
相続財産調査とは?必要な費用や時間、自分で行う方法を詳しく解説
相続
投稿日:2025.02.27
親族が亡くなり、いざ相続手続きを始めようと思っても、故人の財産が把握できていなければ何も進みません。
そこで、故人の財産を漏れなく洗い出す「相続財産調査」が必要になります。
しかし、一言で財産といっても預貯金や不動産、株式など範囲は広く、「何からどうやって調べれば良いか分からない」という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、相続財産調査の概要や調査にかかる時間と費用、調査を自分で行う方法について詳しく解説します。
相続財産調査とは
相続財産調査とは、故人が所有していた財産の有無や内容を調べ、その財産を評価・査定することを指します。
相続財産調査の対象は、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。
故人の財産の全容を把握するためには、プラスの財産とマイナスの財産を全て洗い出さなければなりません。
生前に入念な準備がされていない場合、財産を一括して知る術はなく、一つひとつ丁寧に確認していく必要があります。
遺産調査との違い
相続財産調査と似た言葉に、遺産調査があります。
「遺産」とは、死後に残される財産を意味する言葉です。
遺産にはプラスの財産はもちろん、マイナスの財産も含まれるため、「相続財産」と同じ意味を表します。
したがって、相続財産調査と遺産調査は基本的に同じことを指すといえます。
相続財産調査を行うべき3つの理由
相続財産調査が必要な理由は、主に次の3つです。
- 遺産分割をスムーズに行うため
- 相続税を正しく申告するため
- 相続放棄の必要性を判断するため
それぞれの理由について詳しく説明します。
1. 遺産分割をスムーズに行うため
遺言書が残されていない場合は遺産分割協議を行い、相続人同士で遺産の分割について話し合う必要があります。
遺産を十分に把握していないまま協議を進めた結果、後になって新たな財産の存在が発覚すると、話し合いをやり直さなければなりません。
後から次々と財産が発覚する状況では、相続人の間で不信感が募り、トラブルに発展する可能性もあります。
遺産分割協議をスムーズに進めるためには、事前にきっちり相続財産調査を行い、故人の財産を確定させておくことが大切です。
2. 相続税を正しく申告するため
一定額以上の財産を相続した場合に課される相続税の正しい申告にも、遺産の正確な把握が必要です。
相続財産調査を行わなければ、「相続税の納付が必要なのか」「いくら納める必要があるのか」といったことがわかりません。
さらに、相続税を正しく納付しなければ追徴課税が発生することがあります。
正しい金額よりも少なく申告した場合は過少申告加算税、期限までに相続税の申告をしなかった場合は無申告加算税、さらに期限までに相続税を納付しなかった場合は延滞税が発生します。
このような追徴課税を回避するためにも、相続財産調査を行い、遺産の全容を把握しましょう。
3. 相続放棄の必要性を判断するため
負債を引き継ぐリスクから免れる相続放棄にも、正確な遺産の把握が欠かせません。
相続では、負債を含めた故人の財産を全て引き継ぎます。
したがって、プラスの財産よりもマイナスの財産が多ければ、相続人は負債を抱えることになります。
相続により負債を抱えるリスクを免れるための制度が相続放棄です。
相続放棄を行うと、プラスとマイナスの財産の両方を手放せることから、負債を引き継ぐリスクを回避できます。
また、プラスの財産の範囲内で負債を引き継ぎ、範囲を超えた負債を切り捨てる限定承認という制度を利用する方法もあります。
しかし、そもそも遺産の全容がわからなければ、相続放棄や限定承認の必要性を判断できません。
相続で不利益を被らないためにも、正確な財産調査が求められます。
相続財産調査にかかる時間と行う時期
故人の財産が多岐にわたり、相続財産調査に思わぬ時間がかかる場合があります。
後から慌てないよう、調査に必要な期間の目安と期限を知っておきましょう。
相続財産調査は1〜2ヶ月かかる
多種多様な財産が調査対象となるため、相続財産調査には1〜2ヶ月程度かかるのが一般的です。
対象には、以下のような財産が含まれます。
- 預貯金
- 土地
- 家屋
- 株式
- 債券
- 投資信託
- 著作権
- 特許権
- 自動車
- 貴金属
自動車や住宅のローン、未払いの税金なども調査対象であり、さらにマイナスの財産である借金についても調査を行います。
一つずつ地道に調べる必要があるため、調査には時間がかかることを覚えておきましょう。
相続財産調査は死後2ヶ月以内に完了させる
被相続人の死後はやらなければならない手続きが多いですが、相続財産調査についても死後2ヶ月以内を目安に完了させるのが良いでしょう。
理由として、相続放棄と限定承認を行える期限が3ヶ月であるためです。
相続放棄や限定承認をする場合、亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てを行わなければなりません。
手続きには、申請書に記入したり、戸籍などの必要書類を用意したりする時間も必要です。
この準備期間も考慮すると、初七日が終わった後はできるだけ早く調査を開始し、2ヶ月以内に全体の調査を終えるよう計画を立てるとスムーズです。
