
相続登記義務化による相続放棄への影響は?注意点や手続き方法も紹介
相続
投稿日:2025.02.27
2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産の相続が発生した際は名義変更が必要となりました。
期限内に相続登記を行わなければ、ペナルティを受けるおそれがあります。
その一方で、相続放棄により不動産を引き継ぐ権利を手放すことも可能です。
相続放棄をした場合、義務化されている相続登記にはどのように対応すれば良いのでしょうか。
この記事では、相続登記義務化の概要に加え、相続放棄を行う際の注意点や手続き方法について詳しく解説します。
相続登記とは|不動産の名義を相続人に変更すること
そもそも相続登記とは、故人が所有していた不動産の名義を相続人の名義に変更することを指します。
不動産の所在地や面積、所有者の情報は法務局が管理する登記簿に記録されています。
不動産の相続が発生した際は相続登記を行い、所有権の変更があったことを法務局に知らせなければなりません。
しかし、これまで相続登記は任意とされており、不動産を相続しても名義変更されないケースが少なくありませんでした。
このような名義変更されない不動産の増加により発生していた問題を解消するために、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。
相続登記義務化の概要
相続登記義務化のポイントは次の4つです。
- 3年以内の相続登記が義務化
- 相続人申告登記制度が登場
- 罰則は10万円以下の過料
- 義務化よりも前の相続も対象
それぞれ詳しく解説します。
3年以内の相続登記が義務化
相続登記は、法定相続人が相続を開始し、不動産を所有する権利を得たことを知ってから3年以内に行う必要があります。
つまり、以下の事実の両方を知った時点から相続登記の義務が発生するといえます。
- 被相続人が死亡した事実
- 被相続人が所有していた不動産を自分が相続した事実
たとえば、被相続人が亡くなったことをそもそも知らなければ、相続登記の義務は発生しません。
また、被相続人の死亡を知っていても、被相続人が不動産を所有していたことを知らなかったケースでも相続登記の義務は課されません。
さらに、遺産分割協議の結果として不動産を取得した場合は、その協議が成立した日から3年以内に相続登記を行う必要があります。
相続人申告登記制度が登場
相続登記の義務化により新設された「相続人申告登記制度」とは、仮の相続人を申告することで、相続登記の義務を一時的に履行したとみなす制度です。
遺産分割協議が難航しているなどの理由で、相続登記の期限である3年以内に相続人が決まらないケースもあるでしょう。
そのような場合に相続人申告登記制度を利用すると、仮の相続人の氏名や住所などの情報が法務局に記録されます。
その後、正式な相続人が確定したら、その日から3年以内に相続登記を行うと義務を果たしたことになります。
相続人申告登記制度は仮の相続登記であるため、手続きが簡略化されている点が特徴です。
相続に複数人が関係する場合でも一人で申告可能であり、手続きに必要な書類も最小限で済みます。
罰則は10万円以下の過料
期限内に相続登記を完了しない場合、10万円以下の過料が課されることがあります。
過料は行政罰であり、犯罪とは異なるため前科がつくことはありません。
しかし、きちんと相続登記していれば避けられる支出です。
相続人申告登記制度といったサポート体制も整備されているので、期限内に相続登記を行うようにしましょう。
なお、過料を課されても支払わなかった場合は、不動産をはじめとした財産を差し押さえられる可能性があるため注意が必要です。
義務化よりも前の相続も対象
制度がスタートした2024年4月1日以前に発生した相続も、相続登記義務化の対象です。
2024年4月1日以前に発生した相続の場合、次のいずれか遅い日が相続登記の期限になります。
- 2024年4月1日から3年以内(2027年3月31日)
- 不動産の所有権の取得を知った日から3年以内
過去の相続でまだ登記が完了していないものがあれば、速やかに手続きを進めましょう。
相続登記義務化の背景
相続登記が義務化されたのは「所有者不明土地」が増加していたためです。
所有者不明土地とは、登記簿を見ても所有者が判明しない土地や、所有者と連絡がつかない土地を指します。
所有者不明土地は管理されずに放置されることが多く、環境や治安の悪化などをまねき、隣接する土地にも悪影響を及ぼしていました。
さらに、所有者不明土地があると防災対策工事や公共事業、復興事業が円滑に進まず、土地の有効活用が妨げられるという問題もありました。
