられ、土地の有効活用が進むと期待されています。
相続した土地の国庫帰属を申請する資格がある人
相続した土地の国庫帰属を申請できるのは、相続または遺贈(遺言による譲渡)により土地を引き継いだ相続人です。
遺贈により土地を譲り受けた場合でも、相続人でなければ申し込めません。
また、生前贈与で土地を得た人や法人の場合も制度の対象外となります。
相続土地国庫帰属制度で引き渡せる土地の要件
相続土地国庫帰属制度で国に譲り渡せるのは、相続または遺贈により引き継いだ土地に限られます。
売買など、相続以外の方法で得た土地は制度の対象になりません。
【注意】相続した土地でも引き渡せない場合がある
相続により得た土地であっても、相続土地国庫帰属制度の対象外となる場合があります。
土地に関しては数多くの要件が設けられているため、申し込み前によく確認しておきましょう。
申請時に却下される土地
次のような土地は、申請時点で却下されます。
- 建物がある土地
- 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 他人が使用する予定がある土地
- 有害物質で汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地や、所有権をめぐり争いがある土地
上記の土地は、管理に手間やコストがかかることが予想されるため、申し込みを受け付けていません。
なお、「他人が使用する予定がある土地」の具体例は、次のとおりです。
- 道路、水道用地、用悪水路、ため池として使われている土地
- 境内地
- 墓地内の土地
審査で不承認となる土地
次のような土地は申し込めるものの、制度の適用は原則として認められません。
- 一定の勾配と高さの崖がある土地
- 車両や樹木など、土地の管理を妨げる物がある土地
- 古い水道管や井戸など、除去が必要な物が地下にある土地
- 隣接する土地の所有者との争訟が必要な土地
上記以外に、次のような土地も管理に手間やコストがかかるため、承認されません。
- 土砂崩れや地割れなど、土地に起因する災害が発生している土地
- 被害を与える可能性がある動物が生息している土地
- 適切な造林・間伐・保育がされておらず、整備が必要な土地
- 国庫帰属後、通常の管理以上に費用がかかると考えられる土地
- 金銭債務を国が継承することになる土地
上記の事項に該当する土地は相続土地国庫帰属制度の適用外ですが、反対に上記に該当しない土地であれば制度の利用が原則として認められます。
相続土地国庫帰属制度のメリット
相続土地国庫帰属制度の要件は厳しいものの、適用されれば大きなメリットを得られるでしょう。
以下では、相続土地国庫帰属制度のメリットについて解説します。
選択的に土地を手放せる
必要のない土地だけを処分できることは、相続土地国庫帰属制度の大きなメリットです。
これまでは相続した土地を手放す方法として相続放棄がありましたが、相続放棄をすると土地だけでなく、ほかの財産を相続する権利も失ってしまいます。
しかし、相続土地国庫帰属制度を活用すれば、相続財産の中でも必要なものを手元に残し、不要な土地のみを国に引き渡すことが可能です。
土地の引き取り手を探す手間が省ける
相続土地国庫帰属制度では、条件を満たす土地であれば国庫に帰属されるため、相続人が自ら土地を引き取ってくれる相手を探す必要がなくなります。
利用価値がある土地でも、引き取ってくれる人を見つけることは簡単ではありません。
特に農地や山林の場合は、厳しい売却条件や需要の少なさが影響し、買い手を見つけることはさらに困難になるでしょう。
しかし、相続土地国庫帰属制度を活用すると買い手が見つからない土地でも国庫に帰属されるため、土地の引き受け先を探す手間を大幅に削減できます。
安心して土地を引き渡せる
国庫帰属後の土地の管理は国が行うため、安心して土地を任せられます。
自分で探してやっと見つけた引き取り手でも、土地を適切に扱わない人であれば、近隣住民に迷惑をかけてしまうかもしれません。
国に任せれば確実な管理が期待できるため、トラブルの心配なく土地を手放せます。
相続土地国庫帰属制度のデメリット
相続土地国庫帰属制度にはメリットがある一方で、デメリットも存在します。
相続土地国庫帰属制度のデメリットを十分に理解したうえで利用を検討しましょう。
引き渡せる土地に制限がある
相続土地国庫帰属制度には厳しい要件があり、どのような土地でも譲り渡せるわけではないことに注意が必要です。
制度の対象外となる土地でも、建物を取り壊したり管理を妨げる物を除去したりすることで、申請が認められる場合があります。
しかし、建物の取り壊しや不要な物の処分にはコストがかかるため、制度を利用するか迷う方もいるでしょう。
管理が困難で引き取り手が見つからない土地を手放したいと考える方が多い一方で、要件を満たさない土地が制度の対象外となる点は、制度が抱える課題といえます。
土地の管理や手放しを検討する際は、条件をよく確認し、専門家に相談することが重要です。
手数料や負担金などの費用がかかる
相続土地国庫帰属制度に申し込む際は、費用負担が発生します。
