司法書士の目から見た信託不動産の取引時における留意点 (1)制度概要
不動産
|更新日:2022.12.17
投稿日:2010.07.09
平成16年の信託業法改正により、金融機関以外の一般の会社でも信託受託者となることができるようになり、また、代理店や受益権販売業者などの業種が創設されたことに伴い、信託不動産の取引機会が徐々に増えてきています。
信託不動産は実質的な所有権が受益権という債権に転じているため、その取引の形態が通常の不動産売買と異なります。
しかしながら、決済手続の進め方についてはあまり一般には知られておらず、金融機関の方や不動産業者の方からご質問をいただくことが多くあります。
今回は、不動産信託の制度概要や権利関係、信託不動産を現物で取得する際の手続留意点などについて述べたいと思います。
まず、登記簿謄本に以下のような登記がなされている信託不動産について、現在の権利関係について整理します。
登記事項証明書 甲区
甲区1番 所有権移転 平成20年1月1日売買 A建物
甲区2番 所有権移転 平成21年1月1日信託 B信託銀行
信託
信託目録
- 委託者の氏名 A建物
- 受託者の氏名 B信託銀行
- 受益者の氏名 委託者と同じ
- 受益者変更 平成21年1月1日売買 C特定目的会社
この登記簿謄本には、1.平成21年1月1日にA建物がB信託銀行に対して不動産を信託し(甲区2番)、2.同日、A建物がC特定目的会社に信託受益権を譲渡した(信託目録4番)、ということが記載されています。
この一連の流れから、平成21年1月1日の取引において、A建物がC特定目的会社に不動産を信託受益権という債権に変えて譲渡したことが読み取れます。
不動産信託とは、委託者(A建物)が受託者(B信託銀行)に不動産を信託し、その不動産から得られる利益を受益者(C特定目的会社)が享受するというものです。
不動産を信託することにより、所有権は委託者から受託者に移転します。しかし、受託者は受益者のために不動産を運用しなければならず、不動産の処分などについては受益者の指図に従う必要があります。
このため、受益権を有する受益者は信託不動産の実質的な所有者ということができます。
上記の例では、所有権者であるB信託銀行が実質的な所有者であるC特定目的会社の指示にしたがい、信託不動産の管理運営を行っていくことになります。
この際、B信託銀行が自ら管理運営を行なうのではなく、管理会社等に一括して不動産を賃貸し(マスターリース契約)、この管理会社がエンドテナントに転貸(サブリース)するという手法がよく用いられます。
このような不動産を受益権に代えて流通させるという手法は、テナントビルなど、運用利益の生ずる収益物件において増えています。
不動産を信託受益権という債権に転ずることにより、流通時の不動産取得税や登録免許税などのコストが削減でき、受益権を証券化したファンドを作ることができる点などがメリットとして挙げられます。
受益権化された信託不動産について、現在の管理運営方法を変更する必要がなければ、不動産を引き続き信託したまま、受益権の売買を行います。
一方、不動産を購入後、信託契約を解除し、自らの手で自由に処分、運用したい場合には、この債権化された不動産を再度、現物に戻す手続きが必要となります。
信託不動産の現物取得については、次の二つの方法のいずれかが取られます。
1.買主が受託者から直接買い受ける。
B信託銀行がC特定目的会社の指図により、信託契約に定められた処分方法に従い、直接、買主に対して不動産の所有権を譲渡するものです。
信託契約に定められた処分方法に従って処分することにより、信託契約は目的を達成し終了することになり、不動産が信託財産から外れます。
2.買主が受益者から信託受益権を買い受け、その後、買主と受託者との間で信託契約を解除する。
まず、C特定目的会社から買主が信託受益権を買い受けます。
その後、買主とB信託銀行との間で信託契約を解除することにより、受託者の元にあった不動産は受益者の元に戻されます。
この信託不動産の現物取得については通常の決済と異なる点が多く、次のコラムでは、その留意点を述べたいと思います。
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