
認知症の人が作成した遺言書には効力がない?有効となるケースや作成時のポイントを解説
遺言
投稿日:2025.05.28
認知症の人でも有効な遺言書は作れるのか、不安な人も多いかもしれません。
遺言書の効力には本人の判断能力が問われるため、認知症だと無効になってしまうことがあります。
しかし、条件や対策によっては、有効な遺言書を作成することが可能です。
本記事では、認知症の人が作成した遺言書が有効・無効になるケースや作成時の注意点について、実例を交えて解説します。

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目次
認知症の人が作成した遺言書は有効?
結論、認知症の人が作成した遺言書であっても、以下2つの条件を満たせば効力が認められます。
(遺言能力)
第九百六十一条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。
引用元:民法第961条
(遺言能力)
第九百六十三条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
引用元:民法第961条
遺言能力とは、財産や家族関係を把握し、遺言によって何が起こるかを理解する力のことです。
15歳以上であり、作成時に内容を理解し判断できる遺言能力があれば有効になります。
作成時の判断能力の有無が有効性判断のポイント
特に認知症の人が書いた遺言書は、「作成時の判断能力の有無」が有効性を判断する重要なポイントです。
遺言書作成当時の判断能力が認められれば、本人が認知症であっても効力が認められます。
判断能力の有無は裁判所で争われるケースが多く、遺言内容や当時の本人の状態、医師の診断記録や証言など、さまざまな点から総合的に判定されます。
認知症の人が作成した遺言書の効力が認められる可能性が高いケース
認知症の人が作成した遺言書は、当時の判断能力があったと示せれば、効力が認められる可能性は高まります。
実際、以下のようなケースで、有効だとされた事例があります。
- 遺言作成時に意思判断能力に問題がなかったと医師や証人が証言した
- 公正証書遺言で作成し、公証人が面談で異常を認めなかった
それぞれ詳しく見ていきましょう。
遺言作成時に意思判断能力に問題がなかったと医師や証人が証言した
遺言書作成時に、「意思判断能力に問題がなかった」という証拠があると、効力が認められるケースがあります。
たとえば、長野家庭裁判所の平成24年5月の判決(養子縁組無効確認請求事件)では、認知症と診断されていた被相続人が養子縁組をした事例について、主治医や関係者の聞き取りから当時意思能力があったと認定され、有効とされました。
養子縁組の判例も、遺言書と同様に意思判断能力が争点となるため、医師など第三者の証言が有力な証拠になるとわかります。
医師の他にも、遺言書作成に立ち会った公証人や証人、周囲の親族による証言などが重要となることがあります。
遺言作成日に近い時期の医師の記録や診断書や記録も証拠になる
認知症の人が書いた遺言書の効力を示す材料として、作成日に近い時期の意思の記録や診断書も証拠になります。
「問題なく意思疎通ができる」「金銭管理を自ら行っていた」など、内容によっては意思判断能力の裏付けになります。
公正証書遺言で作成し、公証人が面談で異常を認めなかった
公正証書遺言は、公証人が本人の意思を確認して作成するため、法的な有効性が強い傾向にあります。
作成時に公証人が面談で異常を認めていなかったとして、有効になる可能性が他の遺言形式(自筆証書遺言等)と比較して高いと言えます。
東京地裁平成28年1月29日判決では、公正証書遺言の作成時点で認知症が進行していたものの、遺言内容が単純で、当時の判断能力で対応できたと判断され、遺言書は有効とされました。
ただし、これらのケースはあくまで一例であり、個々人の条件によって、判決で無効とされる可能性もあります。
認知症の人が作成した遺言書が無効と認められる可能性が高いケース
認知症の人が作成した遺言書は、当時の遺言能力がないと判定されると、無効になります。
ここでは、以下の無効になる可能性が高いケースを紹介します。
- 遺言書作成時点で判断能力が欠如していると判断されていた
- 遺言書作成時点で判断能力を証明する証拠が不足していた
- 遺言書の内容が不自然・不公平で、外部の影響を受けたと認められた
- 遺言書の記載ミスや署名・捺印の不備、誤字脱字が多かった
4つのケースについて、詳しく見ていきましょう。
遺言書作成時点で判断能力が欠如していると判断されていた
認知症の進行によって、遺言書作成時点で判断能力が欠如していると判断されていたら、無効になりやすいです。
判断能力があるかどうかは、当時の健康状況や遺言内容の複雑さ、医師の診断書や記録など、あらゆる点を考慮して判定されます。
遺言書作成時点で判断能力を証明する証拠が不足していた
遺言書作成時点の判断能力を証明する証拠が不足していた場合も、無効になるリスクがあります。
当時の判断能力を示すためには、以下のような証拠が重要です。
- 認知症のスクリーニング検査「長谷川式認知症スケール」の点数
- 医師の診断書
- 介護記録や家族の証言
特に自筆証書遺言では、当時の状況が記録に残りにくいため、これらの証拠を残しておくと安心です。
遺言書の内容が不自然・不公平で、外部の影響を受けたと認められた
遺言書が不自然・不公平な内容だった場合、強要や誘導など、外部の影響が疑われやすいです。
当時の状況と整合性のとれない内容だと、「認知症の進行により判断能力が低下し、外部の影響を受けた」として、他の相続人から遺言の無効を主張されることがあります。
たとえば「交流がほとんどなかった親族に全財産を相続させる」といった不自然さがあると、判決によって無効が認められるケースがあります。
なお、自筆証書遺言に関しては、民法第968条において全文自筆、日付、署名、押印といった厳格な方式要件が定められており、要件を満たさない場合は、形式不備により無効となります。
(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
引用元:民法第968条第1項
遺言書の記載ミスや署名・捺印の不備、誤字脱字が多かった
自筆証書遺言は、「全文自筆」「日付と氏名の記載」「押印」などの形式が決められています。
要件を満たさない遺言書は、形式不備として無効になってしまいます。
たとえば、日付の記載漏れや署名・捺印の省略、誤字脱字などに注意が必要です。
筆跡が本人のものと著しく異なっていることも判断材料になる
遺言書の形式が正しくても、署名や本文の筆跡が普段の本人の字と大きく異なっている場合、認知症の進行が疑われやすいです。
実際に 、松山地方裁判所の平成17年9月の判決(遺言無効確認請求事件)では、認知症が進行していた故人の遺言について、「全文・日付・署名が本人の自筆ではない」として、無効とされています。
認知症の遺言書が無効だった場合はどう対応する?
