任意後見制度のデメリットとは?利用するべきケースや後悔しないためのポイントを解説
成年後見
投稿日:2025.01.08
将来、判断能力が低下する可能性に備え、あらかじめ自分の身の回りのことを任せる人を決めておくことのできる「任意後見制度」。
安心できる制度に思えますが、実はデメリットも存在します。そのため、任意後見制度のメリット・デメリットを理解したうえで制度を利用することが大切です。
この記事では、任意後見制度を利用する際のデメリットや後悔しないためのポイントについて詳しく解説します。誰にでも起こりうる「もしものとき」に備え、任意後見制度を正しく理解しましょう。
任意後見制度とは
「任意後見制度」は成年後見制度の一つで、判断能力が低下した人が不当な被害を受けないよう支援するための制度です。
あらかじめ「任意後見人」を選任しておくことで、実際に判断能力が低下した際に、任意後見人が本人に代わって契約の締結などを行えます。
将来認知症などによって判断能力が低下したときに備えて任意後見人を選任するケースが増えています。
任意後見制度と法定後見制度の違い
成年後見制度のうち、任意後見制度とよく比較されるのが「法定後見制度」です。
判断能力が低下した人の財産や権利を守るという目的は同じですが、その内容は大きく異なります。
最も大きな違いとして挙げられるのが、契約の有無と後見人を選任する方法です。
任意後見制度も法定後見制度も、家庭裁判所への申し立てが必要です。
ただし、任意後見制度は前提として判断能力が低下していないときに契約を締結している必要があります。
また、任意後見制度では本人が後見人を選定しますが、法定後見制度では家庭裁判所が選任します。
ほかにも、以下のような点が異なります。
任意後見制度 | 法定後見制度 | |
---|---|---|
契約の締結 | 判断能力が低下する前に契約を締結する | 契約は不要だが、家庭裁判所に申し立てを行う |
後見人の選任 | 本人が選ぶ | 家庭裁判所が選任する |
効力の開始要件 | 判断能力が低下し、任意後見監督人が選任されたとき | 判断能力が低下したとき |
後見の内容 | 契約で定めた内容 | 家庭裁判所の審判で決定する |
監督する機関 | 任意後見監督人 | 家庭裁判所 |
取消権 | なし | あり |
代理権 | 契約で定められた範囲のみ | あり |
任意後見制度の種類は3つ
任意後見制度には、以下の3つの利用形態があります。
- 将来型
- 移行型
- 即効型
希望するサポート内容や健康状態、経済状況など、ニーズや環境に合わせて本人が任意に選ぶことができます。
それぞれの特徴は、以下の通りです。
将来型
判断能力が低下した際に備えて事前に契約を締結しておき、後見が必要になった時点で任意後見監督人を申し立てする方法です。
現時点での後見については契約せず、将来に備えた契約であるというのが大きな特徴です。
本人が元気なうちに契約を締結できるので意向を反映しやすく、準備を進める猶予が生まれます。
一方で、判断能力の低下に周りが気づかないと後見がスタートできないというデメリットもあります。
移行型
任意後見契約と同時に、見守り契約や財産管理委任契約を結ぶ方法です。
判断能力があるうちは見守りや財産管理をしてもらい、判断能力の低下に沿って徐々に任意後見契約に移行していきます。
途切れることなく支援を受けられるので、本人の状況に合わせた柔軟な対応を取りやすいのが特徴です。
即効型
契約と同時に任意後見監督人の選任申し立てを行う方法です。
この場合、契約とほぼ同時期に後見が開始されます。
認知症を発症しており、判断能力が残っているうちに自分で後見人を選びたいという場合に向いている方法です。
一方で、判断能力が残っているうちに後見が開始されるので、後見人とのトラブルが起きやすいというデメリットもあります。
任意後見制度を利用するデメリット
任意後見制度は判断能力が低下している人が不当な扱いを受けないよう、財産や権利を守るという目的のもとで運用されていますが、以下のようなデメリットもあります。
- 任意後見監督人には報酬を支払う必要がある
