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「家族信託」を利用した融資に問題はあるか

家族信託

|更新日:2022.11.1

投稿日:2014.02.17

財産の権利を柔軟にカスタマイズして活用する「家族信託」(民事信託)に注目が集まっています。しかしこの家族信託、取り組んだはよいが融資の利用には不向きである、などということにはならないのでしょうか。今回のコラムではその辺りの情報を中心に整理していきたいと思います。

1.建物の将来の建て替えへの不安

たとえば、こんな心配をされている方はおられませんでしょうか。

「マンション経営を親から引き継ぎ、これから自分が管理運営していくが、いずれどこかのタイミングで、老朽化した建物の建て替えの決断をしなければならない。

その際、建て替え資金を銀行から借り入れる必要があるが、土地建物の名義はまだ父親のままである。

父親は最近病気がちで、いざ建て替えの決断したときに、どのような状態になっているかわからない。万一親が担保提供の契約ができない状況になっていたら、計画どおり進めることができなくなるのではないか・・・。」

このように、「いざ融資契約」という段階で、不動産所有者の意思表示が困難であり、計画がそこでストップしてしまう、ということはめずらしくありません。むしろ、最近特に増えてきているように思います。

建て替えをしたい後継者にとってこれは切実な問題です。しかも、金融機関にとっても融資にあたっての物件の担保評価などにはまったく不足がない案件であったりします。

おそらく本人が健在であれば、進んで協力したに違いないのです。にもかかわらず、契約時にその意思を表せないと、話はそこで終わってしまう可能性が高くなります。

2.成年後見制度は利用しにくい

物件所有者本人の意思表示が難しい場合、本人に代わり契約ができるよう、家庭裁判所に「成年後見人」という立場の者を選任してもらうという方法があります。この成年後見制度の利用自体は、昨今急増しているものではあります。

しかしながら、この成年後見人には、本人の財産保全が何よりも求められます。返済のリスクをともなうような金融機関への担保提供についてGOサインが出されることは、なかなか簡単にはできない場合が多いのが現実です。

本人が元気なうちに、あらかじめ任意で後見人を契約で選んでおく「任意後見制度」というものもありますが、やはりこれも後見人として、裁判所や後見監督人の監督のもと、本人の財産保全を行う立場であることには変わりありません。

元気なうちの意思が反映されるので少しは柔軟になりますが、やはり借り入れなどについては必ずしもスムーズにいくとは限らないのです。

3.家族信託を利用すればどうなるか

そこで、家族信託が登場してくることになります。所有者本人が元気なときに、土地建物などの自己の財産を、息子に信託してあらかじめ名義を変えておきます。

そして、建物の解体や建築に伴う一切の行為、そのための銀行からの借り入れ行為、それに伴う担保提供行為、入居者との賃貸借契約、収益金の収受、借入金の返済などをその信託の内容としてきちんと定めておくのです。

こうすることにより、将来に本人が、たとえば認知症などで意思表示ができなくなっても、あらかじめ定めた信託の内容が効いてきます。

この内容に従い、建て替えの時期がきたら、信託されている息子の判断で、建て替えに伴う各種契約や銀行との金銭消費貸借契約、担保提供などをスムーズに行うことができるというわけです。

4.融資を受けるにあたっての課題

以上のように、家族信託の利用によって、不動産活用に伴う契約、特に銀行からの融資を受けることができる状況を、理論上は確保することができるはずです。

それでは、実際上ではどうなるのか。こうした受託者への融資行為は、現実的に可能なのでしょうか。

ひとまず今回は、この信託を受けた息子(受託者)が、はたして実際上も「銀行から融資を受けることができる立場であるかどうか」、「通常の融資と比べて銀行側にリスクはないのか」について考察してみたいと思います。

まずは大前提として、信託契約の中に、その信託内容として「不動産の建て替え行為」や「そのための借り入れ行為」が受託者の権限の範囲内として定められていることが必要となります。

受託者の権限がその信託の範囲内であって、はじめて受託者の行為が問題なく信託財産に帰属することになるからです。

そして、融資を受けるにあたり、受託者が債務者となるわけですが、契約時には「信託財産のために」することをきちんと表示して契約にのぞむことが必要です。

そもそも、契約当事者が「信託財産のために」行う契約であることを認識していなければ、受託者の借り入れ行為は、受託者自身が固有で行った契約となってしまう可能性があります。

この違いは、受託者がした契約の効果が、どこに及ぶかを決定づけてしまいますので、非常に重要です。交わされた契約は、「信託財産」に及ぶのか、それとも「受託者自身」に固有的に及ぶのか。

また、債務者である受託者への融資について、責任を持たなければならない財産の範囲が信託財産にまで及ぶのか、及ばないのか。これらの点については大きな違いであると言わざるを得ません。

ところで、受託者が「自己が債務者となる借り入れのために、信託財産を担保提供すること」について、受益者との関係で「利益相反行為ではないか」と思われるかもしれません。

しかしながら、これらの行為は全て信託の目的を果たすために行うものです。

そしてまた、受託者は受益者のために債務者になっているのであり、これらの背景から受託者の行為は、受益者との関係で利益相反行為にはならないと考えられるでしょう。

さらにこの場合、債権者が実際に債権回収をする際、まずは担保権の実行により、信託財産である土地建物から回収を図ることになると思われます。

しかし、それで不十分な場合、他に信託財産がある場合は、その財産を差し押さえることができ、受益者の受益債権に優先して回収することができます。

また、信託財産ではない受託者固有の財産からも、その差押により回収を図ることができます。

したがって、金融機関にとって、信託の受託者が債務者となって担保提供を行うことの問題は、特にないものと思われます。

ただ、収益マンションを対象とする融資の場合、もう少し突っ込んだ論点からの検証も必要でしょう。債務者の融資審査を行う際、債務者が収益金の帰属者であるかどうかがポイントとなることが多いかもしれないからです。

確かに信託の場合、「債務者」は受託者である「息子」でありながら、「収益金の実質的な帰属者」は受益者である「父親」であるため、「債務者=収益帰属者」とはならないようにも見えます。

この場合、父親が持つ受益権に質権設定などができればよいのですが、今回は父親は意思表示ができないことを前提としていますので、選択肢には入りません。

しかしながら、収益金を「いったん実際に受け取る権限」を有するのは、受託者である「息子」となります。信託の範囲内の行為として、その権限をもって受託者が受け取るものとなるのです。

もちろんこの収益金も信託財産の一部となりますが、万一、受託者による債務の返済が滞った場合には、それが逆に効いてくるのです。

なぜなら信託財産である収益金もその責任財産となるために、債権者はそれを押さえることができるのです。

またその際、受益者の受益債権(受託者から収益金を受け取ることができる権利)に優先して、いったん受託者の手元に入る信託財産から回収することができることになります。

まとめ

以上のとおり、実質上、収益金の価値も債務者の責任財産に包含されていることになるわけです。このことから、信託により受託者を債務者として融資を受ける際の問題にはならないのではないかと思われます。

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石井 満

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