所有者不明土地の発生原因の約3分の2を占めるのが相続登記の未完了であるため、相続登記が義務化されたのです。
相続放棄とは|財産を引き継ぐ権利を手放すこと
相続放棄とは、故人の財産を引き継ぐ権利を手放すことを指します。
相続放棄を行うと遺産を一切引き継がなくなるため、不動産を相続する権利もなくなります。
しかし、相続放棄すると相続登記の義務はどうなるのか気になる方も多いでしょう。
次から、相続放棄と相続登記の義務について解説します。
相続放棄すると相続登記義務化の対象外になる
相続放棄すると、相続登記の義務はなくなります。
相続登記とは、不動産を引き継ぐことになった法定相続人が、その不動産の新しい所有者として名義を変更する手続きです。
相続放棄すると故人から不動産を相続することがなくなるため、相続登記にも関与しなくなります。
相続放棄の注意点
相続放棄すると、相続登記の義務を負うことはなくなります。
ただし、相続放棄をする際には注意すべき点があり、判断を誤るとデメリットが生じる場合もあります。
次で解説する、相続放棄の注意点を十分に理解したうえで検討してください。
3ヶ月の期限を過ぎると相続放棄できない
相続放棄を申し立てできるのは、相続が開始したこと、つまり亡くなったことを知った時点から3ヶ月以内と定められています。
この3ヶ月の期限を過ぎると、原則として相続放棄はできません。
ただし、故人の財産を洗い出す相続財産調査が完了せず、相続放棄の判断ができない場合などは、相続放棄の申請期限を延長できる可能性があります。
また、場合によっては相続開始後3ヶ月を経過していても相続放棄できることもあるため、詳しくは専門家に相談してください。
不動産以外の財産も全て相続できなくなる
相続放棄すると、管理が大変な不動産や負債を引き継ぐ必要がなくなります。
ただし、相続する権利自体を手放すことになるため、不動産以外の遺産も全て相続できなくなります。
相続放棄では、自分がほしい財産だけを選択的に引き継ぐことはできない点に注意が必要です。
ほかの法定相続人に迷惑がかかる可能性がある
相続放棄をすると、相続の権利がほかの親族に移ることで思わぬ迷惑をかけてしまうかもしれません。
相続の順位は民法で定められており、先順位の人が相続放棄をすると、後順位の人に相続の権利が移行します。
もし親族への相談なく相続放棄をした場合、本人の認識がないまま後順位の親族が相続人になり、後々トラブルに発展するおそれがあります。
相続放棄は単独で手続きできますが、トラブルを避けるためにも親族には事前に伝えるようにしましょう。
相続放棄しても不動産の管理義務を負うケースがある
相続放棄をしても、故人が所有していた不動産を管理する義務を負うケースがあります。
相続放棄した時点で相続財産を実際に占有していた人は、引き続きその財産を管理する義務があると民法で定められています。
たとえば、故人と同居していた家族が引き続き家に住み続けている場合、家族は相続放棄しても家を管理しなければなりません。
また、相続放棄して故人の財産の管理を相続財産清算人に任せる場合も、相続財産清算人を選任して不動産を引き渡すまでは管理義務が発生します。
相続放棄後も、不動産を管理する義務が生じる可能性があることに注意しましょう。
相続土地国庫帰属制度の利用も検討する
故人の財産の中でも土地だけ手放したい場合は、「相続土地国庫帰属制度」を利用する方法もあります。
相続土地国庫帰属制度とは、相続により取得した土地を国に引き取ってもらう制度です。
この制度は相続放棄とは異なり、土地のみを選択的に手放せます。
ただし、制度の利用には次のような条件があります。
- 相続や遺贈(遺言による譲渡)により取得した土地のみが対象である
- 土地の審査手数料や管理費用となる負担金を納める必要がある
- 土地の状態により引き取れない場合がある
土地だけを手放したい場合は相続放棄の前に、相続土地国庫帰属制度の利用を検討してみましょう。
相続放棄の申述方法
実際に相続放棄をする際には、「どのような書類が必要か」「どのような手続きで進めるのか」など、わからないことも多いはずです。
以下では、相続放棄の手続きをする方法を解説します。
必要書類
相続放棄の手続きに必要な書類は、次のとおりです。
- 相続放棄の申述書
- 相続放棄する人の戸籍謄本
- 住民票の除票または戸籍の附票
- 被相続人が亡くなったことが記載されている戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本のいずれか
上記の書類以外に、家庭裁判所へ納める収入印紙800円分と連絡用の郵便切手も必要です。