- 死後の事務処理はできない
- 取消権は認められていない
- 判断能力が低下したあとからでは、利用できない
- 契約を開始する際は家庭裁判所への申立てをする必要がある
それぞれのデメリットについて詳しく解説します。
任意後見監督人には報酬を支払う必要がある
任意後見制度を利用するには、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てる必要があります。
任意後見監督人は任意後見人が契約内容を守っているか監督する役割を担っており、弁護士や司法書士、社会福祉士などが選任されるのが一般的です。
任意後見監督人に毎月支払う報酬は、本人が亡くなるまで発生します。
月々いくら支払うかは家庭裁判所が決定します。
死後の事務処理はできない
任意後見制度は本人が存命の間、後見を行う制度で、亡くなった時点で契約が終了します。
そのため、亡くなったあとの財産管理や相続に関する手続きは依頼できません。
埋葬や遺品整理、家の売却、相続に関するサポートなどは亡くなったあとの手続きになるため、「死後事務委任契約」という別の委任契約を結んでおく必要があります。
任意後見制度は、あくまで存命中の財産や権利を守るための契約であるという点がデメリットといえるでしょう。
取消権は認められていない
任意後見制度において、任意後見人には取消権が認められていません。
判断能力が低下している被後見人が独断で不当な契約を結んでしまったとしても、任意後見人にはその契約を取り消すことができないのです。
一方、法定後見人には取消権が認められています。
本人にとって不利な契約や行為を取り消すことができないというのは、財産や権利を守る点からみて大きなデメリットといえるでしょう。
判断能力が低下したあとからでは利用できない
任意後見制度の契約を締結するのは、本人の判断能力が失われていないというのが大前提です。
たとえば、認知症が進行して判断能力が低下してしまってからでは、任意後見制度を利用することはできず、法定後見制度しか選択できなくなります。
任意後見制度を利用するなら、まだ自分の意思で判断できるうちに手続きを進めるといった事前の準備が必要です。
契約を開始する際は家庭裁判所への申立てをする必要がある
任意後見制度の契約を開始する際には、任意後見監督人の選任が必要です。
任意後見監督人は家庭裁判所に審判を申し立てることになりますが、選任まで約1か月かかることもあります。
任意後見制度の契約を結んでも、任意後見監督人が選任されなければ効力は発生しません。
スムーズに後見を開始するためには、余裕をもって申し立てを行う必要があります。
任意後見制度を利用するメリット
任意後見制度を利用するメリットは、法的後見制度にない自由度の高さが大きなメリットといえます。
任意後見制度を利用するメリットについて見ていきましょう。
後見人を自分の意思で選べる
法定後見制度は判断能力が低下してから利用できないこともあり、後見人を自分で選ぶことはできません。
しかし、任意後見制度は本人の意志で任意後見人を選択できるため、自分にとって最も信頼できる人を後見人にできるというメリットがあります。
未成年者、破産者等、法律で一定の資格制限がありますが、基本的には家族や信頼できる第三者など、自由に選ぶことができます。
後見人に依頼したい内容を自由に決められる
任意後見制度は依頼内容の自由度が高く、自分にとって必要なサポートを細かく決めることができるのもメリットです。
たとえば、「お金の管理はしてほしいけど、住む場所は自分で選びたい」というような自分の希望に合わせて、後見人の仕事内容を決められます。
一方、法定後見制度は、民法や家庭裁判所の審判によって後見人の裁量が定められています。
また、任意後見制度では財産管理だけでなく、身上監護も本人の意思に合わせて組み込むことも可能です。
任意後見制度を利用するのがおすすめな方
これから任意後見制度を利用しようと考えている方は「自分にとって必要な制度か判断が難しい」と感じている方も多いのではないでしょうか。
任意後見制度を利用するメリットが大きいと考えられるケースを紹介します。
