自筆証書遺言と保管制度について
相続遺言
|更新日:2022.10.20
投稿日:2021.01.22
はじめに
2020年7月10日、自筆証書遺言書保管制度が始まりました。
人生100年時代と謳われ、終活という言葉も定着しつつある昨今、「遺言」について耳にする機会が増え、この新しく始まった制度に興味を持たれている方も多いと思われます。
一方で、興味はあるものの、実際自分自身に必要なのかどうか、またどういった方法で作成すればいいのかが分からない、という方も多いのではないでしょうか。
自筆証書遺言書保管制度の説明をする前に、遺言のことについて少しお話ししたいと思います。
遺言とは?
そもそも遺言とはいったい何なのでしょうか。
個人は亡くなったあとの自分の財産の行き先について、自分の意思で自由に決めることができます。
遺言とは、「決まった形式で示された個人の意思について、その方が亡くなった後に法的効果を与えるもの」といえます。
そして、残された相続人の間で財産の処分方法、分け方について悩むことがないように、あらかじめ定めておくことができる制度だともいえます。
特に以下のようなケースでは、いざ相続手続きをしようと思ったときに、手続きが思うように進まなかったり、もめごとが発生する可能性が高く、残された相続人の負担を軽減するためにも、遺言の必要性が高い場合だといえます。
- 子どもがおらず、配偶者に遺産を全部残したい
- 相続人がいない、または逆に大勢いる
- 離婚した相手との間に子どもがいる
- 再婚した相手に子どもがいる
- 相続人の仲がよくない、または疎遠である
- 分けにくい遺産しかない(自宅とわずかな預金しかない)
- 相続人のなかに音信不通、行方不明の方がいる
- 外国籍である
次に、遺言を作成する方法ですが、大きく分けて2種類あります。
1 遺言者が全文(相続財産の目録を除く)、日付、氏名 をご自身で書き、捺印して作成する 自筆証書遺言 と、
2 公証人のもと公正証書により作成する 公正証書遺言 です。
※公正証書遺言は公証役場でしっかりと保管されますが、これまで、自筆証書遺言は公的機関では預かってもらうことができませんでした。
しかし、今回始まった新制度で、自筆証書遺言 を 法務局(遺言書保管所)で保管してもらえるようになった、というのが今回ご紹介する制度の大きなポイントになります。
それでは、自筆証書遺言書保管制度の中身について具体的に見ていきましょう。
自筆証書遺言書保管制度について
自筆証書遺言とは、先述の通り、遺言者本人が遺言の内容の全文(相続財産の目録を除く)を自書する形式の遺言で、自分一人で作成できるという手軽さがメリットではあるのですが、保管は自分責任をもたないといけないため、次のような可能性がありました。
不安要素5つ
- せっかく遺言書を書いていても、相続人に発見してもらえない
- 遺言書の紛失・破棄・汚損等により実現されない
- 相続人により遺言書を廃棄・偽造・隠匿されてしまう
- 様式が厳格に決まっているが、様式不備により無効となってしまう
- 遺言者の死後、家庭裁判所で「検認」が必要であり、手間がかかる
自筆証書遺言書保管制度では、遺言者の本人確認および遺言書の様式の不備をチェックしたうえで、法務局(遺言書保管所)が遺言書の保管を行います。
また、法務局で保管されていた遺言書については家庭裁判所での検認が不要となるため、この制度の利用によって、上記の不安要素 の解消につながることが期待されています。
遺言者は、遺言書を保管してもらう他に、預けている遺言書の閲覧や保管の撤回の申請も行うことができます。
また、遺言者の相続人等は、遺言者が亡くなった後、遺言書の保管がなかったかの有無を確認したり、遺言書の内容の証明書の請求や遺言書原本の閲覧請求を行うことができます。
なお、相続人等が遺言書の内容の証明書の交付を受けたり、遺言書原本を閲覧した場合には、法務局からその他のすべての相続人等へ、遺言書が保管されている旨の通知がされます。
自筆証書遺言書保管制度を利用するためには
この制度によって遺言書を保管するためには、遺言者本人が、以下の必要書類を持って、管轄する法務局に出向かなければいけません。代理人による申請や郵送での申請は、一切認めらません。あくまでも本人が出向く必要がある、ということになります。
- 必要書類
- 遺言書
- 申請書(法務省HPからダウンロード、または法務局の窓口にも備え付けられています。)
- 本籍の記載のある住民票の写し等(作成後3か月以内のもの。)
- 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証、パスポート等顔写真付の本人確認書類で、有効期限内のもの。)
- 手数料(1通につき3,900円。)
遺言書は、遺言者の住所地、遺言者の本籍地、または遺言者が所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局(遺言書保管所)で保管してもらえます。
自筆証書遺言書保管制度の落とし穴
それでは、この自筆証書遺言書保管制度を使えば、自筆証書遺言のデメリットはすべて解消されたのでしょうか。実は、そういうわけではありません。
法務局での遺言書のチェックは、あくまで外形的な確認(全文、日付および氏名の自書、押印の有無等)のみで、内容について相談を行うことができません。そのため、遺言者の意図に沿った遺言書がきちんと作成できていなかったり、遺留分や税金、財産のバランスなどが考慮されていない遺言書となってしまう可能性があります。
さらに、遺言者本人に遺言書を書く能力があるかどうか(認知症等でよく分かっていない可能性はないか)、無理やり書かされたものではないか等を判断してくれるわけではなく、遺言書の有効性が保証されるものではありません。
したがって、相続人が遺言者の死後、遺言書の有効性を巡って争いを起こす可能性も考えられます。
まとめ
自筆証書遺言書保管制度により、自筆証書遺言の保管面のデメリットが大きく解消され、遺言書が遺言者の死後に、相続人の手元に渡る確実性は格段に上がりました。
きちんと残るものだからこそ、遺言者の意図したとおりの効果が実現されることがもっとも大切です。また、内容に不備のある遺言書があることで、余計な争いの火種を生んでしまうことだけは避けなければいけません。
そのためにも、遺言書の作成の際は、専門家に相談し、その指導のもと作成することが望ましいでしょう。
また、遺言者の判断能力について第三者の証言を残しておく必要性が高いなど、場合によっては、公正証書遺言の手段も検討する必要があるかもしれませんので、個別具体的なケースに応じて、2つの手段を使い分けていく必要があるといえます。
低コストで作れる自筆証書遺言を公的機関に保管してもらえるので、
遺言の見直しを頻繁にしやすくなったことは、相続人争いや不満解消の後押しにもなっていくと思われます。
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