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2014.02.03
認知症高齢者の起こした事故の責任

認知症の男性が線路内に立ち入り列車と衝突したために、鉄道会社に発生した損害について家族への損害賠償請求が認められた判決が、昨年大きな波紋を呼びました。今回のコラムでは、この事件についてとりあげてみたいと思います。

判決の出された事故の概要は、おおむね次のようなものでした。2007年、当時91歳の男性が、鉄道の線路内に立ち入り、列車にはねられて死亡しました。この男性は、介護保険の区分では「要介護4」で、身の回りの世話は同居する妻(当時85歳)と、近所に住む長男の妻が担っていました。また、週6日のデイサービスも利用していました。

男性が、事故を起こすことになる最後の外出をしたのは、デイサービスから帰宅した後のことでした。長男の妻は片付けの作業をしていて、高齢の妻は介護の疲れから部屋でまどろんでいたのです。その、ほんのわずかな間でした。男性が線路に入ってしまった経路は分かっていませんが、事故が原因となり、鉄道には約2時間にわたって遅れが生じました。

鉄道会社は、この家族には「事故を防止する義務があった」と主張し、損害額720万円の支払を求め、名古屋地裁に提訴しました。

裁判所は、事故被害にあった男性本人に責任能力は無く、本人の長男が介護方針を常に決定し、財産管理についても長男がしていたことなどを総合考慮して、長男が本人の監督義務者であると認定しました。そのうえで、本人の介護について、経済的に支障がまったくないにもかかわらず、民間の介護施設やホームヘルパーを利用するなどの対策を採らなかったとして、監督義務の履行違反があり、請求額全額の賠償責任を負うとしました。

また、妻についても、過去の本人の徘徊歴から、目を離さずに見守ることを怠ったとして、賠償責任を認めました。

妻と長男は、判決を不服として高等裁判所に控訴しており、今後の判決の行方が注目されるところです。

この判決の内容については、鉄道会社の損害が発生している以上、その損害の補填はされてしかるべき部分はあると思います。ただ、「全損害を家族のみが負う」というのは、過酷であるという印象がどうしても拭えないところではないでしょうか。

問題は家族のみにとどまりません。多数の入居者が暮らす介護施設、福祉施設にとっても、認知症高齢者が施設から抜け出して、徘徊する可能性は多分にあります。介護者に対してあまりに責任を追及してしまうと、「事故を起こさないためには閉じ込めるしかない」といった風潮が強くなる恐れも生じてくるでしょう。

厚生労働省の高齢者虐待のガイドラインによれば、「部屋への閉じ込め」は本人や他人の命や身体を守るためなど、緊急やむを得ない場合だけだとされています。この「例外」が、介護現場で拡大解釈されていくことは、やはり避けられるべきなのではないかと思います。

そもそも、認知症の高齢者を徘徊を完全になくすことなどできません。トラブルを防止するには、徘徊している人に気づく目、見守る目を地域の中で増やしていくという地道な努力が求められるでしょう。

実際に後見の現場でも、成年後見人が選任されている高齢者が、入居している施設から抜け出すようなケースはゼロではありません。そうした際、無事に本人を見つけ出すことができた後に、本人を施設に閉じ込めるようなことは起こりにくいでしょう。管轄の警察や近隣のコンビニエンスストア、スーパーなどと連携を取り、もし本人が外で1人で出歩いていることを見かけた場合は連絡をもらうようにするなどの事後策がとられているのが現実ではないかと思います。

認知症高齢者の方のトラブルは、「自宅でのゴミの蓄積」や「買い物の精算忘れ」など、様々なことが起こり得ます。解決策を見つけ出していくことは簡単ではありませんが、認知症への理解を深める機会が得られるように社会全体でつとめて、介護をする人たちだけに責任を押し付けて、後は知りませんということだけは避けるべきではないでしょうか。さらに、実際に認知症高齢者によって損害が生じることも事実ですから、これについては多くの人で支え合う保険などを検討することも必要となってくるでしょう。

そして、司法書士もまた「認知症高齢者の方が暮らしやすい社会への貢献」を、成年後見制度などを通じて行っていくべき立場なのではないかと考えます。

(坂西 涼)

 

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