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2013.11.11
遺言書によって子に事業のための財産を残したいときの注意点とは

「事業の跡継ぎは決めているが、できれば他の子どもたちにも配慮しながら財産を残したい。」このような希望を叶えるためには、どのような遺言書を作成すればいいか、注意点をまとめながらご説明します。 

<事例>

個人事業を営んでいるOさんは、5年前に妻が他界してから現役を引退することを真剣に考え始めました。そして3年前に、自分の事業を3人息子のうちの長男Aに引き継いでもらいました。

事業を承継していく中で、Oさん名義だった事業用の不動産はすでに長男Aに贈与しています。

ただ、Oさんは自分の死後も長男Aが事業を無事に継続していけるように、他にも財産を引き継がせたいと考えています。次男B、三男Cとともに、長男Aにも残りの財産を同じように相続させたいと考えているのです。

このようなOさんの希望を叶えるためには、どのような遺言書を作成すればいいのでしょうか。注意点をまとながら、以下に説明してみます。

<ポイント1>特別受益の持戻し

今回のOさんのケースでは、相続人はA、B、Cの3名です。法律上で定められいる相続分は、各自3分の1ずつとなります。

ただし、相続人の中に「被相続人(亡くなった人)から遺贈を受け、又は婚姻や養子縁組または生計の資本として贈与を受けた者がいる」ような場合は、その贈与を受けた財産を「特別受益」として相続財産に加える必要があります。

こうした特別受益を受けた相続人は、その贈与額が相続分の価格と等しいか、超えるときは相続財産を受取ることができません。

つまり、生前に贈与を受けていた場合、「遺産の前借り」のような形とみなされて、いざ相続となったとしても「お前はもう十分にもらってるだろ」と言われてしまう危険性があるのです。このように「生前に受けた利益が、遺産のなかに戻されてしまう」ような動きを、「特別受益の持ち戻し」といいます。

今回の事例では、長男Aはすでに事業用不動産の受けています。これは「生計の資本」として、特別受益に当たる可能性が高いでしょう。

仮にOさんの死亡時に残っていた遺産が1,200万円として、長男Aが生前に受け取っている事業用不動産の財産評価が1,800万円だった場合、その1,800万円分については「特別受益の持ち戻し」が発生します。

 「死亡時の遺産1,200万円 + 持ち戻した特別受益1,800万円 = 合計3,000万円」

これが相続財産とみなされることになるのです。法定相続分は各自3分の1ですので、もしもこれに従えば1,000万円ずつ相続することになります。ただし、長男Aにはすでに「特別受益」の1,800万円の不動産が贈与されています。さきほどの法定相続分1,000万円をすでに超えているので、「その他の相続財産を長男Aが受取る」ことはもはやできません。

<ポイント2>特別受益の持戻しの免除

それでは、上記<ポイント1>のような「特別受益の持ち戻し」が起こりそうな場合には、打つ手なしなのでしょうか。実はOさんが生前にこうした「特別受益の持戻し」の規定とは異なる意思表示をしていた時には、「遺産には戻さなくていいよ」という効果が出る場合があります。このような意思表示の仕方は「特別受益の持ち戻しの免除」と呼ばれています。

ただし、すべてが「後腐れなし」で免除されるわけではないので注意が必要です。

遺留分に関する規定に反しない範囲でその意思表示は有効という決まりがあるからです。

つまり、遺産分けの話し合い対象には戻されないけれど、特定の人の「もらいすぎ」を防ぐための最低保障である「遺留分」までは逃れられないということです。

では、もしもOさんがこの意思表示をしていたらどうなるでしょうか。

まず、Aさんが生前にもらっていた「特別受益」は、Oさんからの「免除してやってね」というお墨付きがあるので、遺産に持ち戻されることはありません。ですから、残りの遺産が1,200万円だとすると、事前にもらっていた1,800万円分の特別受益があるにもかかわらず、残りの遺産にも長男Aの相続分が認められます。次男B、三男Cと等しく、400万円の法定相続分が認められるのです。

この持戻し免除の意思表示の方法は特別な方式が決められているわけではありませんが、相続トラブルを防ぐためには、遺言書でその意思を明確にしておくべきでしょう。

<ポイント3>持戻しの免除をする場合には、遺留分に注意

しかし、それではその通りに残りの遺産から3人平等に400万円ずつもらって「めでたしめでたし」かというと、そうではありません。

長男だけ「生前に1,800万円の不動産と遺産400万円の合計2,200万円」をもらって、次男と三男は「遺産400万円」しかもらえない。このようなバランスだと、他の2人が不満を持っても不思議ではありません。

そこで登場するのが、相続人にとっての最低保障である「遺留分」です。遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に認められる法律上の最低限相続できる割合のことです。子の場合は、本来の相続分の2分の1が遺留分として認められています。

いくら遺言で相続分を指定しておいても、残念ながらこの遺留分に関する規定に違反することはできません。

そして、最高の裁判によって、さきほどの「特別受益」に当たるものについては、「持戻し免除の意思表示」をしてたとしても、この「遺留分」を侵害する部分については失効するとされています。つまり、この「遺留分」を考える際には、生前の1,800万円の「特別受益」は残念ながら、免除されない決まりになっているということです。そのため、「特別受益の持戻しの免除」の意思表示がある場合でも、遺留分の額の算定に当たっては、相続財産に特別受益の財産を加えて、各相続人の遺留分額を計算することになります。

また、遺留分を請求する手続き(遺留分減殺請求)の対象財産に含めることができる「贈与」は、法律の条文上は相続開始の「1年前」に限るとされています。しかし、それとは別に最高裁の判例があるため、「特別受益」に該当する「贈与」についてだけは、1年以上前でも遺留分減殺請求の対象に含めることができるとされています。

さきほどのケースでは、遺留分の算定の基礎はやはり「相続時の財産1,200万円 + 持ち戻した特別受益1,800万円 = 合計3,000万円」となります。その半分にあたる1,500万円が「遺留分」として確保され、それが次男B、三男Cに法定相続分(3分の1)で最低保障されます。つまり、次男Bと三男Cはそれぞれ500万円分はもらっておかないとこの権利が侵害されているということになるわけです。

「特別受益の持戻しの免除」の意思表示を遺言書で表す場合には、遺留分を侵害していないか、事前に概算するなどの対応が必要でしょう。

<ポイント4>持戻し免除の理由を付記する

「持戻しの免除」の意思を遺言書で示す場合には、なぜそうするのか、免除を行う理由についても明記しておくとよいでしょう。理由を明記することで、相続人間での紛争を防ぐことに役立つ場合もあります。

特に、今回の0さんのようなケースでは、長男Aが事業を引き継ぎ、事業用不動産を取得していますが、それは同時に事業用の負債を実質的に承継しているような場合も多いものです。常に長男Aが有利であるとは言い切れず、そのあたりをよく説明しておけば、他の2人も納得がしやすいかもしれません。

以上のように、Oさんの希望を叶えるような遺言書の作成には、「特別受益」や「遺留分」への配慮などの専門知識も必要となってきます。このあたりは、できれば専門職の関与があったほうが望ましいといえるでしょう。

(坂西 涼)

 

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