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法務局における自筆遺言書保管サービス

相続遺言

投稿日:2020.07.01

2020年7月10日から、自筆証書遺言について法務局における保管サービスが始まります。法務局における自筆証書遺言書の保管サービスは、次に記載する自筆証書遺言のこれまでのリスクを解消する制度として、注目を集めています。

1.自筆証書遺言のこれまでのリスク

これまで自筆証書遺言は、公証人などの第三者の関与無しに作成できるため、手軽に作成できる反面、保管は自らで行うため次のような管理に関するリスクがありました。

【これまでの管理に関するリスク】

  1. 遺言書が相続人に発見されない
  2. 遺言書が紛失や、破棄、汚損等により実現されない
  3. 相続人による遺言書の廃棄、偽造、隠匿等

また、自筆証書遺言はその様式が決まっており、様式不備により遺言書が無効になってしまうこともありました。

2.法務局における自筆証書遺言書の保管サービス

法務局における自筆証書遺言書の保管サービスは、その名のとおり法務局において遺言書を保管してもらうサービスです。手続時に法務局は、本人確認や様式の不備のチェックを行います。なお、遺言者は遺言書の閲覧、保管の申請の撤回を行うことができます。

また、遺言者の相続人等は、遺言者の死亡後、遺言書の証明書の交付請求や遺言書原本の閲覧請求をすることができます。なお、この場合法務局は、速やかに、当該遺言書を保管している旨を遺言者の相続人等及び遺言執行者に通知(関係遺言書保管通知)します。

なお、相続人等のうちのいずれかの方が、閲覧等をしなければ,仮に遺言者が死亡したとしても,この通知は実施されるわけではありません。法務局における自筆証書遺言の保管サービスの開始時点においては、遺言書が保管されている事実が相続人等に自動的に通知されるわけではないため、相続人等からの閲覧等がなければ自筆証書遺言が保管されていることが見逃される可能性があります。

そこで、これを補うため、令和3年以降、法務局は、遺言者の死亡の事実を把握することが可能となる仕組みによって、遺言者の死亡の事実を確認した場合には,あらかじめ遺言者が指定した者に対して,遺言書が保管されている旨を通知(死亡時の通知)することとする制度の運用を開始することとしました。

この死亡時の通知は、希望する遺言者のみについて実施することとされ、遺言書の保管の申請時に、通知対象者の指定をすることになります。通知対象者は,遺言者の推定相続人並びに遺言書に記載された受遺者等及び遺言執行者等から1名を指定することとなります。

自筆証書遺言の保管サービスを利用する場合は、遺言者本人が必ず法務局に出向く必要があります。代理人による申請や提出は、いっさい認められません。この場合の出向く法務局は、遺言者の住所地、本籍地、所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局となります。また、保管の申請を行う手数料は、その後の保管年数に関わらず、遺言書1件につき3,900円となります。

3.遺言書の保管サービスを利用する場合の注意点

法務局における遺言書の保管サービスは、法務局の職員が日付や押印の有無などの様式の不備はチェックしてくれるものの、遺言を書く能力があるか、無理にかかされていないかなどを判断してくれるわけではなく、当該遺言が有効と保証されるわけではありません。したがって、公証人や証人の立会のもとに作成される公正証書と比べて、その有効性に争いが起こる可能性があります。

また、法務局は遺言書の内容について一切アドバイスはしてくれないため、遺言者の意図に沿った内容の遺言書が作成できているとは限りません。我々も、遺言者の方の死後に相続人の方から自筆証書遺言をお預かりして、相続の手続をお手伝いさせていただくことがありますが、形式的に当該遺言書は有効ではあるものの、その内容が明確でなかったり等の理由で、遺言書の実現に苦労することが多々あります。

【遺言書の内容で苦労した事例】

  1. 遺言書に記載されている財産が特定できない。
  2. 遺言書に記載されている当事者が特定できない。
  3. 遺言者の意図が遺言書から判断できない。
  4. 遺言書作成後の事情の変化(不動産の売却、相続人の死亡等)が想定されていない。

4.おわりに

法務局における遺言書の保管サービスにより、自筆証書遺言の作成数は増えることになるかと思います。しかしながら、内容に不備がある場合には、むしろ遺言書があることにより相続人間の争いを増長させてしまうこともあります。せっかく遺言書を書いているのに、意図した遺言の効果が実現されなければ、遺言書を書いた意味が失われてしまいます。

遺言書が実現される時点においては、既に遺言者の方はお亡くなりになっているので、遺言書を修正することはできず、その思いも伝えることはできません。意図したとおりの効果を生じさせることのできる遺言書を確実に作成するためには、専門家の関与の基に作成されることが望ましいかと思います。

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北村 清孝

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