相続、合併などによって取得した株式を会社に売却するよう請求できる制度
事業承継企業法務相続
|更新日:2022.12.21
投稿日:2010.07.23
会社法施行後に設立された会社の定款の条項には「当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。」(相続人等に対する売渡しの請求の規定)の記載がされていることがよくあります。
この規定は、譲渡制限のある株式のみ対象となり、会社法において新たに認められるようになった制度で定款に記載がなければ効力が生じない事項です。(相対的記載事項)会社に好ましくない者が新たに株主となることを防ぐための規定として「当会社の株式を譲渡により取得するには、○○○○の承認を受けなければならない。」という株式の譲渡制限の規定があります。
株式の譲渡制限の規定は、売買等の譲渡による場合には会社に好ましくない者が新たに株主となることを防ぐことができましたが、相続や合併などの一般承継により株式が取得された場合には、その目的が果たせませんでした。
そこで、株主に相続、合併などが発生した場合に、株式を承継した相続人、合併承継会社等に対して、その相続、合併等によって取得した株式を会社に売渡すように請求することができる制度が冒頭の定款の規定です。
この規定は、特に相続によって株式が分散されるのを防ぐために会社にとって有益な規定と言えます。
しかし、この規定を導入することには問題点もあります。売渡しを請求するためには、株主総会の決議を経なければならないのですが、当該株主総会においては、相続人は議決権を行使できないことです。
例をあげると、次のような会社があるとします。
- 発行している株式
- 100株
- 株主構成
-
株主A:持株数80株 相続人C
株主B:持株数20株 相続人D、E
通常は、支配株主であるAからの要請で、株主Bの死亡時の対策として当該規定を導入することになるかと思います。
株主Bが死亡しその所有株式が相続人D、Eに相続された場合には、会社は、株主Aのみが議決権を行使する株主総会の決議を経て相続人D、Eに対して株式を売り渡す請求をすることになります。
しかし、株主Aが先に死亡してその所有株式が相続人Cに相続された場合に、会社が株主Cに対して売渡請求をすることも当然にありえます。
この売渡請求をするための株主総会においては、株主Aの相続人であるCは議決権を行使できずこの請求を阻止できないということになってしまいます。
このように、相続人等に対する売渡しの請求の規定は、公開会社でない会社にとって有益な規定であるため、多くの会社で導入されていますが、その会社の支配株主である者の株式も対象となるため、少数株主のクーデターのリスク等もあります。
なお、相続人等に対する売渡しの請求の規定は、定款の相対的記載事項であるため、その旨の定款の定めがあることが売渡請求の要件ですが、会社法上この定款の定めを設けることができる時期については、特に限定されていません。
したがって、上記リスクを回避する方法として相続後に当該規定を設ける定款変更を行い、相続人に対して株式の売渡し請求を行うことが考えられます。
上記例でいうと、株主Bが死亡するまでは当該規定を設けず、株主Bに相続が発生してから当該規定を設け、相続人D、Eに売渡請求を行うという方法です。(但し、この方法でも法的な問題は解決できても、株主間での争いが発生する可能性はあります。)
相続人等に対する売渡しの請求の規定を設ける場合には、安易に導入するのではなく、制度を理解し、リスク等も検討したうえで導入するようにしましょう。
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