希望する方に任意後見人になってもらいたい方
法定後見制度では家庭裁判所が後見人を選定します。
選定されるのは弁護士や司法書士など専門知識を有する職種がほとんどですが、自分の意志で選ぶことはできません。
信頼している家族や親族、長年の付き合いがある弁護士や司法書士など、自分が希望する特定の人物に後見人になってほしいと考えるのなら、任意後見制度を利用することをおすすめします。
任意後見制度で後悔しないためのポイント
任意後見制度は自分の希望する人に後見を依頼できるだけでなく、自由度の高い支援を設計できるという大きなメリットがあります。
一方で、あとから変更がきかない要素も多いため「思っていたのと違った」と感じるケースがあるのも事実です。
任意後見制度で後悔しないためには、以下のポイントを押さえておくことが大切です。
- 見守り契約を利用することも検討する
- 家族信託の利用を検討する
それぞれ詳しく解説します。
ほかの契約を利用することも検討する
任意後見制度は判断能力が低下してから亡くなるまでの期間、不当な契約や権利侵害を受けないよう支援を行うことを目的としています。
そのため、後見が開始されるまでの期間や亡くなったあとのサポートに手薄な部分があるのは否めません。
任意後見制度の「空白期間」ともいうべき期間を埋めるための契約も、セットで検討しておくことをおすすめします。
判断能力や心身の状態、生活環境を定期的に確認する「見守り契約」は、後見を開始する時期を検討するうえでも役に立つでしょう。
また、亡くなったあとの葬儀や事務手続きを依頼するのであれば「死後事務委任契約」を結ぶのも一つの方法です。
複数の契約を組み合わせることで、よりきめ細かくニーズに沿った支援が可能になります。
家族信託の利用を検討する
家族信託とは財産管理の一つで、家族の一人に財産管理を任せる仕組みです。
財産管理を依頼する人を「委託者」、依頼を受けて財産管理を行う人を「受託者」と呼びます。
受託者を家族にするので月々のランニングコストを抑えられる点や、任意後見監督人にあたる立場の人を置く必要がないというのはメリットといえるでしょう。
ただし、家族信託の受託範囲は信託財産のみに限られており、それ以外の財産管理や療養看護に関する身上監護に関する権限はありません。
任意後見制度と家族信託の併用を検討する
家族信託は判断能力が低下する前に契約を結ばなくてはならない点や、財産管理を委託するという点は任意後見制度と似ていますが、主となる目的が大きく異なります。
家族信託が財産管理や資産継承を見据えた仕組みである一方で、任意後見制度は財産管理と身上監護を主目的としています。
より細やかな支援を行うのであれば、家族信託と任意後見制度を併用するという選択肢を検討しても良いでしょう。
任意後見制度は後見内容を自由に決められるので、家族信託の範囲から外れた部分をカバーすることも可能です。
本人・家族の意向や必要な支援、これからの生活などをよく整理して検討することをおすすめします。
任意後見制度はどこに相談する?
任意後見制度は、それぞれの状況や必要とする支援によって向き不向きがあります。
制度を利用するべきかどうか知るには、弁護士や司法書士などの専門家に相談するのがおすすめです。
任意後見制度に関するアドバイスだけでなく、公正証書の作成手続きも依頼できるので、任意後見制度に関する手続きがワンストップで完了します。
デメリットを理解したうえで任意後見制度を活用しよう!
任意後見制度は判断能力が失われる前に後見人を選定できるので、より本人の意思に沿った支援を行えるという大きなメリットがあります。
また、自由度の高い契約が可能なので、財産管理だけでなく身上監護においても細やかな支援を行えるのが特徴です。
ただし、任意後見制度には取消権が認められないことや亡くなったあとの手続きが行えないという問題もあります。
「自分たちの状況に任意後見制度が向いているのか」「どのような手続きをすれば良いか」などお悩みの方は、杠(ゆずりは)司法書士法人までお気軽にご相談ください。
本記事に関する連絡先
フリーダイヤル:0120-744-743
メールでのご相談はこちら >>