手続きの申請時には審査手数料を支払う必要があり、国の承認後には負担金を納めなければなりません。
審査手数料は、申請が却下された場合や審査で制度の適用が認められなかった場合も返還されないので、注意が必要です。
また、負担金は場合により想定以上の金額の納付を求められることがあります。
相続土地国庫帰属制度の申し込みには費用がかかることを理解しておきましょう。
申請や審査に手間と時間を要する
相続土地国庫帰属制度に申し込み、実際に土地が国庫に帰属されるまでには、かなりの時間を要します。
一般的に手続きの完了までには8か月程度かかるとされていますが、再審査が必要になったり、負担金の支払いが遅れたりするとさらに時間がかかることも考えられます。
また、申請にはさまざまな書類が必要です。
申請する土地に足を運び、状況が分かる写真を撮影しなければならないケースもあります。
このように、手続きに手間や時間がかかることはデメリットの一つといえます。
相続土地国庫帰属制度の手続きにかかる費用
相続土地国庫帰属制度では申請時に、審査手数料として1筆の土地あたり14,000円の納付が求められます。
また、申請が認められた場合には、10年間の管理コストを考慮した負担金を納める必要があります。
負担金の詳細は、次のとおりです。
土地の種目 | 負担金の金額 |
---|---|
宅地 | 20万円 |
田、畑 | 20万円 |
森林 | 面積に応じて算定 |
その他(雑種地、原野など) | 20万円 |
なお、宅地や田、畑でも、市街化区域や用途地域が指定されている地域などの条件に該当する場合は、土地の面積に応じて負担金が割り出される点に注意しましょう。
相続土地国庫帰属制度の手続きに必要な書類
相続土地国庫帰属制度の申し込みに必要な書類は、次のとおりです。
- 承認申請書
- 承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面
- 承認申請に係る土地及び当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真
- 承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真
- 申請者の印鑑証明書
以下の資料は任意で用意します。
- 固定資産税評価額証明書
- 承認申請土地の境界等に関する資料
- 申請土地にたどり着くことが難しい場合は現地案内図
そのほか、申請前に法務局に相談した際に提出を求められた資料があれば用意しましょう。
相続土地国庫帰属制度の利用手続きの流れ
相続土地国庫帰属制度の手続きは、次のような流れで進行します。
- 承認申請書
- 承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面
- 承認申請に係る土地及び当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真
- 承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真
- 申請者の印鑑証明書
以下では、手続きの流れについて詳しく解説します。
1.事前相談
相続土地国庫帰属制度では対象となる土地の要件が厳しく、申し込んでも却下される場合があるため、事前に法務局へ相談することをおすすめします。
相談先は原則として、申請する土地が所在する都道府県の法務局または地方法務局(本局)の不動産登記部門です。
ただし、土地が遠方にある場合などは最寄りの法務局や地方法務局でもかまいません。
相談の際は、次の書類を用意しましょう。
- 相続土地国庫帰属相談表
- 相続したい土地の状況についてのチェックシート
- 土地の状況が分かる資料や写真
1と2は、法務省のウェブサイトで取得できます。
3は登記事項証明書や登記簿謄本、法務局で取得できる地図や地積測量図、土地の写真などを用意すると良いでしょう。
2.書類の提出
事前相談の結果、制度の利用を決めた場合は、申し込みに必要な書類を準備して提出します。
書類の提出先は、申請する土地が所在する都道府県の法務局または地方法務局(本局)の不動産登記部門です。
書類は窓口に直接持参するほか、郵送でも受け付けています。
3.審査
提出された書類は審査され、必要に応じて実地調査が行われます。
審査結果は承認と不承認、いずれの場合も申請者へ通知が届きます。
4.負担金の納付
審査により承認された場合は、負担金を納めます。
納付期限は、審査結果の通知が届いた翌日から30日以内です。
期限内に納付できなかった場合は承認が取り消されるため、早めに手続きを行いましょう。
5.国庫帰属
負担金を納めた時点で申請した土地は国庫に帰属され、手続きが完了します。
なお、所有権移転登記は国が行うため、申請者が手続きする必要はありません。
相続土地国庫帰属制度に関するよくある質問
ここまで、相続土地国庫帰属制度の概要やメリット・デメリット、手続きの流れについて解説してきました。
ここからは、相続土地国庫帰属制度についてよくある質問に回答します。
制度施行前に相続した土地でも申請できる?
