判決による商業登記
その他
|更新日:2022.11.9
投稿日:2011.09.06
取締役等の役員を辞任し、辞任届を会社に提出したにもかかわらず、会社が登記しないため、登記簿上役員に残り続けてしまうという問題が生じたときに、どのように対処すべきでしょうか。
商業登記を申請できる者は、法務局に印鑑を届け出た者(いわゆる会社実印を届け出た者)に限られ、印鑑を届け出ることができる者は会社の代表権を有する代表取締役や支配人に限られております。
従って、役員の辞任登記の申請人も、原則は会社の代表取締役から申請を行うことになり、代表取締役が登記申請を行わない限り、辞任した役員が代わりに登記申請を行うことはできないことになります。
上記のようなケースの場合、辞任した役員は代表取締役に登記申請を命じる判決を取得しなければならないことになります。
しかし、判決を取得しても、判決を取得した元役員は登記申請を行えるのか、という問題があります。
すなわち、前述のように、商業登記申請を行える者は法務局に印鑑を届け出たものに限られ、印鑑を届け出ることができる者は会社の代表権を有する者に限られており、登記申請を行うために元役員は印鑑を法務局に届け出ることができないため、判決を取得しても登記申請ができないのではないかという問題が生じます。
不動産登記においては、条文上、判決による登記の手法が明確に定められておりますが、商業登記法においては法文上では判決による登記についての定めがありません。従って、条文上では上記問題点が解決されていないことになるのです。
ところが、判決によっても、勝訴判決を得た者ではなく、被告たる会社代表者が登記申請を行うということになれば、通常被告が素直に判決どおりに登記を行うことは期待できないため、著しく不合理なことになってしまいます。
そこで、判例及び学説では、勝訴判決を得た者は、会社を代表すべき者でなくても、会社代表者に代わって登記申請を行えるとし、この場合、登記申請手続を命じる判決によって会社代表者は登記申請についての代理権の授与が強制される結果、判決を取得した者が会社代表者の代理人として登記申請を行うことができるとしております。
当該判例を使うことによって、判決を取得した元役員は、印鑑を法務局に届け出ることができなくても、自ら判決を使って辞任登記申請を行えることになります。
法令上規定がなくとも、判決を取得した者は自ら商業登記申請を行うことができるのです。
ちなみにこの場合の登記申請書の申請人の記載の仕方は、司法書士が代理人となって申請する場合、以下のようになります。
何県何市何町何丁目何番何号
申請人 株式会社ABC
何県何市何町何丁目何番何号
代表取締役 甲野太郎
何県何市何町何丁目何番何号
上記代理人 乙野次郎 ←勝訴判決取得者
何県何市何町何丁目何番何号
上記復代理人 司法書士 丙山三郎
なお、会社法上、訴えによって無効または取消主張ができる事項について当該訴えによって確定した登記事項については、裁判所書記官による嘱託によって登記が行われるため、判決を取得した者から登記申請を行う必要はありません。
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