相続財産調査にかかる費用
相続財産調査には、自分で行う方法と専門家に頼む方法があります。
自分で行う場合、調査にかかる費用は各種書類の発行手数料程度で済むことが多いです。
一方で、専門家に頼む場合は依頼先により費用が異なります。
弁護士 | 10〜30万円程度 |
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司法書士 | 10〜30万円程度 |
税理士 | 財産額の0.5〜1.0%程度(相続税申告費用に含まれる) |
専門家への依頼費用は決して安くありませんが、調査にかかる手間や時間を省けるメリットは大きいため、選択肢の一つとして検討することをおすすめします。
相続財産調査を自分で行う方法
相続財産調査は専門家の力を借りずに、自分で調べることも可能です。
調査対象となる財産の種類は数多くありますが、そのなかでも主要な財産として以下があります。
- 預貯金の調査
- 不動産の調査
- 有価証券の調査
- 借金の調査
4つの調査方法を詳しく解説します。
預貯金の調査
預貯金の調査は、故人が利用していた金融機関を明らかにして、残高を確認する流れで行います。
1. 利用していた金融機関を特定する
遺品を調べ、利用していた可能性のある銀行や信用金庫、信用組合などを明らかにします。
過去の勤務先の給与受け取り口座やキャンペーンをきっかけに開設した口座など、思いもよらない預貯金口座が存在するものです。
次のようなものは、金融機関や口座を特定する手掛かりになります。
- キャッシュカードや通帳
- 金融機関からの郵便物
- 金融機関のノベルティグッズ
近年は、ネット銀行やインターネットバンキングを利用している方も少なくありません。
スマートフォンにアプリがないか、パソコンにサイトの閲覧履歴が残っていないか確認することが大切です。
そのほか、故人の日記や手帳も手掛かりになる可能性があります。
ただし、10年以上取引がない口座の預貯金は休眠預金になり、引き出しに手続きが必要になるため注意が必要です。
2. 金融機関がわからない場合は弁護士に照会してもらう
金融機関に関する手掛かりが見つからない場合や、把握している以外の金融機関を利用している可能性がある場合は、弁護士に依頼する方法もあります。
弁護士会を通して各機関に請求を行える「弁護士会照会」の制度を利用すると、効率的に調査を進められます。
ただし、弁護士への依頼費用が発生することに注意しましょう。
3. 亡くなったときの残高を確認する
利用していた金融機関が判明したら、死亡時点で口座に残っている金額を確認します。
通帳に記帳すると残高が分かりますが、通帳がなくても残高証明書を発行することで確認可能です。
なお、金融機関の取引履歴から別の財産の存在が明らかになることがあります。
通帳がない場合でも取引明細を発行しておくことで、ほかの財産調査に役立ちます。
不動産の調査
不動産の調査は、所有していた不動産を明らかにし、登記事項証明書で詳細を確認して評価額を算定する流れで行います。
1. 所有していた不動産を特定する
まずは、遺品を調べて所有していた土地の地番や建物の家屋番号を明らかにする必要があります。
遺品に次のようなものがないか探します。
- 固定資産税の納税通知書
- 登記済権利証(登記識別情報)
固定資産税やマンションの管理費の支払い、賃料収入による入金などの記録が残っていることがあるため、預金通帳の取引履歴も確認しましょう。
また、預貯金の調査と同様に故人のスマートフォンやパソコン、日記、手帳も確認が必要です。
2. 不動産が見つからない場合は名寄帳を取得する
固定資産税がかからない私道や山林などを所有している場合は、名寄帳(なよせちょう)を取得して確認します。
名寄帳とは、所有者別に土地や家屋に関する情報をまとめた台帳であり、非課税の不動産も掲載されています。
名寄帳は市区町村の役場で取得申請できますが、管轄内の不動産しか掲載されていません。
そのため、複数の地域に土地や家屋がある場合は、地域ごとに名寄帳を取得する必要があります。
3. 登記事項証明書を申請する
地番と家屋番号が判明したら、法務局に登記事項証明書を申請します。
登記事項証明書は登記簿謄本とも呼ばれ、不動産の種類や面積のほか、所有者や担保権者などの権利情報などが掲載されています。
調査で明らかになった土地や家屋が故人の所有物であることを登記事項証明書で確認しましょう。
4. 不動産の評価額を確認する
調査で集めた情報から、不動産の評価額を算定します。
相続税の申告に必要な評価額は、土地であれば路線価、家屋は固定資産税評価額をもとに算定されます。
遺産分割協議のための評価額の算定にはいくつかの方法がありますが、実勢価格を基準にすることがほとんどです。
有価証券の調査
有価証券とは、株式や債券、投資信託など、財産的価値を持つ証券や証書を指します。
有価証券の調査は、利用していた証券会社を明らかにし、残高を確認する流れで行います。
1. 利用していた証券会社を特定する
遺品を調べ、利用していた可能性のある証券会社を明らかにします。
故人と関係する証券会社を見つけ出す手掛かりになるのは、次のようなものです。
- 株券
- 証券会社からの郵便物
- 証券会社のノベルティグッズ
不動産の場合と同様に、預金通帳の取引履歴、スマートフォン、パソコン、手帳、日記も確認しましょう。