相続土地国庫帰属制度が施行されたのは2023年4月27日ですが、施行前に相続で得た土地についても制度の対象となります。
相続土地国庫帰属制度の申請期限はある?
相続土地国庫帰属制度に申請期限はありません。
そのため、10年以上前に相続で得た土地でも申請可能です。
ただし、申請が認められた後に納めなければならない負担金には、30日の納付期限があります。
森林や特定の条件に該当する土地は面積に応じて負担金が多くなる場合があるため、事前に試算してすぐに納付できるように負担金を用意しておきましょう。
共有持分の土地でも相続土地国庫帰属制度は適用される?
相続により得た共有持分の土地の場合、共有者の全員で共同して申請を行えば相続土地国庫帰属制度を利用できます。
なお、土地を共有している人の中に、1人でもその土地を相続で得た人がいれば制度を活用できます。
たとえば、ほかの共有者が売買で土地を得ている場合や法人が共有者に含まれる場合でも、相続で土地を得た人と共同で申請すれば問題ありません。
制度を利用する以外に、相続した土地を手放す方法はある?
相続土地国庫帰属制度の利用以外で相続した土地を手放す方法には、主に次の3つがあります。
- 売却する
- 寄付をする
- 相続放棄する
売却すると売上金を得られるため、国庫帰属を申請して負担金を納めるよりも金銭的に有利です。
ただし、土地の状況によっては買い手が見つからない可能性があります。
寄付をする場合、土地自体は無償で譲渡できます。
しかし、所有権移転登記に費用負担が発生したり、税金が課されたりする場合があることに注意しましょう。
相続放棄を選択する場合は土地以外の財産も相続できなくなってしまうため、慎重に検討する必要があります。
相続土地国庫帰属制度について相談できる専門家は?
相続土地国庫帰属制度については、司法書士や弁護士に相談できます。
司法書士は不動産登記の専門家であるため、相続登記の手続きと併せて相続土地国庫帰属制度について相談することも可能です。
また、相続土地国庫帰属制度の申請書の作成代行も依頼できます。
弁護士は申請書の作成代行に加えて遺産分割協議の調整など、相続トラブルの解決も依頼可能です。
悩みの内容や依頼したい手続きに応じて、相談先を選ぶと良いでしょう。
相続土地国庫帰属制度を利用するなら専門家に任せよう
相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈により得た土地を国に譲渡できる制度です。
活用や売却が難しい土地を相続した場合に利用したい制度ですが、国庫に帰属可能な土地には厳しい要件があり、制度の対象となる土地は限られます。
また、手数料や負担金の納付も必要なため、制度の利用を検討している場合、まずは専門家に相談しましょう。
杠(ゆずりは)司法書士法人では、相続土地国庫帰属制度をはじめ、相続に関するさまざまなご相談を承っています。
相続した土地についてお困りの方は、お気軽にご相談ください。
本記事に関する連絡先
TEL: 06-6253-7707
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