認知症の影響で遺言書が無効と判断された場合、相続人の基本的な対応策は以下の2つです。
- 法定相続分に従って遺産を分ける
- 法定相続人全員の合意に基づき遺産分割協議を行う
すでに遺言書に従って相続が完了していた場合でも、無効が確定すればやり直しが必要です。
相続した財産を元の相続人に返還してもらう対応が求められます。
もし協力が得られない場合は、不当利得返還請求による法的手続きも検討されます。
将来認知症と判断されたとしても効力が認められやすい遺言書作成のポイント
将来認知症と判断されたとしても、効力を否定されないようにするためには、作成時の手続きや記録の残し方が重要です。
以下では、遺言書の有効性を高めるための具体的な対策を6つご紹介します。
- 公正証書遺言を作成する
- 遺言作成当日付近の認知症の症状を証明する診断書を残す
- 遺言書を合理的かつシンプルな内容にする
- 専門家の立ち合いの元で遺言書作成を行う
- 遺言書作成時の状況を録画・録音しておく
- 遺言書の作成を家族や相続人に伝えておく
それぞれ詳しく見ていきましょう。
公正証書遺言を作成する
遺言書の種類で最も信頼性が高いのが「公正証書遺言」です。
公正証書遺言は、公証役場において公証人が本人の意思を確認しながら作成する遺言書の形式です。
作成時には、公証人と2名の証人の立ち合いが必要なため、本人に遺言能力があったことの証明がしやすくなります。
また、公正証書遺言は検認手続きが不要であるため、家庭裁判所への申し立てなしに相続手続きに進むことができるという実務上のメリットもあります。
(遺言書の検認)
第千四条 2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
引用元:民法第1004条第2項
また、公証人という法律の専門家が内容の適法性をチェックするため、形式の不備により無効となるリスクも減らせます。
遺言作成当日付近の認知症の症状を証明する診断書を残す
遺言を作成する時点での認知症の症状について、医師の診断書を取得しておくと安心です。
作成当日付近に医師の診察を受け、認知症の進行度や健康状況などの検査結果を記録しておくと、遺言能力があったことを後日証明しやすくなります。
診断書は第三者による医学的な判断として、裁判所でも評価されやすい傾向があります。
遺言書を合理的かつシンプルな内容にする
遺言書の内容も、効力が認められるかどうかに大きく影響します。
複雑すぎる内容や、一部の相続人に極端に偏った分配を指定すると、当時の本人の判断能力を疑われる可能性があります。
財産の分配はシンプルに記載し、家族構成や財産状況から見て不自然な指定は避けることがポイントです。
また、全財産を特定の相続人に遺す場合は、その理由を別紙などに残すと、本人の意思を明確に伝えられます。
内容に合理性があれば、本人の意思に基づいた遺言として裁判所にも認められやすくなります。
専門家の立ち合いの元で遺言書作成を行う
遺言書の作成時には、弁護士や司法書士などの専門家に立ち会ってもらうこともおすすめです。
専門家が同席することによって、本人が自発的かつ正当な判断のもとで遺言を作成したことの証明として信用力を高められます。
特に、相続に関する紛争が予想される場合には、第三者の立会いによる信頼性の確保が重要です。
遺言書作成時の状況を録画・録音しておく
遺言書作成時の映像や音声による記録も、有効性を補強する資料となります。
たとえば、遺言者本人が遺言書の内容を自分の口で説明する動画や、専門家の質問に対して適切に回答する様子の動画は、判断能力を裏付ける強い証拠です。
裁判に発展した場合にも、こうした映像記録は作成時に遺言能力があったことを明確に示す資料になります。
遺言書の作成を家族や相続人に伝えておく
遺言書の存在を信頼できる家族や相続人に伝えることで、遺言書の紛失や隠匿を防ぎ、相続後のトラブルを予防できます。
作成日や内容の概要、保管方法などを話しておくことで、後に相続人が遺言の無効を主張するといった相続争いを未然に抑えることが可能です。
現在認知症が疑われる人が遺言書を作成することは可能?
認知症により意思判断能力がないと判断された場合、その人が作成した遺言書は無効になります。
民法963条では「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない」と規定されており、遺言能力が認められない状態では作成が認められません。
民法961条では「15歳に達した者は、遺言をすることができる」と定められており、年齢要件を満たすことも必要です。
すでに認知症が進行している場合には、本人による遺言書の作成は事実上不可能といえます。
認知症に将来なったとしても有効性が認められる遺言書作成、現在認知症の人の遺言書作成は専門家に相談しよう!
将来認知症になっても、判断能力が認められるうちに、公正証書遺言の作成や医師の診断書の取得など適切な手続きを行えば、効力ある遺言書を残せます。
認知症によって判断能力が低下してからの作成は、無効となるリスクがあるため、専門家に相談しながら進めることが大切です。
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