また、故人の直系尊属、兄弟姉妹またはその代襲者(甥姪)が相続放棄する場合や、親族の中にすでに死亡している人がいる場合は追加で書類が必要になることもあります。
事前によく確認してから用意しましょう。
費用
相続放棄にかかる費用は、自分で手続きする場合と専門家に依頼する場合で異なります。
自分で相続放棄の手続きをする場合の費用は、戸籍謄本の取得費用などの実費のみで済むため、3,000円〜5,000円程度です。
一方で、司法書士に依頼する場合は3万円〜8万円程度、弁護士に依頼する場合は5万円〜10円程度の依頼費用が発生します。
専門家に依頼すると、書類の収集や作成などの手間を省けるうえ、安心して手続きを完了させることができます。
そのため、「自分で手続きするのは不安」「時間がない」といった場合には、専門家に依頼する選択肢も検討してみましょう。
手続き
相続放棄の手続きの流れは、次のとおりです。
- 管轄の家庭裁判所に申述書や戸籍謄本などの必要書類を提出する
- 家庭裁判所から申述人へ送付される照会書の必要事項を記入し、返送する
- 相続放棄の申述が受理されると、家庭裁判所から申述人へ受理通知書が送付される
相続放棄を申述するのは、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
相続放棄の期限である3ヶ月以内に、1の必要書類の提出までを完了させれば問題ありません。
3の受理通知書を受け取ると、相続放棄が正式に認められたことになります。
相続放棄と相続登記に関するよくある質問
ここまで、相続登記の義務化の概要や、相続放棄の注意点や申述方法について解説してきました。
以下ではは、相続放棄と相続登記に関するよくある質問に回答します。
相続放棄者がいる場合の相続登記の必要書類は?
親族に相続放棄した人がいる場合、相続登記において「相続放棄申述受理通知書」または「相続放棄申述受理証明書」の提出が必要です。
相続放棄申述受理通知書は、相続放棄の申述が受理されると家庭裁判所から申述人へ送付されるものです。
一方で、相続放棄申述受理証明書は相続放棄した人、またはほかの法定相続人が申請することで取得できます。
相続放棄申述受理証明書の申請には、申請書や発行手数料となる150円の収入印紙以外に、書類の提出が求められる場合があります。
詳細は家庭裁判所に問い合わせるのが良いでしょう。
3年以内に遺産分割協議がまとまらない場合、相続登記はどうすれば良い?
相続登記の期限である3年以内に遺産分割協議がまとまらず、相続人が決まらない場合、次の選択肢があります。
- 相続人申告登記をする
- 一度、法定相続分で登記をする
相続人申告登記をすると、相続登記の義務を果たしたとみなされます。
また、法定相続分で相続登記してから落ち着いて遺産分割協議を行い、正式な相続人が決まり次第、相続登記をし直す方法もあります。
相続登記の期限を気にせずに協議できることがメリットですが、2回分の登記費用が発生する点に注意しましょう。
相続放棄は専門家に依頼できる?
相続放棄は自分でも申請できますが、専門家に依頼して手続きを進めることも可能です。
相続放棄の手続きは、司法書士や弁護士に依頼できます。
司法書士に依頼すると、必要書類の取得や申述書の作成を任せられます。
家庭裁判所からの問い合わせ対応は申述人が行うことになりますが、手間のかかる書類の準備を任せられる点は大きなメリットです。
弁護士は書類の準備のほか、裁判所への申し立てや連絡まで依頼できます。
相続放棄の手続きを全て任せられますが、その分、依頼費用がかかります。
忙しくて相続放棄の手続きに割り当てる時間がない方や、書類の準備を負担に感じる方は、専門家への依頼がおすすめです。
相続放棄に不明点があるなら専門家に相談しよう
2024年4月1日から、3年以内の相続登記が義務化されました。
一方で、相続放棄をした人は相続登記義務化の対象外となります。
相続放棄をすると相続登記の手間からは解放されますが、不動産以外の財産まで引き継げなくなります。
また、ほかの法定相続人とのトラブルが起こったり、不動産の管理義務が残ったりするなど、思わぬ事態が発生することがあるため、相続放棄は慎重な判断が必要です。
相続放棄すべきか判断に迷うときや、相続放棄の進め方に不安があるときは専門家に相談しましょう。
相続に関係するお悩みの解決は、杠(ゆずりは)司法書士法人にお任せください。
杠(ゆずりは)司法書士法人は、豊富な専門知識をもとに最善の解決策をご提案し、相続のサポートを行います。
相続に関して疑問点がある方は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
本記事に関する連絡先
フリーダイヤル:0120-744-743
メールでのご相談はこちら >>