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役員の任期を10年とする際のリスク

企業法務

|更新日:2022.12.14

投稿日:2009.09.24

平成18年5月1日の会社法施行により、会社の内部自治の自由度が拡大し、機関構成、株式の種類など、会社の規模、実情に応じて選択することが可能となりました。

どのような機関設計を行うかは、会社の現状を把握し、将来像を見据えたうえで判断されると思いますが、その際、機関設計に伴うリスクについても目を向けなければなりません。

今回は役員の任期の伸長について、その手続きと内在するリスクについて述べたいと思います。

株式の譲渡について制限を設けている会社は、取締役、監査役等の役員任期を10年まで延ばすことができます。

おそらく、上場会社を除くほとんどの会社では「当社の株式を譲渡により取得する場合には、○○の承認を要する」との譲渡制限規定があると思われます。(自社の株式に譲渡制限規定があるかどうかは、法務局で取得できる履歴事項証明書の「株式の譲渡制限に関する規定」の欄の記載で確認できます。)

この譲渡制限規定があれば、株主総会の特別決議により、定款変更を行うことで役員の任期を10年まで延ばす事ができます。

これにより、2年に1回必要であった役員変更手続は、10年に1回行えば足りることになり、将来的な手続きコストの削減につながります。

しかし、役員の任期を10年としてしまうと、任期途中で役員を解任した場合、任期満了までの10年分の役員給与、賞与等を損害賠償として請求される可能性があります。

例えば、株主がある役員の業務姿勢に不満を持ち、役員を辞めてもらいたいと考えたとします。

株主と役員の関係が良好で、役員が自らの非を認め、納得のうえ辞任する場合は特に問題は生じません。

しかし、役員が納得せず、辞任について拒否をする場合は、株主総会の普通決議により、解任するほかありません。

ところで、会社法339条2項では、会社が「正当な理由」なく役員を解任したときは、解任された役員は解任によって生じた損害の賠償を請求できるとの規定があります。

このため、解任に正当な理由がないと判断される場合には、解任された役員は任期満了分までの役員報酬、賞与等を損害金として請求できることになります。

この「正当な理由」があるときとは、重大な法令違反や定款違反、心身の故障により職務を行えないとき、などの場合です。

会社法上、役員は、会社のために忠実に職務を行う義務、会社と利益が相反する行為を行う場合は会社の承認を得る義務など様々な義務を負っていますので、これらに明らかに違反するような事実があれば、解任に正当な理由ありと判断されるでしょう。

一方、単に業務姿勢や役員の経営方針に不満がある程度では、重大な義務違反があるとは言えずに「正当な理由がない」と判断される可能性もあります。

このように、役員の任期を10年とした場合には、役員と株主との間で辞める辞めないの問題が起こったときに、役員から会社に対して請求できる損害賠償額が大幅に上がってしまうおそれがあります。

なお、これに対する対策として、定款や役員規程に、役員の行うべき業務や、職務姿勢など、役員が会社に対して負う義務を具体的に規定しておけば、後日、争いが生じたときに、解任の「正当な理由」につき有利な判断がされるかもしれません。

10年という長い期間の間に思いもよらぬ事態が起こることもあります。

手続きコストは増大しますが、役員の適格性を判断するために、定期的に役員変更手続きを行うというのも、機関設計の際の重要な選択の一つです。

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