2. 証券会社を特定できない場合は証券保管振替機構に開示請求する
証券会社を利用しているはずなのに特定が難しいときは、証券保管振替機構に情報の開示請求を行う方法もあります。
証券保管振替機構は通称「ほふり」と呼ばれ、有価証券の管理や受け渡しなどを行っている組織です。
ほふりに登録済加入者情報の開示請求を行うと、故人が利用していた証券会社がわかります。
3. 亡くなったときの残高を確認する
証券会社に連絡して残高証明書を作成してもらい、死亡時点の有価証券の残高を明らかにします。
依頼に必要な書類や方法は証券会社により異なるため、公式サイトなどで確認しましょう。
借金の調査
借金の調査は、取引があった借入先を明らかにし、残高を確認する流れで行います。
1. 取引があった借入先を特定する
遺品を調べ、取引していた可能性のある借入先を明らかにします。
次のような物品は、借入先を見つけ出す手掛かりになります。
- 契約書
- 借入先からの郵便物
不動産や有価証券の調査と同様に、預金通帳の取引履歴、スマートフォン、パソコン、手帳、日記も手掛かりになる可能性があります。
また、税金や健康保険料などに関しても、未納がないか関係機関に確認をとることも大切です。
2. 信用情報機関に開示請求する
借入先が分からない場合や、判明したもの以外にも借金がないか確認したい場合は、信用情報機関に情報の開示請求を行います。
以下の3つの信用情報機関でクレジットやローンなどの取引履歴を管理しています。
- 株式会社日本信用情報機構(JICC)
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
- 全国銀行個人信用情報センター
これらは借入先の種類が異なるため、故人の借入情報を把握するには3機関全てに確認をとりましょう。
3. 亡くなったときの借入残高を確認する
借入先に連絡して借入金残高証明書を作成してもらい、死亡時点の残高を明らかにします。
借金の有無は3ヶ月の期限がある相続放棄や限定承認の判断に関わるため、早めに調査を進めることが重要です。
そのほかの調査
相続財産調査は、以下のような資産も対象になります。
- 動産
- 貴金属
- 自動車
- 美術品
- 家具
- 無形資産
- 著作権
- 特許権
動産については、専門家に査定を依頼するなどして評価額を算定します。
一方で無形資産は市場価値などを基準に評価額を求めますが、複雑な計算や専門知識が必要なケースがあります。
正確な評価額を算定するなら、専門家に助言を求めましょう。
相続財産調査は専門家に依頼できる
詳細な相続財産調査は労力を要し、時間も費やします。
さらに調査が正確でなければ、遺産分割協議をやり直したり再度手続きをしたりと、面倒なことになりかねません。
ミスなく正確に調査を行うなら、専門家への依頼を検討しましょう。
相続財産調査は、以下の4つの専門家に依頼できます。
- 司法書士
- 行政書士
- 税理士
- 弁護士
ただし、それぞれの専門家によって対応できる範囲が異なるので、詳しくみていきましょう。
司法書士|相続財産に不動産が含まれる場合
不動産の相続を含む場合は、不動産の名義変更や登記に詳しい司法書士へ依頼するとスムーズです。
司法書士は、相続に必要な書類を作成できるうえに、不動産の権利に関する登記書類の作成や手続きを代理できます。
不動産の相続が発生するときは、司法書士へ依頼すると迅速かつ正確な対応が期待できます。
行政書士|財産調査のみを依頼したい場合
調査のみを任せたい場合は、比較的リーズナブルな費用で対応できる行政書士への依頼がおすすめです。
行政書士には、相続放棄や遺産分割協議などに必要な書類の作成を任せられます。
費用を抑えつつ、相続財産調査の細かな手間を減らしたいときは、行政書士への依頼を検討するのも選択肢の一つです。
税理士|相続税の申告が必要な場合
相続税の申告が必要な場合は、税金の専門家である税理士への依頼が適しています。
税理士へ依頼すると、複雑な相続税もミスなく申告できます。
さらに最適な相続方法を提案してくれるため、税負担の軽減も期待できるでしょう。
相続税の負担を抑えながら正確な申告を行いたい方は、税理士への依頼が向いています。
弁護士|相続トラブルを解決したい場合
相続人同士のもめ事に発展している場合は、相続トラブル全般に対応できる弁護士に依頼する必要があります。
弁護士は相続財産調査だけでなく、トラブル時の代理交渉や調停、裁判にも対応できます。
弁護士に依頼すると、相続全般についてサポートを受けられるでしょう。
相続財産調査は専門家に相談しよう
相続手続きを進めるには、相続財産調査により故人の財産を全て洗い出す必要があります。
相続財産調査は自分でも行えますが、時間と労力を要するうえに、調査に漏れがあると面倒なことになりかねません。
故人の財産を正確に把握してスムーズに相続を進めるなら、専門家のサポートを受けるのが賢明です。
相続に関するご相談は、杠(ゆずりは)司法書士法人にお任せください。
杠(ゆずりは)司法書士法人は相続に関する豊富な知識と経験をもとに、遺産分割や不動産の相続について適切なサポートを行います。
安心して相続手続きを進めたい方は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
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